15:ご褒美
「⋯⋯逃がしてあげる事もできたのに」
カサリとカードが落ちる音がして、腰を引き寄せられた。
すでに掴まれている顎をぐいっと痛い程に引き上げられる。
旦那様の唇が私の唇に重なっている。
噛みつくような熱い口づけ。
驚き目を開けるが、どこにも逃さないというかのように頭ごと掴まれる。
息をする間もなく、何度も口づけられる。
そう、旦那様にキスされている。
その事にやっと頭がついてきた。
喜びと同時に、なんで?どうして?と思うけれど、その間も旦那様は口づけを止めてくださらない。
息が苦しいからか、頭がぼんやりとしてくる。
崩れ落ちる私を旦那様はさらに強く抱き寄せた。
「エリザベス⋯⋯」
口づけの合間に、名前を呼ばれる。
まるで愛しい人を呼ぶようなその響きに勘違いしそうになる。
しばらくそのまま口づけを繰り返し、やっと唇が離れる。
濡れた旦那様の唇が綺麗でつい、見惚れてしまう。
息が吸えると、胸についた手から伝わってくる旦那様の鼓動が驚くほど早くなっているのに気が付いた。
旦那様も私との口づけを喜んでくださっている?
「エリザベス⋯⋯」
甘い吐息とともに、再び旦那様の顔が近付いてくる。
――もう勘違いでもなんでもいい。
今目の前にいる旦那様に全てを差し出したい。
さらに背伸びをして旦那様に近付く。
受け取るだけだった唇を自ら迎えるように、私はつま先立ちをした。
いつまで二人でそうしていたのだろう。
やっと私たちは唇を離し、息を整えようとする。
「⋯⋯体が冷えてしまったね」
私の腰を抱きながら旦那様が微笑んだ。
暖炉もつけずに、玄関ホールで抱き合っていたのだ。
その事に一気に恥ずかしくなる。
勢いで告白をし、自分からキスを強請るなんて。
旦那様は落としたカードを拾い上げると、黙ったまま真っ赤になる私を、居間の暖炉までエスコートしてくださる。
暖炉の側に私を座らせると、旦那様が自ら火をつけてくれた。
炎が安定するのを確認して、旦那様も私の隣の床に腰を下ろす。
それから当然のように腕を引かれて、旦那様の腕の中に収まった。
私を抱きかかえ、微笑みながらクリスマスカードを見直す旦那様。
流石に何度も目の前で読み直されるのは恥ずかしく、つい声を上げた。
「あの⋯⋯旦那様?」
カードから目を離さずに旦那様が声を出す。
「――私の全てはあなたのものです」
その低い声で読まれると余計に恥ずかしい。
再び頬が熱くなる。
「エリザベスの全ては僕のものなの?」
こちらを向いた蜂蜜色の目が、嬉しげに細められている。
私はその視線から逃れるように、旦那様の肩口に顔を埋め、もぞもぞと小さな声で返事をした。
「はい、私の⋯⋯全て旦那様のものです」
私の髪をサラサラと撫でて、リボンをいじる。
「全部?」
「⋯⋯全部」
答えられたご褒美だというように、こめかみに唇をおとされる。
私が少しだけ顔を上げると、旦那様は私の髪を一房手に取ると見せつけるように口づけた。
それからだんだんと暖まってきた指先にも口づけをおとす。
このまま頭の先から食べられてしまっても構わない。そんな事を考えていると、旦那様があ、と声を上げた。
「良い子には、ご褒美をあげないと」
もう充分すぎるほど貰っているのに?
旦那様は私をキッチンまで連れて行くと、パントリーからあるものを取り出した。
白い布の小さな包。
カウンターに置くとコトンと陶器の音がした。
「クリスマスプディング。一昨日買っておいたんだ」
包を開くとスパイシーで芳醇な香りがキッチンに広がった。
「普段は食べないんだけれど、エリザベスは好きかなって思ってね」
私が眠ってしまっていた日。用意してくれていたのか。旦那様が私のために。
喜びに頬がほころぶ。
「ありがとうございます、旦那様」
「一緒に食べよう?」
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