なにつくっているんだ
「あにき。めし」
一人暮らしと違い、義兄がいるというのはズボラな未来には有難い。
家事と食事の用意の手間が省ける。『普通女の子がやるって? 偏見だ』と未来は心の内で呟いた。
「都合のいい時だけ男になったり女になったり」
呆れる義兄は家事上手の料理上手だ。ひょいっとフライパンを返して出来立てのオムレツにホワイトシチューをかける。「できたぞ」
ふんわり汁気一杯のオムレツはシチューと絡み合い、とても美味しく甘……甘い?!
「がぶっ?! 」未来は噴きだした。「アサにぃ?! これ、一昨日作った甘酒のモト入ってるじゃないかっ?!」なにを入れるんだ朝日。
エプロン姿の義兄は腕を組んで思案顔。
「うーん。麹味のおかゆのオムライスとか甘くて健康にいいかなと思ったんだが失敗か」朝日。何を作っている。
「せめてケチャップ……いや、シチューには要らないか」
と言うか此処三日手を変え品を変えすべてホワイトシチューの派生料理だ。
昨晩は「ホワイトカレーだ」と言ってシチューをかけた飯というズボラ料理を出された未来はキレた。
「あにき。ひょっとして献立考えるの苦手? 」「沙玖夜さんも献立を考えるのが苦手で結局大地小父ちゃんが作ってるらしいな」二人は思案する。
兄妹は『コイツ料理作ってくれないかな』と言う押しつけを視線で行う。
未来は献立は豊富だが味とか見栄えとか後片付けに難がある。
朝日は一度美味いと聞けばそればかり飽きるまで作る。まことに困った二人である。
そんな二人の食糧事情の改善を行うのは新堀なのだが彼女だって忙しい。
特に三年生となると飛び回る勢いだ。部活の事もあるし受験の事もある。父の会社の事もあって遊んでいる暇はない。
「私が作ります」真剣な瞳で悠里美里がその提案を行った時、その横には敬愛する天文部部長の忘れ物を届けに来た天文部部員の藤崎恵美子もいた。
「先輩のためなら! 」「何度も命を救ってくださった遥さん御兄妹の為に是非ご飯を」
がちゃんがちゃん。ごう。ボウ。
良くわからない音と共にワケの解らない物体が二人の娘の手によってつくられていく。
朝日と未来は無理やり着席させられたテーブルの上でその物体が出てくるのを待つ。さながら生贄の儀式のように。
翌日、新堀家ゆかりの緊急救命病棟にて二人は目覚めた。
何を食べさせたのだろうか。お嬢様方。




