もふもふ少女は狸である
「……野代さん?」
野代さんがいない。でも声は確かにしたし……
「先輩こっちです」
下から声がした。間違えようが無い、 野代さんの声だ。
下をゆっくりと見ると
「先輩ー、こっちでーす」
狸が手を振っていた。二本の後ろ足と尻尾で器用に座っている。
「…………」
どゆこと!?
え? 狸?
戸惑っていると狸は何処か寂しそうに溜息をついてからくるりとターンした。
ターン、ターン、またターン。回転速度は徐々に速まっていき、周りにあった紙が狸に張り付く。
大きなタオルが狸の周りをひらひらと舞い、狸が見えなくなった。
「やあっ!」
野代さんの声がして紙やタオルが下に落ちる。そこには……
「え?」
狸では無く野代さんがいた。
「こういう事です、先輩」
「はあ……」
つまり野代さんは狸と人間のクォーターで……狸? いや、化け狸?
そんな俺の疑問を察したのか野代さんは自分から説明を始めた。
「昨日も話した通り、私は狸と人間のクォーターです」
半分信じていなかったけどこれは信じざるを得ないだろう。
「私は絵本のように何にでも化けられるわけでは無いです。 狸人間である私はそこまで万能ではないです」
「……なるほど」
俺が呟くと野代さんは弱々しい笑顔で言う
「いきなり呼んでしまってすいません。 これで終わりです」
帰れ、という事か? でも何故?
彼女の性格上そんな事はしないと思っていたのだが……
「……あ」
ここで俺は野代さんの母親の言葉を思い出す。
『見た瞬間に逃げるなんて事だけは……しないであげて』
野代さんは俺が逃げたしたいのに無理矢理留まっている。そう考えてるんじゃないだろうか?
もしそうなら……ふざけるな。
「野代さん」
「な、何でしょう」
野代さんの声は震えている。人間として拒絶される事を恐れているような……小さくなってしまっている。
「俺、少し喉渇いちゃったな。 何か貰えないかな?」
「え……」
野代さんは信じられない物を見たような反応を示した
「え、その……」
「…………」
「でも、私は狸で……狸は私で……だから……」
俺は心の中で溜息をつく。さっきも思ったが……ふざけるな。
俺は彼女に近づいて言う。
「……何遠慮してんだ」
「……え?」
「野代さんが狸だろうと何だろうと関係無い、俺は今まで通り……可愛い後輩として接する……わかったか」
「は……はい」
いつの間にか彼女の肩を掴んでしまっていた。
てか近い! 彼女の大きい目が俺を真っ直ぐ見つめてくる。気のせいか涙を溜めてるようにも……
「あらあら、そんな事照れちゃうわ」
突然乱入してきた声に驚いて肩から手を離す。……誰!?
見るとそこには野代さんの母親
「え……と」
「そんなに情熱的に言っちゃって……でも駄目よ、私はもう人の女」
母親の発言に野代さんが顔を真っ赤にする
「お母さん! 何言ってるの!」
もちろん俺も焦って否定する
「い、今のは野代さんに言った言葉で……」
野代さんの母親は自分を指差して
「私も野代さん……なんちゃって」
「……お母さん! もう出て行って!」
野代さんの母親はお茶とお茶菓子を置くと
「それじゃ、仲良くねー」
と、野代さんに押されて出て行った。
てか俺後輩って言ったじゃん。
後輩……可愛い後輩と。
俺マジか! ヤバイ、心臓がはち切れそうだ!
「…………」
「…………」
少しの沈黙。……気まずい!
「せ、先輩……お茶、どうぞ」
「お……おう」
自分が放った言葉の恥ずかしさと間近で目があった事により激しく鳴り響く心臓。
お茶菓子の味は、あまり分からなかった。




