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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
慕情編。勇気(ゆうき)も優しさも輝きの未来(みき)

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勇気(ゆうき)も優しさも輝きの未来(みき)

「順子さんに嫌われたんだろうか」


 頭を抱える水鏡澪に未来は呆れた。

確かに最近の順子はそっけない。ように見える。


 澪が男女合同種目でパスを順子に放ってもぎくしゃくしている。

勉強を教えてもらおうと澪が接近すると用事を思い出して席を離れる。

登下校の時もさっさと帰ろうとしたり、文芸部の用事を思い出す。


 未来はボソっと呟いた。

「あ~あ。ジュンちゃんのGカップおっぱいを揉みしだきてぇ」「がぶっ 」

ゲホゲホとむせる澪。どうも唾が気管に入ったらしい。


「な、な、なぜ知っているんだよッ 」「? なんの事だ。童貞王の澪っち」

抗議する澪に未来はとぼけて見せた。



「だめだ。好きになりそうだ。無理かもしれない」


 頭を掻き毟る順子に未来は呆れた。澪がどう思っているかも一応伝えたが。

「頭がおかしくなるッ 」幸せそうで何より。未来が澪の言葉を伝えようとするとみるみる順子の顔が染まっていき、ものすごい勢いで口を両手でふさがれた。

一方、未来は赤は赤でも赤点の答案を義兄である朝日に見られないよう丁寧に紙吹雪にして窓から飛ばしていく。


「パスされただけで胸がドキドキする。あいつが近づいてきたらそれだけで」

顔を赤らめてうめく順子に未来はなんとも言えない気分になった。なにこの青春小説。


「お盛んですね」未来は呟く。

「違うわぁっ 」悶絶する順子の姿を澪に見せたいなとか思ったが、

そんなことをすると順子に絶縁されそうだ。


「このままではカズちゃんに取られる~!!!!!!!! 」「もともと取ったのはあんただ」


 公園のペンチに腰かけて頭を抱える順子は普段のお嬢様然とした態度は微塵もない。こっちが素なのだ。

意外と順子は男性に対しては奥手だったらしい。BLは大好きなのに。

男女ともに憧れの対象だった高峰姉妹は一人の幸運な少年に恋をした。

最初は姉がぎこちなく。色々あって少年の友人の地位にいた妹が彼の心を射止めたのだが。


「無理。これ以上好きになるのが怖い。理性が壊れる」「あっそ」


 未来は順子の惚気をアイス片手にスルーした。お前らだけ別世界の住民なんだよ。

翻せば未来は順子や澪、和代ほど異性を真剣に好きになったことがない。

そもそも自身の性別が彼女の内部で確定されていない。思春期の不安定な時期に性別がいきなり変わってしまったのだから致し方ないが。

「あれか。一〇代元童貞の無限の精力に」「一八禁発言をするなっ?! 」

「澪っちのお父さんから一八の誕生日前祝いとして超極薄のアレをもらったんだが試すか」「死ねッ 」

 なんでそんなものを再会祝いに渡すのだ。澪の父よ。

未来の記憶では澪の父、れいは穏やかで落ち着いた雰囲気の中性的な美青年だったが、昨今の零は実にお茶目で愉快な人物になってしまっている。


「お父様にはまだまともに挨拶出来ていないのにッ 」「しろよ。カズちゃんは普通にあの家に出入りしてるじゃん」一応、『友人』を名乗っているが。

「私が行くときはその」ぶっちゃけると。『両親がいないとき』である。


「澪っち。サルか」「っっ 」

「というか、俺も揉ませろ」「っつつっ!! 」

「あ~。ジュンちゃんのノーブラGカップを思いっきりもみしだきてぇ」

さりげなく男性徒の夢を呟く未来。一部の教員にも優等生の高峰姉妹にはそういう気持ちを抱くものがいる。

何を思い出したのか悶絶するように意味不明のうわごとを放つ順子に『お前ら、幸せすぎだろ』と未来は思う。



「その。あの。あのさ。俺はアレ、いい気が欠片もしないけど」すさまじい恐怖と怖気に身体を震わせる。

「いいことじゃん。ジュンちゃん」「かなぁ」

「でも。でも」不安そうな順子に未来は告げた。

「それ以上自分を卑下するな。イイことなんだよ。カズちゃんも言ってたじゃん」

未来は笑った。「俺は無理だな。いまだに怖い。一生無理かなって思う」「う」

「俺、誰も一生好きになることはないんじゃね? って思うわ。例外はアニキたちくらいかな? 大地小父にいには奥さんいるし、アニキはアニキだし」仲はいいが、そういう関係ではない。ライトノベルの主人公たちじゃあるまいと呟く未来。


 春風に少し湿り気が交じってきた。

「小説もいいよ」なんとか落ち着いた順子は呟く。

「読んでいる間は自分を忘れて他人になれるもの。そして他人の気持ちが少し判るの。書くのもそう。私は好き」

照れくさそうに呟く順子。最近の順子の小説は恋愛要素が交じってきて、こちらも好評だ。

今まで下品な喜劇を得意とすることから男性読者が多かったが確実に同性の気持ちもつかみだしている。

「まどろっこしいからよまねぇ」未来は楽しそうに呟く。

「なによ。親友の売り上げに貢献しなさいよ」「朝日にいが保存用と観賞用に二冊買ってたぞ」

朝日は義理固い。快くやってくれる。



 おちついた二人のそばをボールを持ってはしゃぐ子供たちが通り過ぎた。

「で、お前の小説のアニメ版、第二期はいつ? 」「企業秘密です」

順子は舌を出して見せた。


「で、いつぞやタダで私を成層圏に連れていくと言ってくれた約束、覚えている? 」「い、いててっ! 急に腹がッ?! 」

未来は腹を抱えて見せた。


 穏やかな風が二人を包む。このような快適な風は昨今は珍しい。

季節は春を過ぎ、梅雨を越えて夏になろうとしている。

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