銀の気球は宇宙(そら)を目指す
「おっちゃん。何で死のうと思ったの? 」
「工場がやっていけないからです」「ふーん」
潤子と未来はアイスを食べながらおっちゃんの身の上を聞いていた。
何処にでもある倒産話は二人の学生の心を暗雲に満ちたものにするには充分だった。
話題を変える未来。
「そういえば、ジュンちゃんは卒業したら作家になるの? 」「ん~? 」
「作家でごはん食べれても、安定しないから定職につくとは思うけど」潤子はニコリと笑った。
「美和さんって人が話してた星みたいに」「うん? 」
「カズちゃんと一緒に生きたいなぁ」「ホント、仲いいのね」
自分も『兄たち』とも仲がいいとは思うが、この二人の絆ほどでは無いと思う。
「死のうと思っても、死ねないからね」
潤子は遠い目をしながら呟く。「ん? 」未来にも思い当たることがある。
「好きな人たちがいたら、死ねないの」
潤子は苦笑いしていたが、その言葉の意味を未来が知るのは当面先。
「私にも。いるのかなぁ」大地小父ちゃんや朝日兄ちゃんの顔を思い出しながら苦笑いする未来。
「私にはいません」「部員を導くのは、部長の務めですっ! 」
胸を張る女子高生に苦笑するおっちゃん。
「ね、ね。おっちゃん。東大阪で工場やってたんでしょ? 」「ああ」
「じゃ、ロケット作れる? 」「は? 」
「『東大阪の街工場が力を結集したらロケットだって作れる』って聞いたよ? 」
「……」実際は衛星を作るのが精一杯だが。未来のボケに呆然とするおっちゃん。
「うちの天文部は、ロケットを飛ばして世界一になるのだ」「……」
ぽかんとしているおっちゃん。そりゃそうであろう。
「あ。ソレ。その娘の妄言だから」潤子に頼まれて追加のアイスを買いに言っていた和代がおっちゃんの隣に座る。
「ほれ、おっさん。食えよ。おごりだ」「……」
「これはわたしが撮影した宇宙の画像なのだ」胸を張る女子高生。
その携帯電話には輝く地球の画像が映っている。
「これは、どうやって撮った? 」死人のように虚ろだった老人の瞳が光った。
「うむ。実はこの高峰和代君に頼んで、宇宙に向かってもらうつもりだったのだが」「こら」
気球なんざに乗らされた挙句、殺されてはたまらないと和代が抗議する。
「気球? 」「うん! 気球に乗って成層圏? までいって、そっからバビューン! できる? 」
「ははは。みっちゃんの妄言に付き合っちゃ駄目だよ。おっちゃん。この子、いつもそういってるんだから」「ひっどーい! ナイスアイディアじゃん?! 」「いや、バカだろ」
ふざけあう三人の女子高生。ここまではいつもの会話だったが。
おっちゃんはニヤリと笑った。「可能だぞ」
註訳:成層圏まで気球で行けるのはガチですが、それ以降はこの物語におけるフィクションです。御注意下さい。




