みんな死んでしまえばいいのに
みんな死んでしまえばいい。
僕はそう思った。友達も。先生も。おじさんたちも。
「みんな死んでしまえばいいのに」「そう」
沙玖夜さんは大地小父ちゃんの奥さんだ。
『あんなキモオタの何処がいいんだろう? 』結婚したとき親戚皆がそう思ったらしい。
「誰の旦那が、キモオタだって? 」
沙玖夜さんはそういって僕の首筋に手を回した。
このひと。心が読めるんじゃないかなと思うときがある。
「まぁ否定はしないけどなぁ」ケタケタと前方の運転席から笑い声がする。
「しかし、私と付き合いだしたときにはキモオタグッズは処分済みだったぞ? 」
「いや、流石にアレ装備でお前と付き合う気は起きん」
悔しいけど、大地兄ちゃんってキモオタやめたらすっごい美形だったり。背は低めだけど。
イチャイチャラブラブ。死んで良いし。このまま三人とも事故に遭っちゃえば楽になるかな。
「物騒なこと考えるわね」「まぁその。運転中だから離れてくれ。沙玖夜」
「え~?」ニコニコ笑う沙玖夜さん。後部座席から乗り出した沙玖夜さん。大地兄ちゃんの首に抱きついたまま。
「おっぱいがな。おっぱいがな。激しく視界を塞いでるんだって」
ほとんど前方が見えていないんだけど。
キキー! ブレーキの音。
「沙玖夜さん。離れて」思わずそういうと。
「え~? 死んでいいんでしょ? 皆? 」真顔で返された。
「だからって人に迷惑かけて死んでいいってワケでは」
「あなたが死んだら、私が悲しむわ」「俺様も」二人には。子供が出来ないらしい。
「死にたい? 付き合うけど? 」「俺様は嫌なんだけど」
視界がほぼ塞がれているはずの大地小父ちゃん。巧みなハンドルさばきでトラックとの正面衝突を避ける。
「逆走しているんですけど。沙玖夜」「車線が違う筈なのに不思議な事もあるものだな。ダイチ」
「ぶつかる! ぶつかる! 大地小父ちゃん! 」「うっさいなぁ。あらよっと」
車は「ぽん」と縁石に乗り上げ、空を舞い、何事も無く10mは離れている反対車線の道路に舞い降りた。
眼下に一瞬、住宅街が見えた。
「不思議だな。物理法則を無視している」「だなぁ。沙玖夜。誰の所為だろうなぁ」
ガタガタ震える僕に優しい目を向けながら沙玖夜さんは「死にたい? 」と告げた。
僕は首を振った。
数日後。
「みんな死んだ」担任の先生も、僕を苛めた皆も、その親も。
あっけなかった。何も仕返しできなかった。僕は瓦礫の上で乾いた笑いを上げていた。
大地小父ちゃんが僕の手を引いて、体育館に連れて行ってくれた。
沙玖夜さんのつくるご飯は、こういうときでも美味しかった。




