さっきのお手紙ご用事なあに?
未来は歌っていた。なろう規約的に表記できないが白ヤギと黒ヤギの手紙のやり取りの歌である。
未来の囁くような歌声。薄い桜色の唇を濡らし、柔らかそうな舌が小さく開いた唇から時々見える白い歯は彼女の吐息と共に校庭と教室の間。
未来の視線は遠く遠い空の上。
小早川は魅入られたように未来を見ていた。
その巨体を大樹のように揺らさず、その優しい心は海風のようにざわめきながら。
他のお嬢様がたが窓に腰掛ける未来に眉をひそめて見せるのも意に介さない。少なくとも彼の鼻にはかからないもようだ。
「さっきのお話ご用事なんだ? 小早川」急に声をかけられて慌てふためく。
「ぶぶぶぶ部長。えっとですね。今月の予算の案件なのですが」「適当にやっておいて。以上」実権は小早川。カリスマは未来。内部対立はトックリにシラアエ、新田や藤崎が抑える。この部活意外と機能している。
小早川の心労を犠牲にはしているが。ある意味惚れた弱みだし。報われないな小早川!?
「お。きたきた」「???」
あろうことか窓に登って身を乗り出す未来。完全にパンツ見えている。
思わず目を覆う小早川と流石にぶしつけを咎めるお嬢方の声。
「おーい。こっちこっち」未来の声が聞こえたわけでもないだろうが、その奇妙な物体は未来のほうにゆっくりと飛んでくる。
「おつかれ~♪」未来は飛び去っていく謎の飛行体に手を振ってみせた。
「ぶ? 部長?」「もが?」何故か未来は焼きそばパン食ってる。何故に。
「いや、飯代と弁当忘れて義兄ちゃんに送ってもらった」「????」
あれ、何ですか。
呆れかえる小早川はじめクラスメイトに解説する未来。
「こすもすねっとの一環でな。空中で気球を活かした相互高速データ通信をやってるのは知ってると思うけど」「ええ」
未来は黒板にダッシュして、先ほど古典教師である浅生美佳が書き残した記述を消す。これは電子黒板なので一瞬で消したり、別ウインドウを開いてネットの動画にアクセスしたり出来る高級品だ。頼むから粗末に扱わないでほしい。
「こすもすねっとで得た気象データを用いて無人機を飛ばして、郵便のマネゴトを試験している。郵政省や密林さんとも提携しているけど」「??」
解説しよう。
未来の指先がビシッと美佳が活けた花に向かう。
「ちがう。これこれ」「なんかなぁ」
未来は電子黒板に右手と左手を添えて斜めに展開、大きな窓を電子黒板に開き、動画を表示させる。
「人類の殆どは季節、災害などで速攻物流を絶たれる危険があるのは存じているよね。小早川教授」何故に教授。ちなみに単純な季節で道が失われる人類のその数はなんと10億である。
未来の指先がお嬢様方に向かう。
「私を含めた皆さんは阪神大震災後の生まれなので実感は沸かないと思う。てか知らん」「おい」「未来様……」
ふんぞり返る未来に呆れる学友たち。
「しかし、もし災害が起きた時、季節で道が使えなくても緊急性のある物資を運べたらどうなると思う? 多くの人が助かるのではないか?」「ですね」
「で、あの無人機なんだが悪天候でも余裕で飛ぶし、確実に相手に届けてくれる。重量は二キログラムまで。ただし飛距離はしょぼい。それでも1フライトで24セントで飛ぶってよ」「へぇ」
「基地となる場所を複数用意し、この機体のネットワークを作れば電子メール感覚でモノを届ける事が出来る。そういう実験中」「へぇ」
郵便局は今どんどん手紙が出されなくなって収益が減ってるけど、そのうち盛り返す可能性があると告げる未来に『?』な小早川。
「だって今の状態なら郵便局に手紙持って行かなければいけないじゃないか」「あ」
郵便局を買い取る画策をしているというとんでもない陰謀をさらりと言ってのける未来だが学友たちは冗談と思って流した。
ちとやりすぎると高くつくがなとスマートフォンの請求画面を見せて勝ち誇る未来に小さな咳払い。
「私物は学舎に持ち込み禁止です」
未来はまたもや浅生教諭に説教を受けた。
人類の未来も大事だが校則も守ろう。未来。
(参考あるいは引用)
アンドレアス・ ラプトポウラス: 道路がないなら 無人飛行体がある
http://www.ted.com/talks/andreas_raptopoulos_no_roads_there_s_a_drone_for_that.html
「 無人飛行体」の検索結果 アスタミューゼ
http://astamuse.com/search?query=+%E7%84%A1%E4%BA%BA%E9%A3%9B%E8%A1%8C%E4%BD%93
ちなみにこの無人機。スパイ機能も優秀なので未来や日本政府その他がその気になれば『極限まで』安い出費で人々はこのサービスを利用できます。
それが本当に安いのかは少々疑問ですけどね。




