おねえちゃん 知ってる? この世界は青くて輝いているんだ
「もう! どうなっても知らないんだからっ?! 」
地団駄を踏むかなた。「あの」赤松が言いにくそうに呟いた。「なに? 」
赤松はウブなので顔を横に背ける。苦笑する清水は赤松のデカイ腕に身体を絡めた。
森田は自分の作品が無事に天に向かっていったのを満足そうに見届け、茶を啜りだした。
森田の手元にはノートパソコン。『こすもす一号』の様子をモニターできる。
「えっと」「その」「はるか? さまでしたっけ? 」
潤子と和代。新堀が言いにくそうにかなたに呟く。
大股でキャンキャン騒ぐかなたに新堀は恥ずかしそうに告げた。
「タイトスカートが」「きゃあああああああああああああ!!! これ高かったのにっ?! 」
「ピートッ! おぼえておきなさいっ??! 戻ってきたら許さないんだから~~~~! 」
繋がったままの携帯電話から即座に飯島少年の返事が返ってきた。
曰く。「聞いてない 聞いてない 覚えていない 覚えていない 僕知らない」「むきぃぃぃっ?! 」
未来はなぜかなたから飯島が逃げるのか理解できたような気がした。
飯島は押しの強い女が苦手らしい。未来の遠い記憶では昔のかなたにはもう少し儚げな印象があったが、今は女傑というか……女虎だ。
「かなたババア。あの子、かなたバアアの子供だったんだ? 」「私は処……! なんでもない」
ババアの癖に処女とかと未来は言いかけたが、かなたの右手に自衛隊正式拳銃・9mm拳銃が握られているのにいち早く気がつき、黙った。
かなたはツカツカと未来に近づき、満面の笑みを向けつつも未来の耳元に囁く。
「(だいたい、オカマで、女子高に潜り込んでいるアナタに言われたくないわ)」「(う……)」
実のところ、未来は身体の上ではちゃんと女のそれになっている。精神が追いついていないだけだ。
常に文句なしの美少女である新堀より美しくなりたいと心の片隅で思ってしまう所、
常に誰かに認められたいと明るく振舞うところは精神の未熟さゆえである。
「撤収かしら」「だねぇ。モニタリングは天文部の部室か、みっちゃんの家でやるしか」
「と、なると御泊りでしょうか。お父様になんと説明しましょう」
「あ、赤松は帰らせるから」「え? 清水」
「まぁ無難じゃなぁ」「森田さん? 俺、女子高生に手を出したりしませんよっ? 」信用できるか。
「ほら、後のことは俺に任せてお前はさっさと家計にカネを入れて来い」「えええ? 」
未来の小遣い銭を一部もらってもどうしようもない。
「こちら、『こすもす一号』」
飯島の声が聴こえてきたのは、未来たちが一旦撤収してからだった。
「もうすぐ、太陽が昇るんだけど……かなた姉ちゃんいる? 」「いるわよ。帰ってきたら百叩き」
飯島の苦笑が聴こえる。
「あのね。かなた。青い空が目の下に見える。周りは黒と星ばかり。僕らが守った国が見えるよ」
かなたはその言葉を聴いて一気に言葉を詰まらせて泣き出した。未来には意味がわからない。
「国境は。見えない。神の声も聴こえないけど。これだけはいえるよ」飯島はこういった。
「おねえちゃん 知ってる? この世界は青くて輝いているんだ」




