高校三年生。春
「行って来ます。朝にぃ」「おう。がんばってこい」
未来の義兄。遥朝日は目を細めた。
「その格好で。いくのか? 」「いけねぇいけねぇ」
せめてブラつけろ。朝日はそういうとため息をついた。
胸の留め具がついたままの下着を反対側からつけて両腕を通し、くるりと回して胸を押し込む。
「適当すぎるぞ」「朝にぃ。じろじろみんな」「バカヤロウ。オカマ」
舌を出して見せると彼はニッコリと笑った。「さっさといってこい」
「逝ってきていいのは朝にいのほうだよ? あたしで朝からスッキリしちゃっていいんじゃよ? 」「殴られたいようだな」
朝日は、同じ親戚の大地小父と違って生真面目な性格だ。ともすると無個性に見える。
「朝兄、就職できたんだったっけ」「なんとかな」
朝日は就職しては過去の事故が明るみになって首になる生活をしている。
二人にとっては金はいくらあってもいい。
「アレだ。私が朝にぃと結婚して、『こすもす』で養ってやってもいいよ」
そういう未来に朝日は呆れた。
ついこの間まで弟だと思っていたら、出所したら女になっていた。
マジでポルさんアスキーアートものである。
「遥様~」
外から新堀の声が聞こえる。車で送迎がついているのに、酔狂なお嬢様だ。
「ああ。唯ちゃん。もうすぐうちの愚弟がいくから」
料理を裏返す朝日。彼は料理も得意だ。
「朝日さん。いつも思うのですが、どうして愚弟なのですか」「あんなん女じゃない」「ぷ」
ケタケタと笑う朝日と新堀を見て、「おまえら、デキてやがんな」と拗ねる未来。
「ほら、メシ食ったらさっさといけ」
そういって華麗にフライパンを操る朝日。
すまし顔でインスタント珈琲を啜る新堀。気に入っているらしい。
「うわっちぅ?! アサ兄っ? この珈琲熱いよっ? 俺猫舌っていってるじゃん?! 」
「丁度いい具合ですよ? 」
楽しそうに珈琲をすする新堀。
「行って来ますっ!!!!!!! 」
新堀の手を引き、飛び出そうとする『義妹』に朝日は呟いた。
「制服の上着。まだ洗濯機の中だぞ」
上半身半裸の未来。新堀はケタケタと笑っていた。
始業式当日の未来の上着は。ジャージだった。




