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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
発展編。愛も希望もはるかなる未来(みき)

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宇宙酔い禁止令

「ぐわあああああああああああ」未来はのたうっていた。


 眩暈に襲われ、何度も嘔吐し、更には下痢にも襲われる。

ちなみに、つい最近まで『こすもす』にはマトモなトイレは無かった。オムツである。飯島だからあえて文句を言わなかっただけで成層圏フライトを行う過程で旅客から『オムツなんてありえない』と突っ込まれての配備である。

「社長。そろそろトイレから出てください」飯島の冷酷な、表向き可愛らしい声に「……む……りぃ……おええええええええええええ」こりゃダメだ。どこの世の中に下痢したり嘔吐するヒロインがいるのよ。

吐くモノすらなくなって酸味のある唾を吐く未来。その唾を強力な吸気装置が吸い取っていく。

「社長。一応補助システムがあるけど開け閉め」「やびいいいいいい」

未来が話せる状態ではないので補足説明しておく。

何故宇宙空間。厳密に言えば無重力空間で観光旅行が成立しないか。

答えは人間の活動で思わぬヒューマンエラーが連発するからである。

想像してみよう。唾を飛ばしただけでその唾は重力の支え無しに回転しつつ壁まですっ飛んでいく。

宇宙空間では重力は存在しないが重量と慣性は存在する。

何気なく君が水筒を投げた場合、その水筒は物凄いスピードで飛ぶのみではない。受け取った人間にぶつかり、その運動エネルギーを保持したまま後ろにその身体を引っ張る。

勿論中身の水を含めた水筒など一キログラムにすぎないが投げつけたエネルギーはそのままだ。またぶつかった水筒と人体の跳ね返りも生じる。

結論だけ言うとスパナ一個を紐に括り付けるのを忘れたり、ちょっとした些細な日常の動きが生死を分ける。なかなか一般人に無重力フライトを解放できない理由である。

現実世界の一般的な宇宙旅行社は数分の無重力体験を行うと宣伝しているがド素人を乗せて無重力を延々とやっていたらいったいどんなヒューマンエラーが起きるのか解ったもんではない。

トイレ周りにウンコシッコが吹っ飛ぶなんて可愛いモノなのだ。

ちなみに宇宙で水漏れが起きると非常に悲惨な事になる。

重力が無いので普通のボールペンは使えないし、煙草を吸っても煙草周りの炎が球体になる。というか宇宙は禁煙だ。ここでも嫌煙家大勝利。


「だらしねえな。『こすもす』の社長さんは」


 呆れる男たちはムキムキマッチョなイケメン揃いだが皆心技体全て揃った豪傑ぞろいだ。

彼らは無重力訓練の為『こすもす』を優先的に使う権利を持っている。

彼らの所属団体が多額のフライト料を先に払ってくれたからであるが。

「本物の無重力を体験するだけなら一番安い料金で済むしな」とは彼らの弁。ちなみに一人は日本語が使える。未来はまだロシア語が使えない。英語だってダメダメなのに。

「しかし気球がどうやったら大気圏を脱出できるんだか」「企業秘密」作者も知らない(震え声)。


 初めての無重力に当初はしゃぎまくっていた未来だったが。

「なんかめっちゃ気分が変」解説したいところだ。簡単に言うと前後不覚の上、左右上下の感覚を喪失した生物がどうなるかである。結論として中々愉快な事になる。


 作者は先日公開の『ゼログラビティ』なる3D映画を閲覧したとき、壮絶な前後不覚状態に陥った。

作者が軟弱なことを差し引いてもたかが3D映画でこうなるのだから未来の受けた三半規管へのダメージは計り知れない。ちなみにヒルのような生物でも宇宙酔いにかかるらしい。

宇宙酔いに乗り物酔いの薬は全く効果が無い。人間が無重力を体験してから数時間以内に起き、その状態が数日から約一週間続く。地獄である。

この辺も無重力空間の観光旅行が厳しい理由の一つである。

「いや、俺も昔はそうだった」ケタケタと笑う日本語が堪能な男に同意する各国のイケメンたち。

「俺も気分が悪く」「おいおい大丈夫か。安心しろ。一週間もすれば慣れるし再発も無いから」これは宇宙の標準語であるロシア語での会話なので未来には解らない。


 男たちの視線がこの空間で最も異質な存在に向けられる。

可愛らしい幼児は男たちから見ても超人的な指捌きと状況把握力で『こすもす』を操作し続ける。複数のラジオ情報を聞き分け、的確な応答を複数各語で行うその姿。人間であるかも疑わしい。飯島である。

幸運にも交信をヒットさせたアマチュア無線マニアと他愛も無い雑談をこなす余裕もある。しかも各国エリートの男たちすら知らないマイナーな言語で。

「お前は大丈夫なのか。ベィビー」「『僕は特別』だしね」飯島は平然と操縦桿を握る。

「社長。社長。陽の出ですよ」「おおおお?! ビューティフル!!」

はしゃぐ乗客たち。その唾が飛び交い、また感激の瞳に映るのは広がる闇と青い青い星。


「うげえええええええええええええええええ」「だから僕以外無重力圏に行くのはヤバいって言ったのに」


 未来は結局、このフライトで外の光景を見る事は叶わなかった。

夏休みを潰して無理やり乗り込んでこの始末である。未来の初宇宙はこんなもんであった。

どう考えても未来が宇宙に行けるようになるのは大学卒業後になりそうなので無理やり乗せたけどやっぱり悲惨な事になった件。

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