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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
地獄篇。過去も因果も踏み潰す未来(みき)

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それは人間と言えるのか

「舐めているのか」


 少女、御厨みくりやは呆れていた。

いや、少女と呼ぶには彼女は少々歳を取りすぎている。見た目は超小柄で可愛らしい容貌だが年齢は未来の兄、朝日よりひとつ上。最も誰も見た目で彼女の年齢を知ることは出来ない。酒豪だがいまだ免許証無しで酒場で酒を出してもらえない容姿である。

まぁ胸は少女と呼んでも良い。黒いタンクトップにノーブラ。半長靴のいでたち。むしろブラなど不要と自ら断言してはばからない。

やや伸びたボブに吊り上がった猫目の美少女の容姿を持つ彼女は幼少の頃から天才と称されていた。


「私は介護用のロボットや補助スーツを作る仕事を最後の仕事にしようとしていたのだぞ。日本の似非軍隊なんぞに入ったのは予算と自由にしていい身分を貰えると保障されたからだ」「諦めろ。御厨。自分はゴキブリロボをもっと研究したかった」「……」


 露骨な嫌悪感を示す御厨だが相方の青年は意に介した様子が無い。どうも彼は人間の心情を察する能力が良い意味で低いタイプらしい。

「ゴキブリの神経系統や脳を代替して意のままに操れば最高の偵察スパイロボになる。放射能汚染環境にも強い。素晴らしい研究だと思うだろう。御厨」まず偵察。これは全ての基本だと述べる青年。烏丸からすまに嫌そうにする御厨。

烏丸は変人が多いと評判のこの職場において浮いている存在だった。

普段はマトモだが(※変人揃いのこの職場的には逆に『変な奴』)ゴキブリに妙な偏愛を注ぐのである。

「ゴキブリは可愛いぞ。あの羽根は御厨の髪のように艶々で綺麗だ」「そうか」

棒読みで答える御厨。真剣に口説いているつもりの烏丸。

昆虫の姿をしたロボット開発や昆虫そのものを改造して操る研究に優れた烏丸は普段は普通だがどうにもこうにも御厨の心情に疎かった。

 何処の娘がゴキブリ呼ばわりされて喜ぶだろうか。

意外と御厨は常識的な乙女だった。迷惑レベルの鉄道オタだが。

御厨は思った。ああ。次の休日は新幹線の線路に入って撮影を。違法である。


「確かにうちはロボットを作る部署だ」「ああ」

「口さがないバカどもに『ガン〇ム部門』だのなんだの言われて」「自分は好きなのだがな」ジャパニメーションは知らんとつぶやく御厨は帰国子女である。

「というかロボテックを知らんのか」「あれは元々ジャパニメーションだろう」時々遊んだが馴染まなかったと告げる御厨だが少々会話に齟齬が生じている。

「昔を思い出す。もう嫌だ」何故か苦悩しだす御厨。

御厨の苦悩にわれ関せずとゴキブリの研究レポートを黙読する烏丸。

「だいたい人間と昆虫が同じワケが無いだろう。進化の過程が全く違うのに」「ヒト型ロボットは外骨格と思ってる人間は少なからずいるからな」

有機プラスティックの装甲を持ち、電気刺激で動く人工筋肉。有機物を消化して利用する……まともに考えて誰も相手にしない研究を任された二人は苦悩していた。尤も男のほうは気楽なものだが。

そもそも外骨格と言うのは小柄な昆虫だからこそだ。小柄な昆虫だからこそ体格に見合わない馬鹿力を発揮できる。

怪力を発揮する大型生物で外骨格の動物はほとんどいない。いたとしても海の中であろう。

「だいたい、外骨格だったら筋肉を納める容量の問題が出る」「解放していていいのではないかね。どうせ戦闘はしない」

強度が足りん! 骨が無い! 人間の背骨は二百五十センチメートルが限度だ!! それ以上は行動が難しい! 早口でまくしたてる御厨。

「だから俺まで呼ばれたのだろうな」「身体を支え、行動を強化するギブスのようなものが必要と言う事か? それならば貴様の研究も役立つが」というかそれこそ私が作りたかったものなのだがとぼやく御厨。


 彼らは『搭乗型のぼくがかんがえたさいきょうのろぼっと』を実現するべく呼び出された研究者だった。貧乏くじともいう。

「いつもいつもいつもそうだ。専門外の研究ばかり日本のバカどもは」「日本国籍捨てたらどうだ。お前なら何処にでも」「嫌だ」


 今更捨てられるかとぼやく御厨にニコリと笑う烏丸。

「流石真の天才は違う」「持ち上げても何も出ない。私は技術屋だが政治は苦手だ」「ははは」

そういう不器用な所が好きなのだがと告げる烏丸に御厨は素直に『有難う』と答えたが真意は通じていない。残念な二人組である。

「かなため。協力を拒否しやがって。後で覚えていろ」悪態をつく彼女に「やれる手を尽くすしかない」と告げる烏丸。

「飯島と今は名乗っているのか? あいつがいればかなり捗る案件なのだが」「アキラメロと言った。そもそも『あいつ』が十四年も経って稼働している事実のほうが異常だ」謎の言葉を放つ烏丸に口元を何か言いたげに動かす御厨。

「もう一〇年以上経つのか」「俺は詳しく知らんが水鏡からは幾何か聞いたな」

今度は見えない敵相手。いや、見えるがゆえに恐ろしい敵相手かと御厨は近くにあった豆乳を啜る。「人間。その悪意や故意やそうでないかに関わらない過失は最も厄介な敵だ。破壊したくても出来ない。『神』より厄介だ」

 少々不遜な発言をする御厨に苦笑いをする烏丸。

御厨の口元からこぼれた白い滴が唇から喉を伝って胸元を濡らしていく。

烏丸は視線を外す。不思議そうに烏丸を見上げる御厨。完全に胸元がお留守。

豆乳で張り付いたタンクトップに御厨がヤケクソ気味に噛みついて散らかしたシリアルバーの粉がかかる。大豆の粉を固めた糧食で陸自の『マズイ食事』の中では比較的マトモな味に属する。

御厨に言わせれば日本の糧食は米軍のレーションよりずっと上等な味らしい。

しかしさっきから大豆大豆尽くしだ。そんなに大豆が好きなのか。と思ったら烏丸も納豆を食べている。

「いるか」「いらん。納豆は苦手だ。嫌いではないが」鼻元に納豆を突き付けられて嫌そうにする御厨。そうかと答えて納豆を搔きこむ烏丸。

「こうして和食を食べていると日本人に産まれて良かったと思わんか。御厨」「思わんが、この国を護りたいという最低限の意志はある」

御厨は苦心して増殖に成功した細胞の培養具合を眺めていた。

「しかし、この細胞は何処から持ってきたのだ。烏丸」「秘密だ。お前は知らないほうがいい」「そうか」

あの細胞に勝てるとは思えないがとつぶやく御厨に烏丸は問題ないと答える。

「人の心が。魂が宿っているからな」「なんだそれは? お前が言うと悪質なジョークに聞こえるのだが」


 烏丸は思う。

人を救うために汚染物質に犯された有機物を食し浄化し、

殺すためではなく人を救うために生み出される兵器。

兵器ゆえに機密が守られ、兵器故に国家によって産みだされる。

これから二人が生み出す『ソレ』はロボットとは呼べないかも知れない。

だが、『人間』としては。


「人間より、人間らしいかもしれない」「何を言ってる烏丸」


 「お前は知らないほうがいい」「いつもそうだな。お前は」

愛想笑いを優しさと取った御厨はシリアルバーをつきだす。「食うか」「健康に悪いぞ」今更健康かと笑う御厨。


 冷めた味噌汁は二人の研究者の笑い顔を映し、

その一膳のお椀の生み出す家庭的な雰囲気は奇妙な研究室にて異彩を放っていた。

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