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17/17

17:夜更かしした朝

クリスマスのご馳走を食べ終わると、夜も更けてきていた。



「そろそろ寝る支度をしないとか⋯⋯」


壁時計に目をやると、旦那様は立ち上がった。

夢の時間はもう終わりのようだ。

名残惜しいが、私も夜着に着替えるために階段を上がる。

就寝の支度をしてから、最後に家中の明かりを消すために一階に下りる。


ナイトガウンを着た旦那様が暖炉の始末をしていた。

今日は色々あり過ぎて、眠れないかもしれないな、と思いながらその背中を見ていた。


振り向いた旦那様が、少し躊躇ってから眉尻を下げてこう言った。




「その⋯⋯少し夜更かしをしない?」



旦那様が小鍋に入れた赤ワインをかき混ぜる。

スパイスの香りがキッチン中に広まる。

今日のキッチンはいい香りのもので、いっぱいだ。

私は陶器のカップを二つトレイに載せた。


「書斎の方がすぐ暖まるから」と旦那様が言ったので、先に上がって暖炉に火を入れる。

少しして旦那様がマルドワインが入ったポットを持って上がってきた。


暖炉だけを明かりにして、

それぞれのカップを持ち、向かい合って座る。


「⋯⋯メリークリスマス、エリザベス」


旦那様が微笑んで、軽くカップを持ち上げる。


「メリークリスマス、旦那様」


私もそれに応えるように、軽くカップを持ち上げた。


温かいワインに口を付けると、たっぷりとシナモンの香りがして、体が暖まる。

暖炉の火を眺めながら、互いにクリスマスの思い出などをぽつぽつと話す。


揺れる炎が旦那様の瞳を照らす。

いつもは蜂蜜色の目が金色に見えた。


ふいに旦那様が、こちらを見るので目が合う。また見つめすぎてしまっただろうか。


誤魔化すように口にしたカップは空になっていた。



「もう少し飲む?」


私の空のカップに気が付いた旦那様が、立ち上がってポットを手に取る。


「ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」


ほんのりと柑橘を感じるマルドワインはとても飲みやすい。

おかわりの入った温かいカップを両手で受け取ったが、重さで少し手が揺れる。

旦那様が支えてくれて、そのまま隣に座ってお喋りを続ける。


「僕はシナモンがたくさん入っている方が好きなんだ」


ソファーの背もたれに、いつの間にか旦那様の腕がかかっていた。


「シナモンはいい香りがして、私も好きです」


ワインをもう一口。

シナモンの向こうに旦那様のベルガモットのヘアオイルの香りがする。


旦那様の膝が、私の膝に触れる。

顔を上げたら、あの目を見たらおしまいだと思ったのに。



「⋯⋯エリザベス」



その声に思わず顔を上げてしまった。

近付いてくる蜂蜜色に捉えられて動けない。


伏せられようとしたその瞼が、唇が触れる直前、何かを確かめるように止まる。

それから、そっと優しく唇が重なった。


玄関ホールでの噛みつくような、逃さないというような口づけではなく、撫でるような、確かめるようなキス。


手にしていたカップはいつの間にかテーブルに置かれていた。



柔らかなキスに体の力が抜けていく。

いつしか、背もたれにあった旦那様の腕は、私の崩れ落ちそうな体を支えてくれていた。


私の頬を撫でていた手が、ぐいっと腰を引き寄せ旦那様の膝に座らされる。

旦那様の顔に私の髪がかかって、いつの間にかリボンが解かれていたのに気付く。


いつもと逆に旦那様を見下ろす。

見上げてくる蜂蜜色の目が、炎できらきらと光って綺麗だ。

「旦那様⋯⋯綺麗⋯⋯」

そう言って私から小さくキスをすると、旦那様がくすくす笑った。


旦那様が笑うとお膝も揺れて、私は落ちないように旦那様の首に手を回した。


下から見上げる旦那様が、ほんの少しだけ口を開ける。

もう一度と強請られてるのが分かって、大喜びで口づけた。

――旦那様が求めるならいくらでも。


口づけが深くなっていくうちに、ナイトガウンが肩から下ろされ、旦那様の手が足に触れる。

一瞬だけ18歳のあの日を思い出して、体が強張ってしまう。

多分、旦那様は気付いたんだろう。

すぐに一度手が離されて髪を撫でられる。

その優しい手付きが『君が嫌がることは何もしないよ』と言っているみたいで安心する。


だから自分からガウンの袖を抜いた。





---






カーテンの隙間から差し込むぼんやりとした朝日を瞼の向こうに感じる。

いつもより柔らかいベッドといい匂いのシーツ。


⋯⋯私のではない。ここはどこだろう。

何故、素肌に直接シーツが触れるんだろう。

この温もりは?


まだ眠い目をなんとか開く。

ぼんやりとしていた焦点が合うと、とても近くに旦那様の、ハミルトンの顔があった。


「エリザベス、おはよう」

「⋯⋯おはようございます、ハミルトン」


寝顔を見られていた、だろうか。

恥ずかしさから、もう一度シーツに潜り込もうとする。


「また寝てしまうの?」


額に軽い口づけ。

こんな幸せな目覚めがこの世にあるとは思わなかった。



シーツから顔を出して、ハミルトンに抱きつくと私からキスをした。




「おはようございます、ハミルトン。愛しています」

ハミルトン視点の『“J”とよばれた男』をムーンライトノベルズに投稿しました。



https://novel18.syosetu.com/n8378lv/1

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