夏休みの工作にしては大がかりですわね(新堀談)
久々登場。鄭の貸し自転車では。
ぎーこん。ばったん。ごとんごとん。
高校生達がそろいもそろって旋盤を操り、あるいはプラスチックを削って何か作っている。
「鄭君」「なんだ赤松」「お店は?」「みりゃわかるだろ。今日は閑古鳥だ」
アイスを食いながらぼやく鄭とその親友赤松。童顔チビと悪魔顔巨人のいいコンビである。
鄭の小さな鼻にアイスがついているのをみて噴きだす赤松だが彼の頬にもアイスがついている。
「なんか日帝に居た時を思い出すねぇ」「相馬車両長元気かなぁ」
思い出話に浸るオッサン二人だが要するに現実逃避である。
溢れる自転車は店の隅に追いやられ、こともあろうに積み上げられている。あとで整備大変そうなのだが大丈夫か鄭。
高校生たちはなにを作っているのか。プラモデルにしては少々大げさだが。
「おし。加工完了。鄭さん道具あざっす!」「いいよ。どうせここ元々町工場だし。たまには使ってやらんと壊れる」そもそも未来たちも機械の類を作るのに使っている。
「しかし、あいつらなにつくってたの?」「おーぷんそーすだかなんだとか言ってたなぁ」
オッサン二人は時流に疎い。
二人とも若作りだが三十路も下り坂に入ろうとしているし。
「なんか、潜水艦作ってるってさ」「はぁ?」鄭の頭に『???』。
カレの小さな鼻の下は大きくポカン。舌が所在なさげ。
その瞳も大きく見開かれている。赤松がその顔真似をするので鄭は軽く赤松を小突いた。
「ヒドイよ鄭君」「やかましい。このリア充」「それ言ったら鄭君だって」
鄭に睨まれて赤松黙る。
「あのね。カメラとセンサーしか積んでいない小さな潜水艦だけど特許とか無いらしくて、誰でもキットを作って良いんだって」「だから3Dプリンタ貸せとか言ってきたのか。坂の上のガキどもは」
高校生たちが作ったキットは学校で組まれることになる。
「なんでも、あの潜水艦はパソコン一つで動かせて、得たデータは世界中で共有することが出来るらしいんだ」「ふうん。海なのに雲とはこれいかに。その網は蜘蛛の如しってか」鄭は鼻くそをほじってみせる。適当にピンと指ではじくと床についた。
小さな潜水艦とは言え、世界中で運用すればそのデータは膨大なモノとなる。新種や新しい資源や海の遺跡も見つかるかもしれない。
「レースもやってるそうだよ。詳細はうちの社長に聞けばいいけど新発見の度合しだいだって」「ふんふん。最低賃金で自転車弄る娘が煽るような事だから数万円ってとこかな?」
赤松は苦笑いして告げる。
「スポンサーが違うよ。各国の大企業様だよ? 最大五百万円だって」「がぶっ?!」
鄭は唾を飛ばして赤松に告げる。
「俺たちも作るぞ!??」「いやぁ。作っても何処の海に放つのさ。鄭君落ち着けよ。子供のお遊びだって」「五月蠅い?! 今月赤字だった?! 今計算してみたら桁間違えてたんだよ?!」
鄭と赤松が放り投げたアイスの棒に早くもちいさな蟻達が群がり、夏を謳歌する。
その棒には『当たり』と書かれていた。
参考資料
TED日本語 - デイビッド・ラング: 私の水中探査ロボットTED 日本語字幕付き動画
http://digitalcast.jp/v/18480/




