『借金』も資産です
『たった1万円で成層圏?! 』
鄭はそのチラシをみて頭痛を禁じえなかった。
「どう? どう? おっちゃん! オレのチラシは出来が最高だろ」
未来はそういってふんぞり返るが。
「……なにを基準に1万円にしたのか。いってみろ」
「おっちゃんがワンコインや札一枚の利点を説いたから? 」
あと、お嬢様言葉を使え。名門・私立神楽坂女学院の学生よ。
「値段設定は状況を会社の形態考えてからやりやがれッ! バカ学生ッ?! 」ついてくる社員がたまらない。
「『こすもす』とやらが出来たってか? 」「まだ」
「建造と維持費に何円かかるか、見積もりは? 」「森田のおっちゃんにまかせた」
「監査機関は? 外部でも構わんが。あと銀行の融資はとりつけたか? 」「なにそれ? 」
残暑の残る中、西洋すだれで作った日陰でアイスを食いながら客を待つ鄭とそのおこぼれに預かる未来。
「お前、一応言っておくが、もしこの事業が失敗したら風俗に沈むぞ? 」「え~!!!! 」
「それは困る」うるうるとした目で見られて『赤松、良い『カモ』を見つけやがったなぁ』と思い鄭はため息をついた。
「まぁとりあえず、一日タダの自転車屋がなんで維持できるか考えたことあるか? 」
「駅前に駐輪した奴から預かり金没収しているから? 」「それもあるが、それだけではない」
「月契約のおかげ」「大いに収入源になっているが、それだって維持費に消える」
鈍い未来に軽く経営のイロハを教えていく鄭。もともと詐欺師まがいの仕事をしていたし、今でも酷い仕事をするが本質的には人がよいのだ。
「そりゃそうと、バイト代出すから修理手伝え」「あいあい」
この店、『看板娘募集。繁盛時間勤務。週4時間からのフレックス』とある。
意外と楽な仕事なので、即金が欲しいときは嬉しい。
未来は元々が元々なので、油汚れをあまり気にしない。鄭が修理するのを見ていたら簡単に覚えた。
「しかし、教えても他のバイトは覚えないのに、遊びに来る女子高生が覚えるとか」「俺天才だからな」
ナイフで悪戯をされたサドル(座席)にテープをはり、音が鳴るチェーンに油を差してゆく。
「金と人が集まるからだ」「ふに? 」「ああ。さっきの話さ」「ああ」
「ぶっちゃけると、潰れないからなんだが」「はぁ? 」
「ようするに、ピンチになると銀行がカネを貸してくれるのだ」「返さないとダメじゃん」
自分が風俗に沈みかねないとか言われると多少は不安になる。
そりゃ、その手のバイトは簡単にどこぞの店頭で無料冊子で手に入るが。
「大丈夫。運命共同体だからな」「はい? 」
ちなみに、鄭はこんな性格だが、年上には愛想がよく見た目が可愛らしいのもあって御近所様からおすそ分けを貰いまくる。
月末ピンチになったら鄭のところにバイトにいけば可也の食料がもらえる。ありがたいことである。
「オレの店潰れたら、お前どうやって学校に通うよ? 」「自転車を買うか、バスに乗る」
「つまり、そういうことだ」「わかんないんですけど? 」
お。パンもらったの残ってたわ。鄭はそういうとパンにかじりつく。油まみれの手で喰うな。
「そうすると、人の流れが鈍くなるんだな。そうすると周囲の商店街が困る。商店街が困ると彼らに融資している銀行が困る。だから、銀行は俺に支店を出せと五月蝿いのだ」
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「金貸しと銀行の区別、ついているのか? 」「金借りると死亡フラグが立つのが金貸し」
「ちがう。貧乏人からカネを借りて、金持ちに貸し付けるのが銀行だ」
鄭はチラシの裏に図面を書いて説明。
お前がここから神楽坂まで通うなら、高確率でアイス屋やジュースを買う。
その売り上げはこの近所の銀行に集まる。そのカネを我々商店街のメンバーに貸す。
我々はその金で事業をする。つまり。
「オレの店が潰れると連中が大損。って知恵熱を出したか」
ダメだこりゃ。鄭は呆れ声を出した。




