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勇者よ、私は忙しい  作者: 真中39
1.魔王城と魔王
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7.無敵のオカマと飛び降りた男

 魔王の持つ対・勇者用の力が二つある。『形態変化』と『時空の歪み』だが、後者しか俺は見たことがない。

 『時空の歪み』とは、魔王が自分よりレベルの高い勇者パーティをも共に飲み込むことができ、また、そこから出るには魔王を倒すしか方法がない。つまり展開した魔王自身も、死ぬことでしか「時空の歪み」から出ることは出来ない。これはこの世界で魔王だけに与えられる特別な力だ。

 ――そして、呪いと時空の歪みを跳ね返したとき、オカマパーティがしていたのは、盾を構えることだけだった。


 結局お世話仮面達は、魔王城に居る魔王全てを城から追い出すことにしたらしい。廊下が騒がしくなって、イチカが面倒くさそうに顔を歪めた。嫌な予感だ。

 クリスタルって、どういうことだ?

 だが俺の疑問に、イチカは答える気を無くしたようだった。


「イチカ!」


 案の定、彼女は俺を放ったらかしにして窓から城下に飛び降りた。羽でも付いているかのような身軽さに、負けじと喰らい付く。

 空中に身体を放り出す。40階もの高さから飛び降りれば、耳元で風がうるさくて何も聞こえない。へその裏が引っ張られる感覚は、もちろん好きではない。でもちんたら階段を降りていたら、きっとイチカはどんどん行動して、どんどん俺を置いていってしまうはずだ。死ぬ気で喰らい付いていかないとだめなのだ。もう、16年前から。


「イチカ!」


 地面に着いて、身体に衝撃が走る。だが骨が折れるほどではない。いつからか俺は、並の人間では到底持てないであろう強靭な身体を手に入れていた。地面に突き刺さった黒いブーツを引っこ抜く。

 でもそんな俺をイチカは気にくわないようで、じとっとした目で俺を見てきた。冷たい視線にめげそうになる……が、めげない。喰らい付かなければ。


「クリスタルってどういうことだ?」

「だから、あいつらがクリスタルを持ってるかもって言ってんの」

「何で?」

「だってありえないよ。魔王の時空の歪みまで跳ね返すなんて。ありえない力がどっかで働いてるんだよ」


 確かに、と思った。今まで見てきた勇者と魔王の闘い。『時空の歪み』に対抗出来た勇者はいない。それはこの世界のルールから外れたもののせいだと、イチカは考えたらしい。だからオカマ勇者のもとへ行こうと言っているのだ。

 だが、俺は喧騒の中で声を大きくした。


「でもどうするんだ? これ」


 魔物の居住する家の屋根の上に俺たちはいるが、その下には惨劇が広がっている。

 大馬鹿野郎のお世話仮面は、魔王城から全ての魔王を追い出すことにしたらしい。魔王が二人瞬殺されたとはいえ、やりすぎだ。


「ヒャッハ――――――!!」


 おかげで城下は世紀末状態。今の叫び声は最近レベル90に下がった、凄まじく強く残忍な魔王の声である。そいつは「祭りじゃー」と叫びながら、そばにいる魔物や魔王をかたっぱしから吊るし上げ、腹を裂いて道をグロテスクな様相に仕上げていた。じっと見ていると嘔吐する自信がある。


 城下の至る所で高レベルの魔王が好き勝手し始め、正直、おっさんパーティどころではない。低レベルの魔王は、生存確保のために魔物の汚い家に逃げ込んでいる。高レベルの魔王達が部屋から追い出された鬱憤晴らしに、そこら辺を手当たり次第に破壊しているからだ。

 これではイチカもオカマパーティと真剣に向き合うことは出来ないだろう。魔王イチカのレベルは81だ。オカマパーティに殺されるようなレベルではないが、殺すことができるレベルでもない。それには、悲しい魔王の性質が関わっている。


 勇者には相当なアドバンテージがあって(イチカは主人公補正と呼んでいた)、それは魔王にとって圧倒的ハンデとも言える。例えば、勇者はわりと死ぬ、ほんとに死ぬ一撃を受けても立ち上がる特性があるが、これは魔王側からしてみれば死活問題だ。勇者がゾンビに見えるらしい。必死になって相手を殺す攻撃を繰り出しても、頑張って起き上がってくる勇者には、絶望を感じ心を折られる魔王が絶たない。魔王だって絶望に打ちひしがれたりするのだ。

 そして、長きにわたって争いを重ねてきた勇者と魔王の歴史において、この特性は数字をもって法則化された。


『レベル差60以内の勇者は殺せない』


 つまり魔王のレベルが90あっても、30以上のレベルの勇者を殺すことは出来ないのだ。詳しく言えば、30以上のレベルの勇者にどんな致命傷を与えても、奴らは気力で立ち上がってくる。勇者ってすごい。

 これが魔王が無双できる期間が短い理由だ。60レベルを下回る魔王は、生まれて間もない勇者を殺すことすら出来ないのだから。


 つまり、イチカがオカマ勇者からクリスタルを奪うには、工夫が必要になるということだ。


「どうするんだ?」


 俺はどうすれば良いのかさっぱり分からなくて、イチカに疑問を投げかけた。対するイチカはやっぱりというか、少しも困ってなどいなかった。

 どんなときも活路を見出す力が、イチカには備わっている。それは魔王としての力ではなくて、彼女個人の力だ。


「お祭り状態なら、お祭りらしく楽しくやればいいんじゃない」


 イチカの目が、少ない光を取り込んで力強く光った。俺は安心して、イチカの言う通りこの状況を楽しむことにする。


「オカマ祭りか!」


 俺の言葉に、何故かイチカは目を淀ませて答えなかった。







「いやああああああ!」


 オカマパーティは破竹の勢いで、ごちゃ混ぜの魔王と魔物の集団を吹き飛ばしていた。イチカは屋根の上からパーティを観察することにしたらしい。俺達と同じように、家屋の上には何人もの魔王達が陣取り、オカマ達の隙を突こうと狙っている。

 オカマパーティは甲高い悲鳴をあげながら、それでも決して倒れることはない。皆勇者の背に隠れて逃げに徹している。デカいおっさん三人がデカいおっさんの背中の影に収まろうとしているのは、なんとも滑稽な状況だ。無理がある。


「死ね!」


 つくづく無敵だと思う。あの勇者パーティは今、剣撃を跳ね返している。

 魔王は必ずしも呪いばかりを使うのではなくて、自身の鋭い爪や牙を使う者や、禍々しい剣や斧を使う者もいる。イチカはちょっと珍しく、賢者や聖者の使う『魔法』に特化した魔王だ。

 今も重そうな黒い剣が勇者に向かって振り下ろされたが、彼は顔をゆがめて盾を構えた。


「うぉっ!」


 するとどうだろう。キンという鋭い音と共に、黒剣は跳ね返されて何のダメージも与えられない。むしろ剣を振り下ろした魔王は肩を抑えて、呻き声をあげながら後退した。


「何もかも跳ね返す。しかも跳ね返すだけじゃなくて、さらに威力を付け足す、と。……嫌な力だね」

「……」


 イチカがそう言い、俺は目を細めてオカマパーティを見下ろした。

 あまり長々としていられないのは、イチカも分かっているだろう。恐ろしい高レベルの魔王の笑い声が、後ろから聞こえてきた。

 オカマ勇者はずっと盾を構えている。この盾というのは、ざっくりと荒削りな褐色の木材で出来ていて、中央に金色の水晶が輝いていた。装飾として埋め込まれているのではなくて、何故か鉱山から生えるように盾から生えている。しかも盾とは衝撃を軽減するためのものなので、面は表にそって反っているはずだ。なのにあの盾は側面から見たら真っ直ぐ。よく見たら盾の裏側に持ち手がないし。盾というより板だ。

 俺はそこまで観察して、はて、と首を傾げた。


「……あの盾の模様、俺見たことあるぞ」


 イチカが振り向き、俺は顎に手を当てる。


「ほんとに?」

「うん、最近見た。水晶がにょきにょきしてるやつ。何で見たんだ?」

「何で見たのよ」

「うむ……」


 なんだろう、最近見たけど、何で見たんだっけ?俺はうむむと考え込む。イチカは数秒俺をじっと見ていたが、気長に待つことにしてくれたらしい。

 最近見たけど、現物を見たわけじゃない。絵だ。絵で俺はあれを見た。なら、本。

 俺はピンときて、思わずイチカに詰め寄った。


「思い出したぞ! あれ、隣の国の国旗だ」

「国旗ィ?」


 イチカが目元をきつくしたので、俺は慌てて鎧の中から本を取り出した。気の変わりやすいイチカにいつでもついていけるように、俺は読み途中の本を鎧の中にしまう癖がある。ちなみにこれは旅行記で、午前中にイチカの部屋で読んでいたものだった。


「さっき言っただろう。超暴れる超硬いイチイの木が生える島があるって。その島のある国の国旗があれなんだ」


 パラパラとめくったページに、隣の国の城の絵が載っていた。


「その国の城は、偉大な魔法使いの魔法によってどんな脅威にも犯されることがないらしい。難攻不落の城で有名だ。ほら」


 早口で説明して絵のページを指差すと、イチカは急に背伸びをして、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でてきた。


「!!」

「サキ! やった! すごい! わお!」

「……」


 華やかな笑顔を見せるイチカが、目の前にいる。彼女の甘い匂いが漂った。正直、嬉しい。

 でもなんだろう。イチカは何がそんなに嬉しかったのか、俺には分からない。首を傾げると、彼女は背伸びをして俺に耳打ちをした。思わず腰を折る。胸が鳴った。


 イチカの言ったことは相変わらずよく分からなかったが、嬉しかった俺はとりあえず了承した。


「――とにかく手伝って、サキ!」

「……分かった。とにかくあいつらの気を引けばいいのか?」

「そうそう」


 俺はは頷いて、身軽に屋根から飛び降りた。イチカも同時に動く。


「新手の魔王ね!」


 金髪に紅い目、真っ黒の鎧の俺は、ぱっと見ただけでは普通に魔王なのだろう。魔王特有の瘴気が肌の周りに漂っていないし、レベルも開示されていないが、オカマ勇者はそれに気づいていない。だがまあ、この状況の中で一般人がうろちょろしてるなんて露とは思わないだろう。

 オカマパーティの正面に立った俺は、腰に携えている剣を抜いた。清澄さを漂わせる細身の剣。俺の愛剣だ。だが、やる気まんまんの俺を尻目に、奴らは黄色い声を上げた。


「カワイイ魔王ね」

「カワイイわ!」

「でも見て! 一部がハゲてる!」

「ハゲてる!」


 なんだと!あ、隠すの忘れてた。

 俺が動揺して身体を揺らしたところで、イチカが屋根から音を立てないように飛び降りた。俺とオカマパーティを挟んで反対側。オカマパーティの後ろ側である。気を取り直した。


「ファーラ!」


 俺に油断したのだろう。この野郎。

 オカマパーティの賢者が勇者の後ろから杖を振り下ろした。賢者の杖先から燃え盛る火の玉が現れ、俺はそれを避ける。なんてことのない攻撃だ。やっぱり奴らは、魔王城にやって来るほどの実力は持ち合わせていない。

 しかし、イチカはそれを目を丸くして見ていた。展開していた魔法も引っ込めてしまう。


「?」


 俺はイチカに疑問の視線を飛ばしたが、彼女は魔法の代わりに、ポケットから小さなガラス瓶を取り出して放り投げた。


「!」


 俺はあっと口を開く。金色の小瓶の中身は、さっきイチカが作った金色水晶(エチルクォーツ)の生成薬だ。


「なに⁉︎」


 それは油断して体勢を崩していたオカマ勇者の、盾の裏側に命中した。


「サキ!」


 イチカに鋭く名前を呼ばれ、俺は家屋の裏側に素早く退散した。イチカの計画に何か支障があったらしい。びっくりしたオカマパーティが、一斉にイチカの方を振り返った。


「あっ」


 俺は驚く。そのときに勇者の盾の裏側には、表と同じ金色水晶(エチルクォーツ)がにょきにょきと生えていたからだ。

 イチカは唇を歪ませて、地面に手をつく。


「何よあんた!」

「……今日は祭りだから」


 魔法が展開していく。イチカの展開式は、美しい。地面にはバキバキと亀裂が走り、それは蛇のようにパーティに向かっていった。


「え⁉︎ 何よ!」


 彼らが顔を驚愕に歪ませた瞬間、黄土色の地面は盛り上がってオカマ勇者達の足場を崩した。ああ、そうか。地面からなら――。

 魔王達の喧騒は、歓喜に色づいてつかのま活気にあふれた。

 イチカは含み笑いをしたまま、スカートを翻してそのまま逃げ出した。計画は変更だ。聡明な彼女は、何か大変なことに気づいたのだ。

 彼女が路地裏に逃げ込んだとき、後ろからオカマパーティの悲鳴が聞こえてきた。


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