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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
終章。いつかきっと輝く未来(みき)

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平和のために

 兵庫県に住む未来だが、阪神大震災の記憶はない。

しかし、東日本大震災の経験はある。

大地や沙玖夜とともに不安な夜を何度も過ごした経験は彼女のトラウマの一つとなっている。

『自衛隊なんてないほうが良い。災害派遣団で良いじゃないか』

そうつぶやく未来に義兄、朝日は苦笑いしていた。

どうしてかというと、どうも義兄は最近、自衛隊関係の仕事をしているらしいのだ。

それが彼女には気に食わない。その内容がことごとく秘密なのも気に食わない。

「まぁそういうこともあるよ」「あさにいは僕の秘密をいっぱい知っているくせに、ぼくには秘密にするんだ」

身体を寄せて身をくねる未来に朝日はあきれる。

最近女っ気のない生活を送っている彼だが一応理性は働いたらしい。

「こんなところとか、こんなところも知っているくせに」「お前が全裸マラでうろつくだけだ」

ともすれば無感情に見える朝日だが、実は皮肉屋であったりさらに深層では熱血漢の一面もある。未来しか知らないことだと未来は思っている。

「平和ってのは、戦争が無い状態じゃないぞ」「じゃ何さ」「それはな……おっと仕事だ」

去っていく義兄をバスタオル一枚の姿で非難する未来。

「こら~! ただじゃないぞッ?! この野郎?!」「何もしてないじゃないか」「いつもいつも仕事だの緊急事態だのッ?! いい加減にしろ~! 飯作って待ってる女房の身にもなれ~!?」「誰が女房だ」

莫迦なやり取りを交わす兄妹だが未来だって暇ではない。

暇ではないのだ。


『綺麗だな』


 日が昇っていくのがわかる。

もっとも、今の未来に『昇る』『下降する』の区別をつける術はない。

未来の身体は重力のくびきから解き放たれ、ただたださまよう。

彼方此方が破れ、何とか姿勢維持に成功した『こすもす自動操縦型』はエネルギー不足を示し続けている。

今回のミッションのおかげで修理が成功した人工衛星は起動スイッチを『誰か』が押してくれるその瞬間を待ち続けている。

「朝日だ。あさにい。ごはん食べてるかな。大地にい。沙玖夜さんといちゃいちゃしているんだろうな」

『航宙自衛隊』と書かれた古いスペースシャトルがこちらに向かって進んでくるのを未来はみた。

幻覚だな。もうヘルメットに酸素は残っていないから。

それに、そんな組織は日本にはない。だから夢だ。

最近巷を騒がしているロボット。特殊放射能防御服(THBF)そっくりの機体が近づいてきて。

「あ、あさにい」肩をすくめる仕草が兄を思わせる。

力なく手を伸ばす彼女に触れるそのロボットの指先。

「これ、夢だよな。新堀。ごめんな。もう俺地球に帰れない」

「ばーか」


 通信。

その声は聞き覚えがあった。

「あ、あれ?!」「ボクハTHBF! 中ノ人ナンテイナイヨ?! 本当ダヨ?!」

宇宙空間の光は物質に当たることで反射して明らかになる。

そのロボットのバイサーの奥はうかがい知ることができない。

「さぁ。帰ろう。皆待っている。勇敢なヒロインさん。アレをみなよ」

きらりと輝く人工衛星。『きぼう』。

広域スパイ衛星であると同時に膨大な電力を生み出し、日本国に送信する能力を持った夢の人工衛星。レア博士の形見。

「『きぼう』」「君が守ったものだよ」

その声は、どこか震えている。

「あにき。悪いけど、声震えているぞ。泣くな」「ダレ? 兄貴ッテ?!」

まぁいっか。後で大いに問いただしてやる。あのわけのわからないロボットもどきになぜ今乗っているのかと。

たぶん、答えてくれないだろうけど、それはそれでいい。

「スイッチ、押します」「『許可する』」

未来は遠ざかる『きぼう』をいつまでも見ていた。

「レア博士。やっとまた会えたね」

そして彼女はまた地上の星となる。

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