第二話 返事のない年賀状
戸がきしむ音とともに、冷えた夜気が流れこむ。
カウンターの上で丸くなっていたミルが、耳だけぴくりと動かした。
入ってきたのは、薄いハガキをぎゅっと握りしめた女性だった。
目は少し赤い。泣いたのか、泣きたかったのか。
「……年賀状が、返ってこなかったんです」
彼女は席に座ると、ハガキをそっと置いた。
ミルは前足でとん、とハガキを叩き、
「聞くにゃ、ゆっくり話すにゃ」 と首をかしげた。
「小学校からの親友なんです。
毎年必ず返事が来てたのに、今年だけ来なくて……。
SNSも既読がつかないし、何か嫌われることしたのかなって。
考えすぎだってわかってるんですけど……不安で。」
ミルはすた、とカウンターから降り、
彼女の膝の上にふわりと乗った。
喉を小さく鳴らしながら、温度を分けるように座る。
しばらくして、
ミルは空を見上げるようにして、ぽそりと言った。
「にんげんはにゃ、
返事の『ない』ことを、自分のせいにしがちにゃ。
でもにゃ、向こうの世界だって忙しい時があるのにゃ。」
女性は息をつまらせるように笑った。
「……そうですよね。
相手の事情って、勝手に全部見えると思ってたかもしれない。。」
ミルはしっぽをぽふ、と彼女の手にかけた。
続けて、もうひとこと。
「『返事がほしい』は愛にゃ。
愛を疑うのは、自分を傷つけるだけにゃ。」
女性は肩の力を抜いて、小さくうなずいた。
「もう一度、こっちから連絡してみます。
返事を待つんじゃなくて、ちゃんと気持ちを届けたい。」
帰り際、ミルはカウンターから魚型クッキーをころんと落とした。
ふわりとミルクティーの香りが漂う。
〈愛は返事の数で測らないにゃ〉
そんなメッセージを添えるように。
女性が扉を出ると、外は月の光がさざめくように白かった。
ミルはカウンターの上で目を細め、
その尻尾が一度だけ、ぽふりと優しく揺れた




