おっちゃんとの出会い
「ねね。和代さん。お願いが」「天文部に入れ? やなこった」
夏休み前にさかのぼる。既に地が出ている和代。潤子も止めない。
混雑を避けて早めに登校する和代と潤子について行くのは朝の弱い未来には辛いのだが。
「この天文部勧誘が無ければみっちゃんはいい子なのになぁ」潤子はため息をついたがやむなし。
「だって今月中に5人そろえないと部室を取り上げられちゃうんだよッ?! 」
大型設備が部室を兼ねているので、そんなことはない。顧問の脅しであるがアホの子の未来は真に受けている。
「土星の衛星の数」「わっかが小さな星のあつまりってことくらい知ってるわよっ! 」
「その返答は想定外だ」「タイタンとねぇ」そこで詰まった未来に。
「土星の衛星は64個。うち3つは不確実。輪は12本とされるが不確実。6本の隙間がある。
名前がついているのは53の星。特徴的な衛星を挙げるわ。ヤヌスとエピメテウス。
距離がほとんど離れておらず、4年毎にその起動を交換しあうの」突如現れた長身の美女。
「ごきげんよう」そういってその女性は微笑む。パンツルックの大人の女性だ。
「??! 」「あの、お姉さんは? 」「おばちゃん誰? 」
最後の失礼な発言者は当然未来である。『お姉さん』はにっこり微笑んだが瞳は笑っていなかった。
「母校の方を見ると懐かしくなります」「おばちゃん。卒業生なんだ」
彼女は未来を軽く睨んだが、鈍い未来には通じない。
「お姉さん、どっかであったことない? 」「あたしも見たことある気が」
潤子と和代が誰何するが、「いえ。初対面だと思います」そう彼女は答えた。
長身でほっそりとしたしなやかな所作の美女である。歳は20代半ほどだろうか?
「○○期生。『逢坂美和』と申します」そういって優雅に挨拶する女性に。
「へ? おばちゃん32歳なんだ? 」失礼極まりない未来。
「天文部に在籍していたこともありますよ? 」未来の無礼に穏やかに微笑んでみせる美和。
「すいませんすいません失礼しました大先輩! 現在の部長の遥です」一方、地が出る未来。
美和は「こんな娘が部長? 」と少し思ったが慈愛深い大人の女性なので自粛した。
「美和。その娘たちは? 」「私の後輩みたい。春川君」
「ッ? 」『春川』を見た和代がなぜか珍しく狼狽し、未来の後ろに隠れる。
「君は……」春川と呼ばれた美青年は未来の後ろにいる和代に話しかけようとしたが。
「お姉さまに何か? 」潤子に睨まれて引き下がる。
「いや、なんでも」
春川青年は視線をそらす。彼はそのとき自らの視線の先に顔を青くしてフラフラしている還暦程の男性を捕らえた。
「ッ?! 」
老人がホームから飛び降りようとしていることを悟った春川は彼を驚異的な反応で捕らえた。
「離せッ! 離してくれぇッ? 」「離すわけがないでしょう。美和。駅員さんを」顔を青ざめさせて駅員を探しにいく逢坂女史。
「おっちゃん。死にたいの? 」未来は彼の目を見ながら言った。
「もうっ! もうっ! 死なせてくれっ! 死なせろっ?! 」
その台詞に潤子の瞳が細まった。「そうだね。ホームから落ちたら早いかも」
そこに話しかける制服姿の娘。
「死にたいならいつでも死ねるじゃん。電車が止まって、私が学校に遅刻したらどうするの? 」
「それは」戸惑う老人に話しかける未来。
「死ぬくらいなら天文部にはいってよ」
……。
……。
「部員、残り一名、確保しましたッ! 大崎先生ッ! 天文部存続ッ! オナシャス! 」
「本校の学生ではないし、還暦前だし、そもそも男だろうがっ?! それからそのふざけた語尾はなんだっ?! 」
「キング・オブ・オナシャス!!!!!!! 」「意味がわからんッ?! 」
「みっちゃん。それ、人によっては違う意味にとるよ? 」
勝手に兼業部員にされていた潤子と和代はため息をついた。残りの一人は新堀である。




