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16:クリスマスのディナー

お互いに外出着のままだった私たちは、まず服を着替えることにした。

泣いたままだった私は、急いで顔を洗う。

鏡で確認すると、少し目が赤くなっていて、髪も乱れている。

今日はクリスマスだからといつもよりきちんとした格好をしていたのに、こんなみっともない姿で旦那様の前にいたのか、と慌てて身支度をする。

髪を結い直しながら、どうして髪が乱れていたのか、思い当たった。


旦那様の指が私の髪をかき乱し、旦那様の唇が私の唇に口づけたのだ。

まるで夢を見ているようだ。

そっと、唇に触れる。

――夢ならどうか覚めないで。



でも今は早く戻らなければ。旦那様が待っている。

最後にもう一度結い直した髪のリボンを確認して、私は一階へ下りた。



キッチンでは旦那様が野菜を茹でていた。

支度を手伝おうと、手元を覗き込む。

芽キャベツやニンジン⋯⋯それからこの少し酸っぱいけど甘い匂いはクランベリーソースだろうか?


「七面鳥は肉屋で買ってきたやつなんだけど⋯⋯一羽まるまるは僕らには多すぎるからね」


お湯を沸かしたお鍋にプディングの器を入れる。シナモンの良い香りが立ち上り、思わず旦那様と顔を見合わせて微笑んだ。


お皿に茹で野菜を取り分けて席へ運ぶ。

クランベリーソースもテーブルへ。

暖かい料理がテーブルに並ぶ。


旦那様はクリスマスに特別な事はしない、なんて言っていたけれど、これはもう立派なクリスマス・ディナーだ。


パリパリとした七面鳥を旦那様が切り分ける。

スッスッと慣れた手付きでナイフを入れて、二枚のお皿へ。

私の方を少し少なめに盛ると


「まだプディングが待ってるからね」


と笑った。



お互いに席に着くと、カトラリーを手にしようとした旦那様の手がふと、止まる。


「普段はしないけれど、今夜くらいは⋯⋯ね?」


そう、微笑みかけてテーブルの上で手を重ねる。

私もそれに倣って手を膝に、背筋を伸ばした。

旦那様の低い声が静かに響く。


「この食事と、今夜に感謝を」


――旦那様と共にいられる“今夜に感謝を”


心の中でそっと祈りを捧げる。

顔を上げると、旦那様はすでにカトラリーを手に取っていた。



二人だけの静かな食卓。

向かい合っていると、急に気恥ずかしさが蘇ってきて、旦那様と目が合わせられない。

ただ時折「あの肉屋の焼き具合は悪くないな」とか「このクランベリーソースが美味しいです」と言葉を交わす。

沈黙の時間すら幸せだった。




お食事が終わると、蒸し直していたクリスマスプディングを鍋から取り出す。


「ここに入れてくれないかい?」


言われた通りに、器の底をトントンと軽く叩いてお皿に移した。

その間に、旦那様は戸棚からお酒のボトルを取り出す。

それから袖口を捲って、小鍋を火にかけた。


「子供の頃はコックがクリスマスプディングを作ってくれたりしたんだけど。

流石に自分で作った事はないな。

大人になってからは⋯⋯いつ以来だろう。

久しぶりに食べるよ」


旦那様が何をしようとしているか、分かって一歩後ろに下がる。


「うん、初めてだからちょっと下がっててね」


温めたお酒をプディングにかけて、火をつける。

炎が上がり思わず「わっ」と小さく声をあげてしまった。

鍋を置いた旦那様が部屋の明かりを一つ消すと、炎の青がより美しく見えた。


「⋯⋯綺麗」

「そうだね」


ぽつりと漏らした声に、思ったより近くから返事が聞こえる。

隣を見ると私を見つめる旦那様と目が合う。


数時間前までは『死んだ方がマシ』だなんて、考えていたのに今は幸せ過ぎて死んでしまいそうだ。



炎が消えると、再び旦那様が取り分けてくださる。

今度は私のお皿に少し多く。


それを私が指摘すると


「だってご褒美だからね」


と言って旦那様は笑った。

そんなに褒めてくださるなら、これからもずっと良い子でいなくては。



それから二人でクリスマスプディングをいただいた。

ひと口含むと芳醇な香りが広がり、濃厚な甘さが舌に絡まる。

今まで食べたどれよりも、きっとずっと上等なプディングだ。

これを旦那様が、私のために用意してくださったということが嬉しくて、それだけで胸がいっぱいだった。





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