もふもふ少女は聞き逃げる
「ごめん、先帰ってて」
いつものメンバーと別れて先輩の教室に向かう。
手には新しく出来るスイーツのお店のチラシ。今まで見てきた感じでは先輩は甘い物が苦手では無かった筈……因みに私は好き。
先輩、来てくれるかな?
自分から異性を誘うのは始めての事で少し緊張、でも……大丈夫だよね。
「先輩の教室は……」
二年生より一階下の三年生の教室を探す。先輩、まだいるかな?
今日一日先輩の事ばかり考えしまっていた。
どうやって誘おうとか、もし行くことになったらどんな服を着よう。
とかそんな事だ。
遠目で先輩の教室を見ると残っているのは先輩と伸二さんだけ。
伸二さんの名字ってなんだっけ? 先輩が名前でしか呼ばないから……じゃ無くて
これはチャンス! 誘いやすいかも!
小走りで教室に近づく私の耳に、伸二さんの言葉が途切れ途切れに聞こえた
「野代さんが偽物で……も、お前はまだ……言えるのか?」
ドキッとして思わず身を隠す。私が偽物?
伸二さんの言葉に先輩が答える。
「それはどういう事だ? 偽物?」
「野代さんのあの姿はお前や人間を化かした姿じゃ無いのかって事だ」
「……はあ?」
「あの姿が偽りかもしれないって事だよ」
「……え」
頭の中が真っ白になった。
「偽り……ね」
先輩が呟く
「伸二、お前が聞いてるのはそれを考えた上で今まで通り接しているかって事か?」
「そんな感じだ」
先輩は溜息をついて
「そんな事は考えもしなかったな、今聞いて始めてその可能性に辿り着いた」
「じゃあ……お前はこれからどう接していくつもりだ? ……距離を置くなら早い方がいいと、俺は思う」
先輩はうーんと唸って
「そうだな……」
私は逃げ出した。
先輩があの後どう続けたかは分からない……怖くて聞けない。
もし、先輩が私と距離を置く事を選択したとしたら……
「…………」
手にはまだチラシが握られていた。
「さすがに……誘えない」
私は近くのゴミ箱にチラシを捨てる。
そして先輩から離れるように、走って家に帰った。