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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
希望編。夢の先には勇気の未来(みき)

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高校生だって宇宙に行きたい

「では、我が新生神楽坂高校天文部は、『高校生でもできる宇宙開発』を念頭に……」

神楽坂高校天文部。この部室兼天文台は校舎屋上に位置する。

そこに集まるのは将来の日本の宇宙開発を司る。かもしれない若き高校生たち。なのだが。


「こらっ 小早川ッ 新田ッッ!! 変態ッ 変態ッ

うら若き乙女を椅子に縛りつけやがってッ 俺は壇蜜かっ?! 」


 未来はなぜかがんじがらめに縛られていた。

部長のくせにエスケープを繰り返すので会議が進まないからである。


「お前は縛り癖があるのかッ この変態めッ 」

未来は比較的自由の効く右足を振りまわす。ショーツが見えそうだ。

未来が蹴飛ばした『おーい こぶ茶』が転がった。なぜこぶ茶。


 しかし散々なことを言う。温厚な小早川も少し凹んだ。

その未来が教室でぐーすか(授業中に)眠っている隙をついて、

彼女の足と椅子を手錠で縛って巨漢の小早川に運ばせた企画・新田芳伸は平然と企画書をめくる。


「だって部長、逃げるじゃないですか。企画が進まなければ学校の予算が下りません。

うちはただでさえ天文台という金食い虫の設備をそのまま部室にしているんですよ?

相応の活動をしなければ次の理事会で無能の理事どもの槍玉にあげられてしまいます」


 新田にしては丁寧語だ。

この寿司屋の跡取り息子はお調子者の気があるが、言うべきことは言うしやるべきことはやる。

「金といえば中古PCくらいしか使っていない文芸部がアニメ化を果たす作家を輩出し、テニス部は県大会余裕の優勝」

「高峰姉妹はすごいよな。あれで学業も校内トップ三だぜ」ため息をつく一年二年たち。


「高峰のお姉さんは帰宅部だろ」事情を知らない一年生が呟くと二年が補足。

「知らないのか? 去年妹をバカにされたからとテニス部の主将とタイマンしてボコボコにしたそうだぞ」「否定はしませんが、暴力は振るっていませんよ」「波動球でも撃てるのか。あの美人さん」「かもしれん。空手部主将も敵わないらしいぞ」「空手部主将? 澪タンって普通に弱そうだけど。というか女にしか見えないや。澪タンハァハァ」「素人に敗れた雪辱を果たすべく、テニス部主将は特訓に次ぐ特訓で」「いまどき特訓とか……」「澪タンが女なら俺はコクるね」「というか、澪タンって高峰姉妹とよくつるんでね? 」「あ。こないだ一緒に弁当食ってたな」「俺も見た」


「はいはい。話題がそれていますわ。皆さん会議に集中してください」

トックリこと備品管理・徳永栞が手を叩き注意を戻す。

書記も勤めるシラアエこと白川妙子が本日欠席のため彼女が今日は書記を務めている。

「水野さんとデートですから。あの子は」シラアエが聞いたら否定しそうだが。

「じゃ、俺らも今度の日曜どっか行こうか」新田が呟く。


「……」皆の視線がトックリ嬢に注がれる。彼女の頬が真っ赤に爆発した。

「誤解ですッ この莫迦の妄言ですわっ 」「で、美術館? うちでゲーム? 映画? 買い物? 」

「う、うちって」「おれんち。たまには遊びに来いとじいちゃんが」トックリ嬢の耳も赤く爆発した。

ちなみに新田には他意はない。彼女を両親や祖父のいない家に連れ込んでアレコレという発想がない。残念な男である。


「ヒューヒュー」「熱いね熱いね」「新田先輩アツアツですね」「トックリ先輩。素直になりましょうよ」「トックリトックリ言うなぁあああああああっッ?!!!!!!! 」

照れ隠しか下級生に当たり散らすトックリ。この悪癖がなければトックリもいい先輩なのだが。


「おい。小早川。これは会議進まないぞ」未来は縛られたまま小早川の巨体を見上げる。

小早川は苦笑した。トックリはからかい甲斐がある。


 トックリと相棒の新田のやり取りはいつものことだ。こういう場合は進めるべきところで進めて後から引きずるほうがいい。

「で。部長はイイ案あります? 」「おう。いいりそながあるぞ」

「メセナですか? 」それは銀行ですと小早川。ゲヘナだろうがセスナだろうがどうでもいいだろと未来。

「ゲヘナは煉獄。セスナは飛行機です」「たいして変わらん」

ちなみにメセナとは企業が出資する文化、芸術活動である。


「宇宙で高峰和代君に絵を描いてもらうのはどうだろう」「いいアイデアですね。ところで宇宙では水がどういう動きをするか部長はご存知ですか」

簡単に言うと重力がないので非常に厄介なことになる。和代の得意な絵は水彩画だ。


「鉛筆で書けばいいじゃないか」「部長。どこのロシア宇宙開発ですか」

「あのコピペは真実じゃないぞ。あくまでアメリカンジョークだ」無駄に詳しい未来。その雑学を学業にも生かすべきである。


「つまり、『こすもす』でまたなんかたくらんでいらっしゃると」「人聞きが悪いぞ」

「トックリさんじゃないけど、部室の設備を持ちだすのはやめてほしいですね」「うう」

キーキー騒ぐトックリ嬢を尻目に二人は会話を交わす。

縛られている娘と縛っている男の会話とも思えないほど色気がない。こちらも残念な二人だ。


「宇宙開発にもっとも足りないものって何だと思う? 小早川」「お金ですか」「違う」

「ユーザーだ。世界人口七〇億の時代に、宇宙飛行士はガガーリンから五〇〇人いないんだ」

「今のPCは周囲の周辺機器が即時に使えるけど、昔のPCは大変だったらしい。

絵を描くのもドットをプログラムで打ったりしていたそうだぞ。

ところがネットの普及で皆がPCを使って当たり前になると爆発的にUIユーザーインターフェイスが発達した」「理解できます」

 小早川は納得した。

彼も宇宙には興味があるが、

宇宙開発の仕事はどうすれば就けるのか想像できない。

未来は宇宙に携わる人間が世界人口に対して少なすぎると述べている。


「宇宙飛行はともすれば古典的で信頼性が高い技術を常に使う。

これでは普通の高校生が宇宙を目指すなど夢のまた夢だと思わないか。小早川」

「つまり、簡単に操作できるを是とするんですか」「肯定だ。俺も『こすもす』に乗りたいし」


 未来の言葉を聞いて小早川は呆れた。

「部長って社長ですよね。アレ、操作できないんですか」「飯島君しか操作できないのだよ」未来はぶーたれた。

一方、色気のない会話を続ける未来たちをよそに、新田とトックリの今度のデート先は新田家の祖父に挨拶に行くことと部員一同の会議で決まった。何を決めているのだ。貴様ら。

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