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朝は随分冷え込む季節になってきた。
私は暖炉に火を入れ、旦那様がバスルームで朝の身支度をしている間に手紙と新聞を取りに行く。
玄関を開けると冷えた空気が吹き込んできた。
寒さに肩をすくませながら足元の新聞を拾おうとし、一面記事に動きが止まる。
『ホワイトチャペルでまたも惨劇』
また事件が起こってしまったのか、そう恐怖に震えながらも私は大丈夫と心を落ち着かせる。
玄関扉を閉めるとバスルームから旦那様が顔を覗かせていた。長いこと玄関を開けたままだったので不審に思ったようだ。
「エリザベス、何かあったのかい?」
私は新聞を手渡しながら、一面の記事を示す。
「これを⋯⋯また事件が起きたようです」
「また⋯⋯?」
私は事件の詳細を知りたくなくて、新聞から目を逸らし旦那様を見つめた。
新聞を受け取った旦那様は途端に造り物のような表情をした。目線だけが忙しなく動いて記事を読み込んでいる。
ややあって旦那様は小さく溜息をつくと、記事が見えないように新聞を折りたたむ。
私の髪を撫でると、眉尻を下げて
「君は読まないほうが良さそうだ」と言って新聞を暖炉に放り込んだ。
旦那様が言うならそうなのだろう。
そのまま数日間は新聞を取りに行くのは旦那様の仕事になってしまった。
それから旦那様はとても忙しくなってしまい、毎日出かけるようになった。
朝早くに出かけて、日が暮れてから戻り、時折夜中にも出かけているようだった。
忙し過ぎて体を壊さないかと、心配だけれどお家を整えて待っていることしかできなかった。
もう一つ変わった事は階段室を施錠する時にする就寝の挨拶の際に、旦那様から額に小さな口づけをくださるようになった事。
昼間に一人で過ごす時間が増えたのを旦那様も気にしてくださっているのか、きっと例の事件で私が怖がらないよう気遣ってくださっているのだろう。
それから先日は「クリスマスまでには落ち着くから」と仰っていた。




