扉を開けたら血達磨がいた
「ただいま」
扉を開けたら。血達磨がいた。
未来の顔が蒼くなった。部屋の奥に逃げ込んだ。
向う側の扉から血達磨が近寄ってきて、未来の前のガラス戸を開けた。
未来はベランダ一杯に飛び出して、遠くに呼ぶように「アサ義兄! あさにぃ!? 」
手鞄を下げてゆっくり血を踏んできたソレは包帯で鼻の上までつつみ、耳に血の付いた髪をへばりつけていた。
もうだめだと未来は外をながめると、都会の家々はばらばらと広がっているだけで、未来が飛び出す前に闇に墜ちた。
「未来。俺だ。ご機嫌宜しゅうございます」
「ああ。あさにいかい。お帰りかい。また寒くなって」
義兄が勤めさせてもらっている有里事務所では、兄は積極的に美里の身を庇っては死にかけていた。
今日も電車に轢かれたそのあとトラックに吹っ飛ばされたそうだ。
あと二、三発銃弾を頭に受けて大騒ぎになったと笑いながらつぶやく朝日。何故死なない。
「まぁ明後日にはだいたい動けるようになってるさ」「兄貴。別の意味で見てもらったほうがいいよ……」
「美里さんってそんなに身を庇いたいほど美人なのか」「?? 良くわからんが色々良くしてくれるぞ」
ぶう。確かに歳は同い年くらいだし、仲良くなるのも早そうだ。
「お父さんを不慮の事故で失ってふさぎ込んでいたらしいけど結構明るくて優しくていい子だぞ」ふぅん。朝日が血を拭いながら機嫌よく話すのが未来には気にくわないが。
「兄貴。そのうち死ぬぞ」「お前がいるから死なない」
じゃ、俺がいなければ兄貴は何時でも死ねるのか。未来はそう言いかけたが黙った。
自分も同じことを考えているからだった。




