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1章7節「狩人としての独り立ち」

できるだけ、矛盾の内容に話を積み重ねているつもりですが、よろしくお願いします。

初めて一人で森へ入る朝。


明は、まだ薄靄のかかる森へと足を踏み入れた。

昨日まで隣にいた、頼れる師であり相棒でもある男の姿はない。


静寂が、いつもより深く身体に染み渡るようだった。


ガルドから教わった通り、風下に立ち、気配を殺し、森の呼吸に自らを同化させる。

だが、いざ一人となると、焦りからか、あるいは気負いからか、身体が思うように動かなかった。


その日の成果は、野兎が二匹。


ガルドと共に出ていた時と比べれば、半分以下の釣果だった。

村へ戻る足取りは、自然と重くなる。


しかし、明の帰りを待っていたガルドは、その貧相な獲物を見るなり、にかりと歯を見せて笑った。


「上出来じゃねえか。一人立ちした初日に、きっちり獲物を持ち帰るなんざ、大したもんだ。

俺が初めて一人で森に入った日は、坊主だったぜ」


その言葉に、明は救われた気がした。


翌日から、明の狩りは劇的に変化した。


一度一人でやり遂げたという自信が、彼の精神に余裕をもたらしたのだろう。

彼は、狩りという行為そのものに、純粋な楽しみを見出し始めていた。


それは、かつて彼が熱中したゲームの攻略に酷似していた。


けもの道を見つければ、すぐに獲物を追うのではなく、まずは辛抱強く観察する。

どの時間帯に、どんな獲物が、どれくらいの頻度で通るのか。


それを頭の中に記憶し、自分だけの狩場マップを作り上げていく。


獲物が獲れない日ですら、彼はそれを失敗とは捉えなかった。

新たな鳥の営巣地を発見したり、狼の縄張りの境界線を見極めたりすること。


それら一つひとつが、彼にとってはゲームのマップを踏破していくような、確かな達成感をもたらした。


無意識に発動している『気配察知』というスキルは、そんな彼の「攻略」を強力に後押しした。

ガルドが長年の経験で培った勘を、明は生まれ持った才能であるかのように、いとも容易く発揮してみせる。


日が経つにつれて、彼の持ち帰る獲物の数は着実に増えていった。


やがて一日あたり四匹の獲物を安定して持ち帰るようになると、その噂はすぐにガルドの耳にも届いた。


ベテランの猟師は、弟子の急成長に目を細めると同時に、その職人気質に火をつけられたようだった。


「へっ、昨日も四匹仕留めたってな、アキラさん。若い奴にゃあ、まだまだ負けてられねえな」


そう言って森へ向かうガルドもまた、その日からきっちりと四匹の獲物を持ち帰るようになった。

長年の経験と勘を総動員し、若き才能に対抗しているのは明らかだった。


「ガルドさん、別に俺、競ってるつもりはないんだが……」


村の井戸端で顔を合わせた際、明が苦笑しながら言うと、ガルドは豪快に笑い飛ばした。


「いいんだよ。おかげで、こっちも身体が鈍らずに済む。

それに、村の連中も喜んでる」


その言葉通り、村での明の立場は、この数日で驚くほど穏やかなものになっていた。


初日に向けられていた警戒や値踏みするような視線は、今や温かな信頼と感謝に変わっている。


彼が獲物を背負って村に帰ると、子供たちが駆け寄ってきて、その周りを囃し立てるようになった。


「アキラ様、いつもすまないねえ。これ、うちの畑で採れたもんだけど、お口汚しにでも」


時折、村の奥さんが、煮物や漬物の入った小さな壺を、はにかみながら差し出してくれることもあった。

干し肉と黒パンばかりの食卓に、その素朴な家庭の味は、望外の喜びだった。


そんな穏やかな日々がしばらく続いた、ある日の夕暮れ。


明はその日もまた、小さな壺を片手に家路についていた。


村の中央で、エルが友人らしき娘と立ち話をしているのが見える。

彼女はまだ松葉杖を手にしてはいたが、それに全体重を預けることなく、一歩一歩、確かめるように歩く練習をしているようだった。


「アキラ様!」


明に気づくと、エルは嬉しそうに顔をほころばせ、ゆっくりと、しかし確かな足取りで彼の方へ歩み寄ってきた。


その手には、明が昨日分け与えた兎の毛皮で作った、小さな髪飾りが揺れている。


「おかえりなさい。今日も、たくさん獲れたのですね」

「ああ。……それより、お前も大変だな」


明の視線は、彼女がおぼつかない足元を支える松葉杖に向けられていた。


「いいえ。アキラ様が獲ってきてくださるおかげで、村の皆の暮らしが本当に助かっているのですから。

これくらい、当然です」


エルはそう言うと、明が手にしている壺に気づき、その愛らしい眉をきゅっと寄せた。


「……まあ。また、どなたかから差し入れですか?

アキラ様は、本当に人気者ですね」


少しだけ拗ねたような、甘えた響き。

その響きに、明の胸が微かに温かくなる。


その直後だった。


視界の端に、鋭い視線を感じた。

見れば、少し離れた場所から、カインが苦々しい顔でこちらを睨みつけている。


もはや、日課のような光景だった。


明が軽く肩をすくめると、カインは忌々しげに舌打ちをして、踵を返した。


(やれやれ……)


その夜、明はもらいものの煮物を肴に、一人、静かな夕食をとっていた。


明日からは、もう少し森の奥へ入ってみようか。

まだ見ぬ獲物や、未知の地形が、彼を待っている。


灰色の日常では決して感じることのなかった、未来への確かな期待。


(……悪くない。本当に、悪くない人生だ)


そう思った瞬間、脳裏に妻と息子の顔が浮かび、すぐに掻き消えた。


明は、自嘲するように小さく息を吐くと、黙々と煮物を口に運んだ。


そうして、ウンドレダル村の穏やかな夜は、静かに更けていった。



9/26 まだまだここのシステムに慣れていないので見にくかったりしたら教えてください。

少しでも皆さんに見てもらえてるのならうれしいです。

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