もう。消えていいよね
暗闇の中、『ぼく』は歩き出した。遠くで焚き火の灯りが見える。
大地小父ちゃんと沙玖夜さんは寝ている。
行く当てなんてない。食料だって無い。
でも、何処か遠くに行きたかった。消えていなくなりたかった。
自分を必要と言ってくれる二人から逃げ出したら、
自分には何もないことが痛感できた。
「ここに。いたの? 」「沙玖夜さん? 」
沙玖夜さんがいつの間にか隣に座っていた。
「何処か遠くに行きたい」「そう」
「男の子なんて、嫌だ」「そう」
沙玖夜さんは闇の中、僕の言葉を聞いてくれた。
「上を見て。未来」「……」綺麗な。空だった。
「闇の中でも瞳を向ければ。月が、星が。いつでもあなたを照らしているわ」
月の光と、星の光が雲を輝かせて。僕らを照らす。
「それでも、何処か遠くに行きたい? 未来」「うん」
「男の子なんて。いや? 」「たぶん」
なら。
沙玖夜さんはこういった。
「後戻りできないけど、いいかしら? 」
……。
……。
『あたし』は覚えて間もないナチュラルメイクを顔に施す。変なメイクは禁物。先生にばれちゃうから。
身体を鍛えて、スタイルに気を配る。男の人が嫌いなのに、『可愛い』と誰かが言わないと不安で潰されそうになる。
胸。すこしだけどまた大きくなっている。嬉しい。ブラ、新しいのを買おう。
脚、マッサージのおかげで少し細くなったかも。おなか。腹筋しすぎたかな? ちょっと割れてきちゃった。
髪は文句なしに自慢できると思う。顔は……たぶん、『可愛い』ほうだと思う。メイクなしでも。
すっとひとりでに股間に手を伸ばす。あったはずのものが。ない。なかったはずのものがある。
よし、夢じゃない。夢じゃない。だから、女の子より、可愛くならないと。
男の子が嫌い。だけど、彼らの視線が無ければ、私は不安で生きていけないだろうから。必要。
「行ってきます。朝日にいちゃん。大地にいちゃん。沙玖夜さん」……そして『僕』。
『私』は四人で映っている写真にそう呟くと制服を翻して、『学校』に走り出した。




