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そして 宇宙(そら)に向かう船  作者: 鴉野 兄貴
友情編。瞬間(とき)も永きも夢幻の未来(みき)

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男の子たち

 「おおい。ハルカナルッ! 」

坂の上で手を振る男の子たちに苦笑いする未来と新堀。


 一人は霧島和人。長身にニキビ痕の好青年。

もう一人は水鏡澪。どうみても女性だが男性である。


 「大学、進学できそうか」

じろじろと未来を見る霧島に。

「た。たぶん……」多分じゃない。

しどろもどろになる未来を見て新堀は笑った。


「和人さんは東大に」「まぁ余裕だろうケド」「あら」新堀も霧島も優秀なのだ。


 「……」「……」

未来と澪はお互いを眺めあった。

優等生の新堀と霧島の二人がいないと劣等生確実。それがこの二人である。

「こうなったら俺たちは付き合うしかないな」「どうしてそうなる」仲が良い。


 当の新堀と霧島は目をあわさない。お互い気まずいらしい。

ムードメーカーは陽気な澪のほうだ。引っ込み思案だった彼も一年で成長した。

未来は地味にこの澪の美貌に嫉妬している。

男なのに澪は美形だ。もうハンパじゃないくらいに美形だ。


 未来から見れば幼少期の旧友だが、

『男性だった』事を知っている友人二人との再会はあまりいい気がしない。


 「今年から歴史ある我が神楽坂高校も男女共学。ですか」

新堀はそう呟くと何故か肩を落とした。この一件は新堀が大きく絡んでいるからだが。


 「唯。俺たちは山の上に通うとは絶対思わなかったぜ」「『山の上は天の上』だから手を出すなって先輩方からよく言われたしなぁ」

元男子校が共学化した経緯を持つ文武両道を是とする高校出身のこの二人。

今回の合併劇に少なからぬ貢献? をした困った男の子たちだ。


 「手を出した先輩が何人も黒服の男に連れて行かれたとか」「あら怖い都市伝説ですこと」

ちなみに未来は知っているが、それは都市伝説ではなく事実である。

この町にはミッションスクール。外国籍の学校。荒れている学校、スケ番揃いの女子高もあるが、

「あそこにだけは手を出すな」ということになっているのが神楽坂高校だ。


 元々お嬢様方を護る黒服たちの脅威もあったが。

去年恐ろしく強くてカリスマ性の強い娘が現れ、その評価を決定的なものにした。

……和代だったりする。実は強い。



 「おい。番長」霧島が呟いたので澪がぶっと噴いた。

「ば、ばんちょうは辞めろ」ケタケタと笑う澪。


 「旧三部会の決定だしなぁ」

三部会とは澪と霧島の母校の剣道部、柔道部、澪と霧島が所属する空手部を母体とする校内外における治安維持組織らしい。

大昔はこの周辺も荒れていたらしく、男子校時代に未成年の立場を悪用した暴挙に対抗して校内外の生徒を護るために結成されたそうだ。



 「しっかりしろよ。ボス」霧島が澪の背中を叩くが澪は泣きそうな顔をしている。

本来人付き合いが苦手で、こっそり自作の小説を書くような大人しい少年の澪にとってははた迷惑な話だ。

 「和代さんにはさすがに俺は負けるぞ」「旧三部会としちゃ、女に負けるなってことでお前に決定らしい」

男の子って大変だなぁと人事ひとごとのように未来は思ったが、実際人事だ。

繰り返すが澪は決して弱くは無い。和代のほうが頭が回るし、最後は勝つだけだ。



 早咲きの桜の花びらの下を歩き、坂を登っていく四人。

潤子と和代が手を振っている。新堀と澪が応じた。


……。

 ……。


 「うわあああ。今年は男子の入学希望者が多いって聞いたけど」

未来は顔をしかめた。霧島や澪ならさておき、正直あまり嬉しくない。

『山の上のお嬢様学校が文武両道の名門高校と合併』の宣伝効果は高く、

『憧れのあの制服』を彼女にしたい男の子たちはこぞって受験したそうだ。


 「天文部の入部受付は何処ですか~~~~~~! 」新入生らしい男の子たちが騒いでいる。

「未来様」新堀がニヤニヤと笑っているので未来は両手で耳を閉じて聞いてないフリをする。


 『美少女社長。宇宙を目指す』


大きく拡大した新聞の切り抜き記事を誇らしげに持った少女達が未来に腕を振る。

未来は手を振る「トックリ」と「シラアエ」こと徳永栞と白川妙子に無視を決め込んだ。



 「空手部ッ! 空手部に入らねぇかっ! うちは女も歓迎だっ! 」「薙刀部ッ! 伝統ある薙刀部で貴女も青春を過ごしませんかっ! 」「弓道部は男子も歓迎しますっ! 」

武道系の部活は対抗意識が強く、合同に反対する部活も少なくない。

バチバチと視線の火花を散らす元お嬢様学校と元文武両道の名門校の生徒たち。


 「演劇部、入らないですか~」

眼鏡をかけたのんびりした少女が声をあげながらその間を通る。

空気が読めない系統の人物らしい。

彼女が通り過ぎるまで両陣営はあっけにとられていたが。


 元文武両道の名門校の生徒たちは彼らの『ヒロイン』の登場に目を輝かせた。

「澪タンきたあああああああああああああっ!!!!! 」繰り返すが。澪は男である。

澪を見つけた男たち、一部の女性たちが騒ぐ。


 澪もまた耳を押さえて逃げる体制だ。

元男子校とはいえ、あちら側にも一応女子はいる。

「澪タン! ばしっといっちゃって! 」


 何故か楽器を手にした少女達が叫ぶ。

こちらの高校最強の武道派は『女子吹奏楽部』である。

その卓越したモップ捌きで覗きを敢行する不貞モノどもをことごとく撃退し、恐れられている。

部員は見た目は可憐な少女達だが、気もまた強く、体力もあり、澪や霧島でも敵わない。


 「神楽坂女子時代からの伝統ある薙刀部をっ! 」「弓道部をっ!! 」

「澪タンッ! 一発ガツンと女共にッ! 」「い、いや、俺体調悪いし」

見た目は可愛らしく、言動は情け無いけど、実は澪は強い。そして人望もある。人見知りするだけだ。


 たちまち壇上に祭り上げられた澪。

「あの方は? 」「男装されていらっしゃいますね」「気合充分ですこと」

メラメラと対抗意識を燃やすお嬢様方の視線を受けて「男です。俺」とだけ澪は呟いた。


 事情を知っている元男子校の皆も、冗談と受け取った元神楽坂女子の娘たちも爆笑した。

結果的に場を見事に収めながらも、しくしくと嘆く澪の肩を和代がポンと叩いて慰めていた。


 「和代さまとあそこまで親しいなんて」「あの娘。何様」

メラメラと対抗意識を燃やすお嬢様たちを見ながら、「俺、今年も彼女できないのかな」と澪は心の中で嘆いていた。


 一方、未来は入部希望者および男子校側と合併した『天文部』の部員たちに祭り上げられ、

とてもとても酷い目にあっていた。主に。星の話題で完全敗北な件で。


 新天文部。人事。

部長   ハルカナル 未来

副部長  小早川 忍 (男子)

備品管理 徳永栞トックリ

資料係  白川妙子シラアエ

企画   新田にった芳伸よしのぶ

新入部員含め計十五名。


順調なスタートとなった。

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