人間じゃない少女と常識人
幸とその少女は神社の階段を登るしかなかった。
いきなり子供を作ってくださいと言われ、はい、と言える人間はそうはいない。幸い初対面なのは間違いなくて、素性もお互いに知らない仲なのは確認ののち証明された。
そうなると、幸が変態を家に招くどころか教えるなんてことは論外で、話し合いの末少女には退場していただくほかない。
神社の境内で適当に座れる場所を探し、とりあえず幸は落ち着いて話ができるようにする。少女は隣に来ることも、座ろうともせずに幸の前に立つと何を話そうかとそわそわしていた。
変な期待をされても困ると幸の方から早めに本題に入る。
「さっきの話だけど、」
「あ、はい! お願いします」
少女は話をすることで懇願を実現のものにしようとしていたのだろうが、そんな誤解を招きそうな言い方に幸は結論から言う。
「断る。子供を作りたいらしいけど、別の人にでも頼んでくれ」
言っていて非常識というか、最低な言い回しだと幸は自覚はしている。それでもいきなり初対面で子供を要求してくる人間相手に気を使う必要はない。
「そこをなんとかお願いできませんか?」
幸は常識的に生きている人間だ。今まで生きてきた辞書の記録にはこれほどまでに妥協で受け入れられない懇願は無かった。
「断る」
もちろん返す返事は決められている。
はっきりと伝えたことによって少女は押し黙って、地面へと視線を落とした。これ以上幸の方から掛けてやる言葉は無いし、慰めるつもりもない。むしろこの状態が出来上がっただけ少女の方からすれば奇跡に違いないのだ。
「もう遅いし帰った方が良いだろ。送ってはいけないが、気を付けて」
「ま、待ってください!」
諦めるもなにも、この状況下で尚も少女は幸の前に立ちはだかり腕を広げて引きとめてくる。
立場が逆転しているように見られる状況だったが、間違っているのは少女の方だ。女の子として、さらには人として失格だと思わざるを得ない。
だが、幸は他人のことだから言及はしない。他人と関わり合いを持つのが得意としない幸が、人間失格な少女なんてもっと願い下げだと思うのはあまりにも当たり前だった。
「どうしても……?」
少女が眼だけ動かして盗み見ても幸の意見は変わらない。
少女もそれ以上なんて言えばいいのか分からないようで、沈黙だけが積み重ねられていく。
それでも腕は広げられたまま通せんぼ。
掛けるには無駄としかいえない時間経過に仕方なく、再度幸から尋ねるしかなかった。
「どうして俺なんだ?」