あそびましょ
わたしの通っていた小学校には、鉄筋コンクリートで作られたビルのような校舎の裏手に、まるで隠れるように、木造の旧校舎がひっそりと佇んでいます。壁は色あせて、赤茶けた屋根瓦はところどころ割れていて、雨漏りすることもあります。さらに、沢山の子どもたちが走り回った所為で廊下は磨耗してつるつる。あちこちの柱は朽ちて今にもがらがらと、倒れてしまいそうなのに、いまだに旧校舎が取り壊されないのは、理由があるからです。
「ねえ、知ってる? 旧校舎の噂」
放課後の教室で、とつぜん牧くんが、その話を始めました。牧くんは、四年四組のクラスメイトの中でも、一番の情報通で、鳥飼くんの親友です。いろんな噂話や、新情報をどこかから仕入れて来ては、わたしたちに教えてくれます。実は校長先生は「かつら」だとか、担任の新條先生が最近お見合いしたとか、牧くんが教えてくれることは、いつも楽しいものばかりです。
教室には、そんな牧くんと、牧くんの親友の鳥飼くん、そしてわたしの三人しか居ません。あとは、静かな教室に、午後になって幾分か柔らかくなった、夏の日差しが舞い込むだけです。
「旧校舎の噂?」
わたしの隣に座る鳥飼くんが小首を傾げると、顔にかけた眼鏡がずれました。鳥飼くんは、その眼鏡を直しながら、やや訝るような目つきをします。
「きっと、どこの学校にもある『トイレの花子さん』みたいなやつでしょ?」
と、わたしが言うと、牧くんは少しだけ笑って、鳥飼くんの顔を覗き込み「その目は信じてないって顔だね、鳥ちゃん」と言いました。もちろん、鳥飼くんは、「うん」と声に出して頷きます。
「ぼくはね、そう言うつまんないものは信じてないんだよ。便所の花子さんなんて居るわけないじゃない」
鳥飼くんは牧くんのことを「まっきー」と呼びます。牧くんは、鳥飼くんのことを「鳥ちゃん」と呼びます。親友のことを愛称で呼びあえるなんて、ステキです。
「だれが、トイレの花子さんなんて言った? もっとすごいの。あ、でも信じてないならいいや、この話は内緒にしておこう……」
牧くんはそう言って、意味深に微笑むと席を立ちました。わたしは、そんな牧くんから視線を外して、隣に座る鳥飼くんの横顔を見つめました。案の定、鳥飼くんの目尻がぴくぴくしています。
「待ってよ、そんな風に言われると、気になるじゃん」
と、鳥飼くんが牧くんを呼び止めました。牧くんは、にんまりと顔一面で笑うと、机のフックに引っ掛けていた鞄を取ろうとした手を止めます。二人は大の親友です。牧くんは、鳥飼くんの扱いにはなれたもので、わざと突き放すようなことを言うと、却って食いつくという性格をよくわきまえているのです。まさに、鳥飼くんは釣り人に釣られたお魚です。
もっとも、お医者さんの息子の鳥飼くんはとても賢くて、牧くんの知らない難しいこともよく知っています。時々、わたしには意味さえ分からないような言葉を使うのは、彼の賢さを象徴しているのです。
「も、もちろん、ぼくはそういう非科学的なものは信じないと言う前提で、荒唐無稽な噂話を聞こうじゃないか」
「うん、わたしも知りたいよ、教えて、牧くん」
わたしたちの興味津々という視線を受け取った、牧くんは改めて、席に座りなおしました。そして、咳払いを一つした後、妙に怖い顔をして、ひゅーどろどろと言った具合に、わたしたちに顔を近づけてきます。夕日の差し込む教室にふっ、と百物語でもしているような、肌寒い緊張感が漂いました。
「これは、ホントの話なんだ。こっちの新校舎が出来て三十年近く経ってて、もう誰も旧校舎なんて使っていないし、先生たちはぼくたちに旧校舎へは近づくなって言うのに、なんでいつまで経っても旧校舎を取り壊さないのか気になったことはない?」
「それは、あれでしょ? 子どもにはよく分からない、大人の事情ってやつ。ぼくのお父さんが言ってたよ、世の中どこも不景気だって」
「まあ、それもあるかも知んないけど、それだけじゃないんだよ」
「それだけじゃない? お金意外に、ほかに何か理由があるの?」
と、わたしが尋ねると、牧くんはとても声を潜めて、内緒話でもするように「出るんだよ……」と言い、両手を胸の前でだらりと垂らします。「幽霊」を表しているのでしょうか?
すると、鳥飼くんは眼鏡を軽く抑えながらからりと笑いました。
「そんなことだろうと思ったよ。やっぱり、便所の花子と一緒じゃないか。どこの学校にもあるような、他愛もない噂話。夏になると、そうやって怪談話に花を咲かせるヤツっているよね」
「いいから、黙って俺の話を聞けよう。ただの幽霊じゃないんだ。悪霊だよ、あくりょう!」
牧くんは、「あくりょう」に合わせて、軽く机を五回叩きました。それでも、「悪霊ねえ、ますます怪しい」と、鳥飼くんの疑念と呆れに満ちた目つきは変わりません。牧くんは、そんな鳥飼くんの視線を無視して、「悪霊なんて、こわいねー」と言うわたしのために、話を続けてくれます。
「実は、十年位前に、旧校舎って取り壊すことが決まってたんだ。それで、ショベルカーとか、クレーン車とかが運び込まれて解体業者さんが、旧校舎の取り壊しに掛かった。ところが、ショベルカーは動かないし、クレーン車は故障するしで、仕方なく業者のおじさんたちは、夜になっちゃう前に、みんなで人力で校舎を取り壊すことにしたんだ。ところで、鳥ちゃんは、『開かずの理科準備室』って知ってる?」
「しらないよ、そんなの」
「開かずの理科準備室は、旧校舎二階の一番奥にある部屋なんだ。そこだけは、何故か鍵が掛かっていて、誰も開けられないから、そう呼ばれてる。業者のおじさんたちは、まず一番端っこのその部屋から取り壊すことにした。すると、突然、薄暗い廊下の突き当たりに女の子が一人。『お嬢ちゃん、どうしてこんなところに居るんだい?』解体業者のボスが女の子にそう尋ねた。すると女の子は、小さく笑って、『ねえ、一緒にあそびましょ』って言うんだ。もちろん、おじさんは遊んでいる暇なんかない。今日中に、旧校舎を壊さなきゃいけない。だから、おじさんは『これから、この校舎を壊すから、危ないよ。さあ、もうすぐ日も暮れる、お家にお帰り』って言ったんだ。すると……」
牧くんは、そこで一旦息を止めました。ごくり、鳥飼くんの唾を飲み下す音が聞こえます。
「遊んでくれないなら、死んじゃえっ!」
わあっ、と大きな声で牧くんが叫びました。その叫び声よりも大きな声で、「きゃあっ!」とわたしと鳥飼くんが悲鳴を上げます。
「次の日の朝、解体業者さんたちは冷たくなって見つかった。この話は、たった一人、その場から逃げだして生き延びた人が、誰かに伝えたものなんだけど、その人も数日後に、交通事故で体がぺしゃんこになって死んじゃった。それ以来、旧校舎で、女の子の幽霊を見た人は、あとをたたない。『ねえ、一緒に遊びましょ』ってね。だから、あの旧校舎は壊されることなく今も残ってるんだよ」
「う、胡散臭い怪談話だな。だいたい、なんだよその女の子の幽霊って。どこの誰なんだよう」
そう言う、鳥飼くんの声は少しだけ上擦って、震えていました。
「信じてないな、鳥ちゃん! って、まあ、俺も半分信じてない。きっと、噂が大きくなっちゃっただけだとおもう。そこで!」
がたんっ、勢いよく牧くんは立ち上がり、握り締めた拳を天井高く掲げました。
「俺たちで、噂がホントかどうかを確かめに行こう。つまり、『肝試し』だよ。ちょうど明日から、夏休みだし! 今年は去年より暑いっていうし!」
「き、肝試し? バッカじゃないの。ぼくは行かないよっ」
鳥飼くんが、青い顔をしながら、ぷいっとそっぽを向きます。すると、また牧くんはまた突き放すように、
「なんだよう、鳥ちゃん、幽霊怖いの? って言うか、信じてないんじゃないの、幽霊なんて」
と言いました。うぐっ、鳥飼くんの絶句する唸り声が聞こえてきます。
「わたしは、肝試しに参加するよ、鳥飼くん! だから、一緒に行こうよ」
駄目押しのようにわたしが言うと、鳥飼くんは「はぁっ」とため息を漏らしました。
「肝試しに行くのは良いとして、どうやって中に入るんだよ。どうせ、表玄関は鎖で固定されてて入れないし、窓の鍵だって閉まってるよ」
「それは大丈夫。実は、昨日の帰り、ちょっと旧校舎に下見しに寄ってみたんだよ。そしたら、裏側の窓の一つ、鍵が壊れてて、簡単に中に入れたよ。もちろん、まだ開かずの理科準備室までは行ってないけどね」
そう言って、牧くんはにんまりと笑いました。
次の日の夕暮れ時、わたしたちは学校の校門前に集合しました。晴れ間の広がった夏休み一日目の、夜。月明かりはなく、キラキラの星空の下、肝試し大会なんてステキすぎです。納涼ってやつでしょうか? わたしが一番早く校門にやってきて、続いて牧くん。二人っきりで校門の柵に寄りかかって待つこと、二十分も遅刻して、鳥飼くんがやってきました。
「なんだ、びびって逃げ出したのかと思ったよ」
牧くんが、皮肉っぽく言うと、鳥飼くんは少しだけ怒ったような顔をして、「調べ物。それから準備」と返しました。そんな、鳥飼くんの手には、何か印刷された紙と、大きな懐中電灯が握られていました。
「準備いいね、さすが鳥飼くん。わたし何も持ってきてないよ」
と、わたしは鳥飼くんを褒めてあげます。鳥飼くんは、ため息をつくと、「言いだしっぺのくせして、まっきーは準備してなさすぎだよ」と苦言を呈します。
「まあ、ちっちゃいことは気にしない。さて、それじゃ、肝試しにいきますか」
牧くんはへらへらと笑って言いました。そして、その合図とともに、肝試し大会のはじまりです。でも、校門はしっかり施錠されているので、まずは、校内に忍び込むために、わたしたちはグラウンドを取り囲む薄緑色のフェンスをよじ登りました。
グラウンドの土の上に降り立ったわたしたちの前に広がる無人の小学校は、まるで別世界のようにしんと静まり返っています。夜道ほど暗く不安なものはないでしょう。わたしたちは、身を寄せ合うように、グラウンドの端に設けられた花壇を越えて、並木を背に、鉄棒を横目に、真っ直ぐ後者の裏手へと進みました。
「ここだね……」
鳥飼くんの懐中電灯が、旧校舎の昇降口を照らします。夜だから、と言うわけではないのですが、不気味さがより一層際立ちます。
「よし、行こう。きっと、幽霊なんていないよ」
ぐっと拳を握って牧くんが、わたしたちを促します。昨日の放課後、牧くんが言っていた、壊れた窓は、さらに旧校舎の裏側にありました。確かに、彼が言ったとおり、窓はがたがたと揺らすだけで、簡単に錠が外れました。そして、牧くん、わたし、鳥飼くんの順番に、旧校舎へと肝試しの第一歩を踏み出しました。そこは、校舎の端から端まで突き抜ける、長い廊下です。一寸先は闇と言う具合に、数メートル先は、懐中電灯で照らしても見えないくらい真っ暗闇で、その先に何があるのか全く分かりません。そして、歩くたびに板張りの廊下が、ぎっ、ぎっと音を立て、それがわたしたちの恐怖を更に煽り立てました。
しばらく進むと、廊下は突き当たり、わたしたちの目の前に、廊下を曲がって二階へと続く階段が現れます。目的の、「開かずの理科準備室」はここから上がり、さらに廊下を突き当りまで進んだところにあります。ちょうど入ってきた場所の真上にあたります。
言いだしっぺの牧くんが率先して階段を昇っていきました。わたしはその背中から離れないように、追いかけました。やっぱり、階段も一段一段、ぎっ、ぎっ、と音を立てます。
「痛いっ」
踊り場で折り返したその時、突然牧くんが声をあげました。見れば、牧くんの手のひらに赤いすじが走り、ぽたぽたと雫が流れ落ちています。赤いすじ……それが血だと気付いたわたしたちは、ひゅうと息を呑み、思わず悲鳴を上げそうになりました。
そんなわたしたちを制するように牧くんは笑って、
「そこ、釘が飛び出てる。それで引っかいたんだ」
とわたしたちを安心させるように言いました。鳥飼くんが手にした懐中電灯で、壁を照らします。そこには、不恰好に打ち付けられた板と、錆び付いた太い釘が捻じ曲がって露出していました。
「血もすぐ止まるよ。どうやら、誰かが昔ここを修繕したみたい。でも、その人きっと釘打ちが苦手だったんだろうね……そんなことより大丈夫、まっきー?」
「大丈夫だよ。あんまり深く切っていないから。」
「気をつけよう。今度はぼくが先に行くよ」
ほっとした顔を見せて、牧くんと鳥飼くんは頷きあいました。そして、牧くんがハンカチで手のひらを縛ると、今度は鳥飼くんを先頭に階段を登りました。二階も一階と変わらず一寸先は真っ暗闇です。
「二階も真っ暗で、怖いね」
わたしが言うと、牧くんは緊迫した空気に包まれるのをきらったのか、それとも、心臓の音を聞かれるのを恥ずかしいと思ったのか、廊下を歩きながら先頭を歩く鳥飼君に、
「そう言えば、鳥ちゃん。調べ物って何調べてたんだよ?」
と、努めて明るい声で尋ねました。鳥飼くんも、怯えとか恐怖を顔に出さないよう取り繕っているようです。そして、旧校舎から視線を逸らすと、懐中電灯と一緒に持ってきた、プリントを牧くんに渡しました。わたしと牧くんは並んで歩きながら、プリントを覗き込みます。
「実は、昨日帰ってから、お父さんのパソコンでいろいろと調べたんだ。さすがに、ローカルな怪談話だから、資料なんてなかなか見つからなかったけど、一件だけあった」
「それが、これなの?」
わたしは鳥飼くんに尋ねました。プリントには、埋め尽くすほどの文字が並び、わたしには良く意味の分からない言葉まであります。きっと、鳥飼くんはとっても頭のいい男の子ですから、ここに書いてあることの意味が分かるんだろうな、と思っていると、
「これは、ホームページをコピーしたものなんだ。旧校舎をとりまく噂を卒業生の先輩がまとめたらしい。まず、まっきーがぼくに教えてくれた、例の解体業者の話。それから、他にもホントかどうか疑わしい噂まで、細かく集めてあるんだ」
と、丁寧な解説をくれました。
「すごいね、こんなにたくさん噂があるなんて」
階段を昇りながらわたしが言うと、鳥飼くんはこくりと頷いてくれました。
「そうだね。でも、一番興味深いのは、旧校舎に現れる幽霊の正体。二十五年前に、理科準備室で自殺した女の子の幽霊だって言うんだ」
「二十五年前……」
闇に包み込まれた廊下を歩きながら、わたしは指折りその歳月を数えました。
「ぼくらが生まれる十五年も前の話だよ。まだその頃は、この旧校舎を使っていたんだね」
「ねえ、鳥飼くん、その女の子のこと、もっと教えて」
わたしが尋ねると、鳥飼くんは懐中電灯で前方を照らしながら、「いいよ」とわたしに微笑みました。
「その女の子の家庭はとても複雑で、その所為か、余り喋らない子だった。だから、友達もいなくて、いつも一人ぼっちで寂しかった。だから、そんなある日クラスの子が『一緒に遊んであげるから、放課後理科準備室に来て』って女の子を誘ったのを真に受けてしまったんだ。だけど、それがすべての始まりだった」
まるで小説のモノローグのように、鳥飼くんはわたしに話してくれました。
「クラスの子は『一緒に遊んであげる』って嘘ついて、女の子のことをからかってやるつもりだったらしい。劇薬だとも知らず、戸棚から薬品を取り出して、それをのこのこやって来た女の子の顔に引っ掛けた。すると、女女の子の顔から煙が上がり、焼け爛れてしまった。クラスの子は驚いて逃げ出し、女の子は独りぼっちで焼け付くような痛みに泣いた。そして、ふと窓ガラスに映った、焼け爛れた自分の頬と、独りぼっちの身の上を嘆いて首を吊ったんだ。だけど、悲劇は終わらなかった。その次の日からは夏休み。夏の陽気で腐りきった女の子の遺体が発見されたのは実に一ヶ月後だった。その日から、ここは開かずの間になった」
と、懐中電灯が扉に掲げられた「理科準備室」の名札を照らしました。とうとう、わたしたちは「開かずの理科準備室」にたどり着いたのです。
「可哀想だね、その女の子」
その名札を見上げながら、わたしが感想を述べるようにそう言うと、鳥飼くんは笑って、
「あくまで噂だよ、ホントかどうか分からない」
と答えました。
ホントのことだよ……。
「え?」
鳥飼くんが懐中電灯で名札を照らしたまま、わたしの方を振り向きます。すると、牧くんがとても怪訝そうな顔して、鳥飼くんを見つめながら言いました。
「鳥ちゃん……さっきから誰と話してるんだよ」
「誰って」
言いかけた鳥飼くんがはっとなります。そして、真っ青な顔をして懐中電灯をわたしの方に向けました。わたしの顔が、窓ガラスに映り、二人が「ひゃっ!」と小さく悲鳴を上げるのが聞こえました。
「お、お前誰だよっ!!」
牧くんがわたしを指差して、叫びました。わたしはニッコリと二人に微笑みます。
鳥飼くんは、酸素不足の金魚のように口をぱくぱくさせながら、窓ガラスに映るわたしの姿を見つめていました。わたしもそっと、窓ガラスに映る自分の姿に目をやりました。わたしの左の頬が焼け爛れ、そこから血が滴り、制服の襟を汚しています。
「そんなに驚かないでもいいじゃない。わたしに会いたかったんでしょ、牧くん? 牧くんが下見したときからずっと傍に居たのに、気付いていなかったの?」
二人に視線を戻して、わたしは尋ねました。ますます、二人は青い顔をします。どうしてそんなに青い顔をするのでしょう? わたしは笑ってると言うのに。
「ねえ、一緒にあそびましょ?」
わたしはなるべく、優しい声で二人に向かって手を差し伸べました。すると、どうしたことでしょう、二人は女の子みたいに悲鳴をあげて、逃げ出しました。鳥飼くんなんて、懐中電灯をその場に投げ捨ててしまいました。仕方なく、わたしは二人の背中を追いかけることにしました。
「待って、二人とも。ねえ、遊んでくれないの?」
そう問いかけても、二人は悲鳴を上げ、逃げていくだけで振り向いてもくれません。この人たちもあの子のように、わたしをからかいに来ただけなのかしら。
「ぎゃっ!」
真っ暗な廊下を駆け抜けたところで、つるつるの床に脚を取られた牧くんが、階段から転げ落ちました。バタバタと派手な音を立てた後、牧くんが変な声を上げます。踊り場で長座する彼は、口を開き白目を向いていました。どうやら牧くんは、あの飛び出した釘に後頭部を突き刺したようです。
「まっきーっ!!」
親友の名前を叫んで、駆け寄る鳥飼くん。でも、親友はもう絶命しています。鳥飼くんが涙を浮かべる姿を見つめながら、わたしは鳥飼くんに尋ねました。
「鳥飼くんは、わたしと遊んでくれるよね? 永遠に……」
鳥飼くんは振り返ると、目を泳がせながらブルブルと震えます。知的な冷静さなんて欠片もないことに失望してしまいます。それ以上にわたしは絶望していました。いつもそうです、誰もわたしと遊んでくれません。わたしの寂しさなんて分かってくれないのです。わたしは「永遠に一緒に居てくれる」友達が欲しいだけなのです。どうやら、今回も違ったようです。
「そう、遊んでくれないなら……死んじゃえ」
わたしはそう言い放つと、鳥飼くんの首を力強く絞めました。恐怖がそうさせるのか、鳥飼くんは抵抗もしませんでした。なすがまま、ただ呆然と力を失い、そしてひゅうと息絶えました。わたしは二人の無残な遺体を見つめながら、少しだけ溜息をつきました。
誰か、わたしと一緒に「永遠」に遊んでくれる人はいないのでしょうか……。
ねえ、さっきからそこでわたしの声を読んでいるあなた。そう、あなた。
一緒にあそびましょ。
(おしまい)
はじめまして&こんにちは。この度は、拙作をお読みいただき、まことにありがとうございました。ご意見・ご感想などございましたら、是非お寄せください。いつまででも受け付けております。