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赤い嘘  作者: しいな けい
【参】
15/16

金から銀へ

 『豊山』に戻るまでに息があればよいと思う。

 最後に『豊山』との別れはさせてやりたいとは思ったが、それは『紅葉山』が口にできる言葉ではなかった。

 『紅葉山』が言える言葉は、かつての侍従に寄せる本当にわがままな一言だけ。

「守夏と咲夜を頼む」

「それが、貴方のお望みか……。儂が貴方であればここで、いっそ命を」

「それは誰も望んではおるまい。ひとの子がそれを望んでおるならまだしも、そうではないのだ」

 久照はゆっくりと頷いて守夏と浮冬を抱き上げた。

「『大豊山』が、ご温情をおかけ下さるに違いありません。しかしそうなった時、守夏様は『紅葉山』をどれほど恨まれるでしょう」

「それでも、悪狐の侍従として列せられ誹りを受けることはないだろう。忠義のために悪と罵られるには惜しいのだ。守夏は──立派な、私の──大事な侍従──なのだから」

 『紅葉山』が下げていた顔を上げると、久照が抱き上げた守夏の青い顔が見えた。

 血雫で真っ赤に染まった装束に手を伸ばして、そっと傷をなぞった。

「その時が来たら、私を殺しに来るとよい守夏。お前にはその権利がある」

 久照はさっと浮冬と守夏を抱いたまま表参道の石段を駆け下りる。

 足音が聞こえなくなるまで、『紅葉山』はその方角をじっと見つめていた。

 静寂が訪れる。

 侍従たちは誰もいない。

 ただ、ただ、紅葉が擦れて葉を振るわせている。

 誰もいなくなった『紅葉山』山頂本殿。

 誰も彼を責めるものも、慰めるものもいない。

 見つめるものすらいないというのに、『紅葉山』は泣くこともせずにただ立ち尽くしていた。

 再び、ひとの子の願いを叶える為に。


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