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クリスマスの朝、今日もロンドンの街は霧に包まれていた。
雪が降らなくてよかったと、私はまだ眠い目を擦った。
昨日も眠りは浅く、旦那様の囁きを夢に見て何度か目を覚ました。
玄関を開けて、届いた新聞や手紙を回収する。
旦那様宛のクリスマスカードらしきものが何通か。
私が買ったコマドリのカードには昨夜、一文だけ思いを綴ったが、きっと旦那様に渡す事はないだろう。
玄関を閉めるとバスルームから旦那様が姿をみせた。
「旦那様、今日のお手紙です」
そう言いながら手渡すと、裏の名前を確認してにっこりと微笑む。
「友人だ。クリスマスカードかな?」
クリスマスにこだわりのなさそうな旦那様もカードは嬉しいのだろうか。
あの一文を書かなければ私も渡せたかもしれないのに。
書斎へ向う旦那様を見送り、外出の支度に屋根裏へ上がる。
ベッドサイドに置いたままのコマドリのカードを見ないふりして、コートを着込んだ。
「それでは旦那様、先に行ってまいります」
書斎を覗き込み、外出の挨拶をする。
カードから顔を上げた旦那様が「いってらっしゃい、エリザベス。また後でね」と見送ってくださった。
少し歩いて教会へ向う。やはり今日は普段より人が多く、どこかの使用人らしき姿や、家族連れの姿もあった。
クリスマスの教会の中は静かだが、時折小さく挨拶や、子供の声がする。
幸せそうな人たちの目を避けるように、隅の席に腰掛けた。
この思いを告げてしまったなら、旦那様の家にはいられない。
お側にいるためには分不相応なこの気持ちを、胸の奥にしまっておかなければ。
そう誓う今ですら、教会に入ってくる足音の中に聞き慣れた一人を探してしまう。
清らかな空間で自分だけが浅ましい願いを抱いてしまっているような気がして、身を縮こませる。
それから祈祷書を手に、すぐ前にある説教台に目を向けた。
賛美歌の後、牧師様が下がっていく。
礼拝が終わり、周りの人々がぞろぞろと立ち上がる。
奥の席に座った私は、他の方が退出するのを待って、立ち上がった。
礼拝の前とは違い、周りは少し賑やかになる。
教会の外では子供の楽しげな声が響き、そこかしこで挨拶やちょっとした雑談が始まっていた。
門の近くに一際背の高い背中を見つける。
若い女性を連れた、口髭の紳士と談笑していた。
淡い栗色の髪をした女性は恥ずかしそうに頬を染めて、父親らしき紳士の影に隠れている。
「――いやぁ、リスター君が独身なのが不思議でならないよ」
紳士の声が聞こえてくる。
帰宅するには門を通らなければいけない。
私は少し歩みを早めた。
「うちの娘もそろそろ考えなければいけない年でね」
旦那様はこちらに背を向けているので、素早く通り抜ければ気が付かれることはないだろう。
更に足を早めて門を出た時、続く言葉が聞こえた。
「君のような人なら、きっと良いご主人になるでしょうなぁ」
心臓が止まるかと、そう思った。




