表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第二話

ーーとてもじゃないが、減る腹。

 まだこの世界に来てそれほど経ってはいないのだが、これだけ身体を動かせば腹が減る。当たり前だ。


「ここら辺で食料は無いのか?」

「真っ直ぐ行けばどっかに着くんじゃないか?」


「わ、分かった。後、人がいるところでお前は話すな」

「えっ……」

「聞かないとこの剣捨てるぞ」

「分かった」

 いやぁ、最強の男(?)も弱点さえ知ればどうってこと無いな。

 光が見えてくる。勿論朝日ではない。街の光だ。コイツのカンは冴えている。まだ明るいから今は真夜中では無いのか。

 

 街の入り口に一人の影があった。がたいの良い男だ。


「お? お前、旅人か?」

「……ああ、まあな」


 その男は俺を見つけると、俺に興味を示してくれたようだ。丁度いい。宿の交渉でも……。

「おう、お前家はあるのか? 食料も」

「一文無しだ。魔物に奪われちまってな」

「そんな知能の高い魔物がいるとは……。うちに泊まりな」


「本当ですか!?」

「ついて来い」

 作戦成功だ。今日のお宿はこの人の家だな。


「俺の名前はクリスだ。お前は?」

「俺はな…………マキ」


 真っ赤な嘘。反省はしているが後悔はしていない。因みに本名は飯島いいじま誠司せいじ


「珍しい名前だな。覚えておこう」

 と呟きながら歩き続ける。この男は、俺の名前が珍しく無かったら覚えようともしなかったらしい。

 街並、ってもここは村なのだろう。木で造られた家。あまり整備されていない道、柵で囲まれ、じっとしている、牛。遠くまで広がる、畑。村だな、これは。





「ここが俺の家だ」

 中でも少し目立っている家が、このクリスの家らしい。目立っている理由はその大きさだろうか。まさかクリス、村長か……?


「おじゃまします」

「ほら、入口近くのその部屋使え」


「あ、どうも」

 そこそこの大きさの部屋だった。予想通り木材の床であったが、ベッドもあって、しっかりしている。

「今日は遅いし、もう寝た方が良い。このおにぎりやるから。じゃあおやすみ」

「おやすみなさい」


「危ない」

 壁に立て掛けようとした剣が反応した。

「その飯を口に含むんじゃない」

「は?」


「それには毒が含まれている、死ぬぞ」

「いや、意味が分からないんだが」


「村ってのはそう言うもんだ。怪しむのが当たり前なんだよ」

「じゃあ何でこれが毒って分かったんだよ」


 マキと話している間に部屋の外でドタドタと物音が聞こえた。

「お前、話してるのがバレたみたいだな。俺は身体を動かせないからサポートは難しい。だがこれは分かる、このドアを突き破ってお前を餌にするつもりだ。死にたくなければ、窓を割って逃げるか、ここで待ち伏せにするか」


「うん、どうせ相手に背を向けたら負けなんだろ。なら相手を殺さない程度に懲らしめて、ここを俺の大帝国の入口にするんだッ!」


「おし、ここのドアだ! 気を引き締めろ。久し振りの客だ、絶対に殺すな! うおおおお!」

 相手も同じ考えか。戦うしかない。

 そんな事を考えている間にドアがあっという間に突き破られる。俺に向かって剣を振るその姿は哀れだ。


「何が殺すだ。身の危険を感じない程、バカなお前らはマキ様の大帝国の奴隷に相応しい」

 マキは俺では無く、この剣だ。しかしこの剣を俺が所有している以上、俺をマキと名乗って悪い事等無い、多分。


「おらぁ!」

 クリスまで物騒な顔つきで短剣を振り上げた。ギリギリで避けられたが、大きく後退りして段々壁際に追い詰められる。


 これはある程度の広さのある客室でも狭いと感じるな。

 外で戦闘を行うのが堅実かも知れない。マキに言われた通り、窓を突き破った方が良かったか。


「だがもう遅い!!」

 クリスに対し、剣を振る。勿論切り刻む様な事は絶対に出来ないから、少々弱気で。

 案の定避けると共に少し引き下がった様に見えた。ここからどうするか。


「おいマキ、どうするんだよ」

「俺は二つの逃げ道を話したぞ。窓を突き破るか、待ち伏せするか。お前は待ち伏せを選んだ。必ず勝機はある」


 全くアドバイスになってない。大帝国の入口は止めて、こいつらを斬ってしまう事にしよう。

 目を瞑りながら相手を斬る。斬った時、何かの感触。ゴブリンを斬った時と同じだ。コイツはまさか……、魔物か?

 ゆっくり目を開けると、そこには青い液体を出しながら、野獣の姿となったクリスが居た。

「グォォォォォォ」


「斬れ。お前がやられる」

 

 マキの助言で目が覚めた。こいつは魔物。即座に背後に回り、剣を振る。

 遂に倒れたクリスに驚き、他の村人は何処かへ消えてしまった。

「コイツは盗賊のゴブリンだな。普通のゴブリンの数十倍の知能を持っていて、人間に化ける。だからこの村はゴブリンが占領してたって事だな。それにしてもお前、色々と上達したな。俺は剣だから背後に回るとかはお前の実力だし」


「え、俺強い? いやぁ、やっぱ俺強いよねぇ。じゃあこの村を俺達の物にしてしまおう」

「ここをか?」

「ああ」


「ならば、この辺り一帯を制圧しなきゃいけない」


 制圧……? そんなに物騒な場所だったのか。

「制圧って、どこらまでだ?」

「ここら一帯はゴブリンが占拠している事が、この戦いで確実になった。近くにある幾つかの村はゴブリンだらけであろう。そこでこの村を拠点として、準備を整えてから他の村も潰して行けば、問題無い」


 この剣、詳しいっ。


「分かった。飯食って寝たら探索を再開するぞ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ