必要(だいじ)なひと
「あにき~ 」「なんだ? 」
朝日は機嫌よさそうに食事の準備をしている。
当面の生活費が出た事が大きい。高校無償化の影響は私立である神楽坂には無いが。
「新堀のおじさんに払ってもらっている学費を返せる」「要らないって言われて終わり」
沙玖夜さんの口利きもあるし、その分もと言う朝日だが義理堅すぎる。
「もっと私腹を肥やして良いんじゃよ? 風〇に行くとか」「しばくぞ」
「わたしで発散しないの? 私は何時でもOKだぜ」「死ね」
朝日は揺れる未来の瞳を見て『妹』の真意が別の方向にあることを知っている。
それは朝日として、兄として許せるものではない。
傷ついたものが余計自らを傷つけて傷の痛みを誤魔化そうとしているような本末転倒な試み。
未来は想う。
『実際、命の危険があったのだからもっと自分を大事にしてほしいところだ』と。
それは朝日も同じことを思っているのだがこの兄妹、肝心なところで伝わっていない節がある。
朝日が振るフライパンからはじゅうじゅうと香ばしい匂いが漏れる。
「よっと」彼は軽く手首を振って見事なオムレツを作り出す。
しゅ。彼は後ろを振り返ることなく、未来の座席にあるバターライスにそのオムレツを命中させた。
じゅわっとした黄身が広がって程よく出汁の効いた卵とライスが絡む絶妙の香りに未来は喉を鳴らす。
「朝ニイ。いい嫁になるぜ」「ばか」照れる朝日。未来と違って何かと器用だ。
「あれか。有里の姉ちゃんの事務所にまたいくの? 」「ああ。仕事あるみたいだし」
「あれだね。惚れたね」「バカ言え」呆れる朝日につぶやく未来。
「いいんじゃよ。若い二人がどんな暴走や過ちを犯しても私は別に」「ふざけるな。俺は……」
未来は想う。
義兄は無辜の少女を跳ねてから自分が幸せになるのを拒否している節があると。
「俺、俺で生きるよ。社長だぜ? 社長」「……そっか」
「あと! 絶対! 絶対! アニキは必要! どっかいくなよ! 約束だからなっ?! 」「……そうかな」
数年後、朝日は未来の元から姿を頻繁に消すようになるが。
未来はいつか兄が帰ってくる日を信じて彼の部屋は開けつづけていた。
まぁその真相を十年経ってから聞かされたときは流石にキレたが。




