さようなら。レア博士
「……」
新堀が言葉に出来ないものを吐き出した。
泣き出す彼女を支える。未来。
『こすもす』は正確に日本に帰還する能力を得た。
レア博士がくれた特許や技術指導、宇宙への想い。
なにより暖かな彼女の人柄。全てかけがえの無いものだった。
「レア博士。本当に、本当に。短い間でしたがお世話になりました」
未来はただ、それだけを穏やかな笑みを浮かべるレア博士に告げた。
「俺、中卒だけど、弁護士になる」
清水は決意を込めて呟いた。細身の彼女のお腹はかなり大きくなっている。
その夫、赤松も、簿記を始めた。二人は新たな道を歩みだしている。
「レア博士。自転車は借りっぱなしにしないで下さい」
鄭がそう冗談を言う。勿論冗談。優しい冗談。
タダで彼女に足を貸したのは鄭自身。
「レア博士。目を開けて」
博士の頬をぺちぺちと撫でる。飯島。それを止めるかなた。
森田は何も言わない。ただ、レア博士が残した新型衛星の設計図を強く握り締めている。
「俺みたいなクズを助けるために尽力してくれたらしくて。ほとんど顔も。お礼もいえなくて」
苦悩の声をあげる。未来の義理の兄。朝日。彼と共に感謝の言葉を述べる大地と沙玖夜。
朝日は無事に交通刑務所を出所した。その裏にはレア博士の尽力があった。
「博士の『きぼう』。絶対、うちあげてみせる」
決意を込めて呟く。未来。
『きぼう』は結果的に『こすもす』の手を離れたが。
「博士。いい人だったね」「ああ」
潤子と和代はドイツ語を習ったり、各国の文学を習いにきていた。
他にも春川夫妻(美和は春川と結婚したらしい)、潤子と和代の知り合いらしい年齢も雰囲気もバラバラの人々。
「じゃ。出発します」
飯島はそういって、『こすもす』に再び乗った。
今ならば。
宇宙関係の法が整備されていない今ならば『ちょっとした希望の残り火』を空に届けることは可能だから。




