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3章16節「凱旋と贈り物」


ドランメンの灰色の城門を、一行が朝日と共に後にした時、彼らを乗せてきた荷馬車は、往路とは比較にならないほど、ずしりとした重みを湛えていた。

北方の鉱石や、この地でしか手に入らぬモンスターの素材。商人アントンの顔には、満足げな笑みが浮かんでいる。


王都への帰路は、不思議なほど穏やかなものに感じられた。

いや、実際には、決して平穏ではなかった。


往路とは違い、帰り道では、元傭兵とおぼしき野盗の一団や、はぐれモンスターの群れとの遭遇が、三度ほどあったのだ。

だが、今の俺たちにとって、それらはもはや深刻な脅威ではなかった。


「―――グンター、正面を頼む! 俺とグッズさんは両翼から!」


俺の短い指示に、仲間たちが、まるで一つの生き物であるかのように反応する。

グンターの鉄壁の守りが野盗たちの突撃を完璧に防ぎ止め、俺とグッズが、その両側面から、冷静に、しかし圧倒的な力で敵を切り伏せていく。

後方からは、クララの杖から放たれる<<ファイヤーアロー>>が、逃げようとする者の退路を断ち切り、サイモンの聖なる障壁が、味方に飛んでくる矢を弾き返す。


戦闘は、いつもあっという間に終わった。

一年近く前、下水道でネズミ相手に大混乱していたのが、嘘のようだ。


俺たちは、この旅を通じて、確実に強く、そして熟練になっていた。

その事実が、俺の胸を確かな自信で満たしていた。


 


□■□■□■


 


十日後、俺たちの目の前に、王都スタヴァンゲルの壮麗な城壁が、再びその姿を現した。


アントン旦那の店まで、彼と荷物を無事に送り届けたところで、約一ヶ月に及ぶ長い護衛任務は、ついに完了となった。


「見事な仕事ぶりだった。君たちに頼んで、正解だったよ。今後も、ぜひ君たちに頼みたい。王都に戻ったら、また改めて使いをやろう」


アントン旦那は、そう言って、心ばかりの色を付けてくれた追加の報酬を、俺に手渡してくれた。


その後、俺たちはギルドへ向かい、正式に依頼達成の証明書を提出した。

受付の女性は、アントン旦那の署名を確認すると、にこやかに頷き、奥の金庫から、ずしりと重い革袋を取り出してきた。

ギルドに預けられていた、俺たちの正式な報酬だ。


「ようし、お前ら! 今夜はパーっとやるぞ!」


グッズの威勢のいい声に、仲間たちが歓声を上げる。

ギルドに併設された酒場で、俺たちはエールの杯を高々と掲げ、長い任務の成功を、盛大に祝した。


だが、その祝杯もそこそこに、俺は仲間たちに断りを入れて、一人、席を立った。


「悪い、俺は先に帰る」

「はいはい、分かってるって。リーダーは、可愛い奥さんが待ってるもんな!」


グッズの、からかうような声に、俺は照れ隠しに手を振りながら、足早に酒場を後にした。


 


懐には、ドランメンの市場で見つけた、細工の細かい花の髪飾りが、大切にしまわれている。

一ヶ月ぶりに、愛する妻に会える。


その事実だけで、俺の心は浮き立っていた。


 


アパートの扉を開けると、そこには、待ちわびていた、世界で一番愛しい笑顔があった。


「おかえりなさい、アキラ!」


俺は、返事の代わりに、エルを強く、強く抱きしめた。

旅の疲れが、彼女の温もりの中に、すうっと溶けていくようだった。


その夜の食卓で、俺は今回の旅の出来事を、エルに面白おかしく話して聞かせた。


「……それでな、ドランメンの酒場には、ドワーフがたくさんいるんだが、これが、とんでもねえ酒豪なんだ。男も、女も、だ。俺とグンター、グッズさんの三人がかりで挑んだんだが、全員返り討ちだ」


俺が、火のように熱い酒を水のように飲むドワーフたちの話や、それに付き合わされて、グッズが店のテーブルの下で潰れていた、という話を少しだけ脚色して語ると、エルは腹を抱えて、涙が出るほど笑っていた。


その笑顔が見たくて、俺はこの一ヶ月、頑張ってきたのかもしれない。


食事が終わり、二人で暖炉の火を見つめながら、穏やかな時間を過ごす。


俺は、そっと懐から、小さな包みを取り出した。


「……これ」

「まあ……!」


包みを開いたエルの瞳が、驚きと喜びに、きらきらと輝いた。

ドランメンの銀細工で作られた、可憐な花の髪飾り。


「きれい……。ありがとう、アキラ」


彼女は、さっそくその髪飾りを自分の黒髪に挿し、少しだけはにかみながら、俺を見つめた。

その姿は、どんな宝石よりも、美しかった。


俺は、そんな彼女の顔を見ているうちに、どうしようもなく、愛おしさが込み上げてくるのを感じていた。


「……エル」


俺が彼女の名前を呼ぶと、彼女もまた、全てを理解したように、潤んだ瞳でこくりと頷いた。


俺は、エルの細い身体を、そっと、しかし力強く抱き寄せた。

この腕の中にある温もりこそが、俺がこの世界で戦う理由の、全てだった。



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