VSストーカー
やはりというべきか、何事もなく授業は終わりを迎えた。
挨拶を済ませ、教員が教室から出て行った瞬間、あちこちから欠伸をする声が静かに聴こえてきた。
幸は欠伸の変わりに首を柔軟させる動きをしてから、片づけを済ませていく。
定時制で学校に通っていると、各々は人生を強く意識させ、誰かと仲良くなろうとか友達と話をしようとする意識は薄れる。だから、授業が終わると用事がある者以外帰宅の為にしか行動しない。
そうこうしているうちに数人がいなくなり遅れて幸も廊下へと進む。来たとき同様靴を履き替え、専用のロッカーへとしまう。
出口から外へと出ると、幸は窓から見えていたものとは違う夜を感じつつ、歩を進めて半分閉められている校門を抜けて学校を後にした。
あまり縁のない住宅街を過ぎ、普段使っていない道へと迂回していく。別に幸は気分でそうしたわけではない。単純に工事している道が一本あり、そこの道が数日使えなくなっているからの処置。数分の違いは出るが、それでも丘上の交通の便からしたら大した障害でもなかった。
幸が暮らす町は中心が丘を囲むような土地で、丘下と丘上の人口で別れている。当然、丘は坂が多く設備も丘下とは比べるまでもなく悪い。
それでも丘上に住む利点も存在していて、治安は格段に良いとされている。地元の人間曰く、一本道には神社へ行く道があるからだとか言われているが、実際のところは、一本道なんて逃げ場のない場所は使われない。
結局、土地の値段が安い代わりに交通の便が不便になる言い訳が作り出されただけなのだ。
幸が迂回すること数分で丘上への一本道へたどり着いた。
住宅地を歩いていた時と違い、急に増えた木々はまだまだ暖かいとは言えない夜の風に煽られざわめき立っている。
そんな神経が研ぎ澄まされてしまう感覚の中で幸は後ろから来る人の気配に気が付いた。時折後ろを振り向いて見ても誰かが居る訳ではない。
それも見えないだけで確実にいる。微かにだが足音が聞こえ、幸が止まるとその足音も止まる。
「(ふぅ)」
所詮治安が良いといっても起きるときは起きるのだ。
幸の性別が男であるから、まだ変質者の可能性が少ない。とはいえ、通り魔などの可能性に一介の警戒心は持たなくてはならなくなった。
気配を感じられるから付かず離れずといった距離、幸は肩に掛けているバッグを下げ、不測の事態には対応できるようにしておく。だが、幸は狙われる理由が思い当たらない。
暮らしが裕福どころか住み込みのアルバイトでの生活を送っているし、現在も金目のものは持ち合わせていない。せいぜい小銭が財布に入れられているだけだ。
「(まぁ、犯罪者の心理など分かるわけもないな……)」
考えられる限りの相手の思考を考え、再度足を止めて後ろを振り向いた。
それに合わせるように相手も足を止め気配を消す。
相変わらず姿は見えない。
「(さて、どうするかな……)」