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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
慕情編。勇気(ゆうき)も優しさも輝きの未来(みき)

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お前には無理だ

「もう一回言ってみろ。霧島」「何度でも言うが、お前みたいなガキにはあの女は重い。あきらめろ」

霧島と澪は鋭い蹴りを放ちあった。

霧島の長身がしなり、真上から振り落とされた膝が澪の頬を切り裂き、

澪の放った蹴りが霧島の膝を折らんとする。


 いつものやり取りなら未来だって放っておくが、今日に至っては。

「ちょ? シャレにならないよっ 霧島ッ 澪っちもッ 」


「誰がガキだ」「そういうところが全部だッ 」「ちょ! だれかとめっ! 」

バリケードを築いていつもの応援を始めようとしていた生徒たちは二人の本気に茫然としていた。

この二人が喧嘩をするのはいつものことだ。だが『本気』の意味が違う。

どちらがよりパフォーマンスを取れるかで競っているのであって、相手を倒す。怪我をさせるつもりではない。

というか、殺す気で殴りあっているようにすら見受けられる。

霧島はその卓越した身体能力と圧倒的なリーチの差で澪を追い詰めるが、澪も負けていない。

「はっ 」霧島の蹴りを受け流し、逆に投げ飛ばす。バリケードが吹き飛び、女生徒が悲鳴を上げた。


「だれかだれかッ 澪っちたちを止めてッ 」自分ではできないということくらいは未来でも判る。

というか、小柄な身体と女性も羨む端正な容姿に反して空手部部長を務める澪とそれ以上の実力差と呼ばれる霧島を止めれる人間などそうそういない。


 バチン。モップの柄を床に激しく叩きつける音。

「教室で暴れないでください。澪さま。和人さん」新堀が呟く。

いつものお嬢様然とした様子は微塵もない。ニコニコ笑っているがまさに修羅である。

「……」「……」澪と霧島は無言で瞳をそらした。



「お弁当が無駄になっちゃったね。カズチャン」

『余った』弁当を手にぼやく順子。おにぎりにごま塩。人参にゴボウにレンコンの色鮮やかな弁当。

人参は間引きした小さな葉と指先ほどの赤い人参をホタテと共に炒めた物。

男子生徒垂涎の順子の弁当は現在、水野と白川妙子シラアエの胃袋を満たすために使われている。

「食べろッ シラアエッ 順子さまの弁当だぞ」水野が叫ぶが、シラアエはぶるぶると首を振った。微妙に怯えている。


「まったくだ」


 『妹』とはライバル宣言をして逆に仲良くなった和代。

シラアエと水野のやり取りは無視。いつものことだし。

時々激しく『妹』との間に火花が飛ぶが、概ね関係は良好だ。

その間に焦がされそうな一人の哀れな男子生徒には悪いが。


 こっちは色鮮やかなサンドイッチ。パンから手作り。

意外と和代は家庭的だったりする。順子も和代から料理を教えてもらったらしい。



 なんか一緒に飯を食うメンツ増えたなぁと未来は想う。

新堀やシラアエから飯をたかっていた去年と違い、今年は男どもがいるからだが。

「麻生っちからも弁当分けてもらってたなぁ」「乞食娘ですね」新堀が嫌味を悪びれず放つ。


 去年いつも一緒のメンバーは新堀にたかる未来、順子と和代。空気のシラアエと。

「そういえば徳永栞トックリどこだ」「新田さまと屋上でらぶらぶですから♪ 」

新堀の取り巻き一号のトックリ嬢と天文部企画・新田芳伸との仲は良好。

本人たちが聞けば大声で否定するだろうが、去年は新堀の金魚のフン扱いだった徳永嬢も春が来たらしい。

「おれたちに彼氏ができないのは確定的に明らか」「なんですかそれは。私は週に何度かは恋文を頂くのですよ」新堀はうんざりした声をあげた。

「それに、小早川様のことをお慕いしている女性かたは多いのですよ」新堀は意地悪く笑う。

見た目はゴツイ。デカイ。コワいだがコミュニケーション能力が高い小早川は以前の生徒交流でファンを増やしたらしい。

「う~ん」未来は頭を掻いた。テストだの卒業だの進路だの、他人事だのでただでさえ頭を使うのに恋なんて許容範囲限界キャパシティオーバーだ。


「無理。あいつは嫌いじゃないが、正直受験と会社経営と部活で頭いっぱいで」「学費くらい出して差し上げますよ」

未来は詳細を知らないが、新堀の父は未来の実父に恩を感じているらしく、事あるごとに援助をしようとする。

「だめ。おっちゃんに甘えるのはなし。男としてダメだろ」「女の子じゃないですか」

新堀には男だったころの未来の記憶はないらしい。未来は良いのか悪いのかと頭を悩ませる。

「和人さんや澪様は変ですよね。『お前男だろ』とか失礼にもほどがあります」「……」

あの二人はウソをつきあう仲ではないし、自分もその中に入っていると思っていた。



「どうしてあのお二人、喧嘩をされたのですか」「いつものことだろ」適当にごまかす。

「いつもの『喧嘩』ではなかったから貴女に聞いているのですが」「なんで俺に」順子といい和代といい。


 新堀は卵焼きを箸に挟み、未来の鼻先に持っていく。「いります? 」

未来は返事もなく口に含もうとするが、新堀の手が持ち上がるほうが早い。

「教えてくださらないのですね。いつも私だけ蚊帳の外」「約束だからな」

はしゃぎ合う順子と和代を見ると、あの二人が不幸な境遇にあったなんて思えない。


「男女ともに憧れる和代さんが遂に恋しましたか」苦笑する新堀。

「しかも学校全体の憧れの高峰姉妹に惚れられるとか、澪っちも極端だよな」水野が地味に嘆いていたが。


「必死で順子さんに気を使っている澪さまを見ると新鮮です」「ふうん」それに少女のように純情な態度を見せる和代も。


 はしゃぎ合う高峰姉妹だが、こんな明るくふるまう姿は初めてかもしれない。

「微妙に嫉妬? ほりりん」「え? 」戸惑う新堀。

「俺とキスしね? 」「お断りしますわ」空の弁当箱を押しつけられて未来は笑う。

「洗って返してくださいね」そう呟いて新堀は教室に帰っていった。

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