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翌日も、翌々日もカードを書けないまま時間だけが過ぎて行った。
宛名だけは Mr. Lister としっかり書かれているが、そこから先が進まない。
今夜も就寝の支度をして、旦那様の帰宅を待ちながらカードの文面を考える。
試しにと裏紙に書いてみた文章は
『あなたの存在は、言葉にしきれないほど大切です。』
『あなたとご一緒している時が、私は一番幸せです。』
まるで恋文のような文章が並ぶ。
こんなのはお世話になっている方に贈るクリスマスカードではない。
「こんなの⋯⋯贈れる訳ないじゃない⋯⋯」
大きく溜息をつき俯くと、肩に髪の毛が落ちてくる。
旦那様が切ってくださった髪。
手櫛を通すとするりと引っかかりなく通った。
もう一度、最後に本当に書きたいことを裏紙に綴る。
『私の全てはあなたのものです。』
私はそのインクが乾く前に、破いて暖炉に放り込んだ。
クリスマスイブが翌日に迫ってもカードは白紙のままだった。
旦那様は「明日からはゆっくりできる」と言って朝早くから出かけて行った。
今日も帰りは遅くなるらしい。
私は旦那様が気持ちよくクリスマスを迎えられるように、いつもより丁寧に細かいところまで掃除をすることにした。
キッチンのタイルを磨きながら、欠伸を噛み殺す。
ここ数日は考え事をし過ぎて眠りが浅い。
旦那様に感謝の気持ちでクリスマスカードを贈ろう、ただそれだけだったはずなのに。
考えれば考えるほど、自分の気持ちが見えてきてしまった。
旦那様は優しい方だ。
私を雇ってくれて、暖かな部屋をくれて。
よく出来たら褒めてくれるし、泣いていれば慰めてくれる。
それは旦那様が優しい方だから。
きっと相手が私でなくてもそうするだろう。
それなのに私は、願ってしまっている。
――旦那様のものになりたいと。
夜になり、暖炉の前で座り込んで旦那様の帰りを待ちながら、私は落ち込んでいた。
カードは白紙のまま、部屋に置いてある。
旦那様の優しさに付け込んで、こんな大それた願いを持っているなんて。なんて浅ましい。
ついに気が付いてしまった自分の気持ちにどうしていいか分からない。
「⋯⋯エリザベス?エリザベス?」
どこかから旦那様の声がする。
「エリザベス?こんな所で寝てるのかい?」
旦那様が帰って来たのかしら?バスルームが暖まっています⋯⋯そう伝えたいのに瞼が重くて身体が動かない。
夜の冷たさを孕んだその手が、髪と頬を撫でるのがひんやりとして気持ちいい。
しばらくそのまま身を委ねていると、ふわりと身体が浮いた。
何が起きたのかと、閉じかける目を薄っすらと開くと、すぐそばに旦那様の顔がある。
その蜂蜜色がチラリとこちらを見て
「起きたかい?」と微笑んだ。
旦那様に抱きかかえられて運ばれているようだ。
何か返事をしなくてはそう思うけれど、頭が動かない。その間にもトントンと階段を上る音がする。
私は待っていた旦那様が帰ってきてくれたのが嬉しくてその肩口にすり寄った。
旦那様はくすぐったいのかクスクスと笑いながら、屋根裏の私の部屋まで上がると、ゆっくりとベッドに下ろしてくださった。
「⋯⋯旦那様」
「エリザベス、あんな所で寝ては風邪をひくよ」
旦那様は私の額にかかった髪を優しく退かすと顔を近づける。
暖かくて柔らかな唇が額に触れる。
「⋯⋯おやすみ、エリザベス」
囁くようにそう言うと少しして旦那様は部屋を出ていった。
私の意識は再び夢の世界へ沈んでしまう。
その夜、階段室の鍵がかかっていたのか、私には分からなかった。




