新堀の祈り
「おはようございます。未来様」
扉を開けると新堀がいた。「お。ほりりん。入れよ」
未来は全裸だった。
「何故殴る」「当然です」
ぷんすか怒る新堀に苦笑する未来。
「落ち込んでいらっしゃるかと思ってきたのですが、イラッさせられました」「洒落のツモリカ」
~ もう、色々と酷いからな。うちの社長さまは ~
収入が安定してきた森田は未来の制止を振り切って別の部屋を借りた。
そりゃ、半裸もしくは全裸の娘が常にウロウロしていたら気が気でならない。
未来は過去に色々あったのに、基本的に親しい人には警戒心ゼロの娘である。
「天文部、五人そろいましたね」「お陰さまで」
「トックリと豆腐料理のお陰だ」「ぷ」
二人はケタケタ笑い合う。
帰宅部から天文部に入った同級生にして新堀の取り巻きの二人。
彼女達は未来のつけたあだ名が定着してしまった。合掌。
「最近はトックリさんもシラアエさんも部活が忙しいと」「もう三年だぞ。俺ら」
早くも年を越し、2013年春。二人は高校三年生になろうとしている。
「後輩、入りそうですか? 」「ワカンネ」
「ところで、今日は一緒に学校に行こうと思ってきたわけですが、このまま玄関口にいると風邪を引きますよ? 」「あ。俺全裸のままだ」
いけねぇいけねぇと未来は引っ込んでいく。
周囲の住人が涎をたらして股間を抑えていた。
「はぁ。本当に奔放なんですから」
そういって微笑む新堀。実のところ悪い気はしていない。
新堀は父の後を継いで社長になる。筈だ。そのための帝王学を学びだした。
部活は順調。彼女を含めてのプロを輩出した文芸部は来年も新入部員で賑わうだろう。
潤子は小説家としての収入を得だした。
和代の絵は小説の挿絵に抜擢され、アニメにもなることになった。
自分の書いた絵がアニメになった姿を見て、和代は柄にもなく号泣した。
『こすもす』はなんとか成層圏に人を送る程度なら可能になってきて、会社の業績は安定しだした。
しばらくの間『タダで成層圏まで送ってやる』と言質をとられていたことで死に掛けていた会社だが、
レア博士の遺した莫大な特許は未来のものとして相続されていたのが大きい。
時々鄭に突っ込まれるが、鄭曰く「もう教えることは無いし、これからは教わることしかない」そうだ。
赤松は簿記一級の資格を取った。
清水は司法試験を受け、不合格となったが確かな手ごたえを感じたという。
森田は技術が認められ、未来の為に『オモチャ』を作るだけの事はなくなってきた。
かなたは昇進したし、飯島は何故か幼稚園に通っている。モテモテだそうでかなたの機嫌が悪い。
一番の変化は、山の下の元男子校と神楽坂高校が合併したことだ。来年から男子生徒が入ってくる。
この件には新堀も大きく絡んでいる。ちょっとした失恋の思い出と共に。
「おはよう……って、未来ッ?! お前なんつーかっこしてるんだよ?! 」「アサ義兄のエッチッ?! 襲うッ? 」「死ね。変態。オカマ」
「……」
仲が良い義兄妹ですね。新堀はそう思いながら扉を閉める。
もうすぐ、三年生。すぐに三年生。
「このまま、時が止まってしまえば。幸せなのに」
新堀はそう呟くと、少しだけ微笑んだ。