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3章15節「交易都市の夜とドワーフ流のもてなし」


ドランメンの灰色の城門が見えてきた時、俺は思わず口の端を上げた。

王都スタヴァンゲルから十日。正直、退屈な旅だった。街道沿いの風景は代わり映えしねえし、護衛対象のアントン旦那は良い人だが、いかんせん真面目すぎる。


「すげえ……」


隣を歩くアキラが、子供みたいに声を上げた。まあ、無理もねえか。この街は、他のロキア王国のどの都市とも違う。全ての建物が、山から切り出された石で、がっしりと組まれているんだ。


「おい、見ろよアキラ! ドワーフだ!」


俺が指差した先では、背は低いが、屈強な体つきをしたドワーフの男たちが、荷馬車から鉱石らしきものを降ろしていた。この街は、竜牙山脈の鉱山と繋がっているせいで、ドワーフの姿も珍しくない。


「本物、なのか……?」


アキラの奴、目をきらきらさせやがって。こいつの反応は見ていて飽きねえ。


 


五日間の滞在。俺たちは、アントン旦那が手配してくれた、個室のあるちゃんとした宿屋に部屋を取った。駆け出しの頃、雑魚寝の大部屋で、いびきや寝言に悩まされた夜を思えば、まさに天国だ。


部屋に荷物を置き、旅の汚れを落とした俺たちは、早速、無事を祝して街の酒場へと繰り出した。


「じゃあ、俺たちの仕事の成功と、ドランメンの夜に、乾杯!」


俺の音頭で、五つのエールの杯が、景気のいい音を立ててぶつかり合う。

この街は、山が近いせいか、王都とは違って猪や鹿といった、野趣あふれる肉料理が豊富だ。少し硬いが、噛めば噛むほど味が染み出てくる。腹も満ちて、酒も回ってきた頃だった。


 


「さて、と。じゃあ、俺達はこれから、親睦を深めに行くとするか!」


俺がそう言って立ち上がると、クララが、すっと俺たちの前に立ちはだかった。


「サイモンは、置いて行って。わたくしと宿に戻ります」


「おいおい、クララ。たまにはサイモンにも楽しい思いをさせてやらないと。いつも俺たち男だけで、のけ者にしてるみたいで申し訳ねえしな。男同士の付き合いってもんも、あるんだぜ?」


「サイモンに、あなたたちのような、はしたないことを教えるのは禁止です。彼が汚れてしまいますわ。……さあ、行くわよ、サイモン」


「は、はい!」


クララはそう言うと、有無を言わさぬ様子でサイモンの腕を掴み、さっさと店を出て行ってしまった。残された俺たちは、ただ顔を見合わせるしかない。


「……すっかり、尻に敷かれてやがるな、あいつ」


まあ、それも青春だ。俺たちは俺たちで、この街の夜を楽しむとしよう。


 


俺が、アキラとグンターを連れて向かったのは、女性のいる酒場だった。


「へえ、ドワーフのねーちゃんもいるのか」


グンターが、珍しそうに呟く。アキラも、興味津々といった顔だ。


「よし、今夜はドワーフのねーちゃんを呼んでみるか!」


俺の提案に、二人は乗り気だった。


 


席についてくれたドワーフの女性は、確かに愛嬌があって可愛らしかった。

ただ、よく見ると、うっすらと口ひげが生えている。


「あら、これのこと? 今朝剃ったんだけど、すぐに生えてきちゃうのよ。こっちは、剃ってないけどね!」


彼女はそう言って、悪戯っぽく笑いながら、むわっと脇を見せてきやがった。


まあ、ここまではご愛嬌だ。ひどかったのは、ここからだった。


 


彼女は、飲む。とにかく、飲む。


俺たちがエールを一杯飲み干す間に、彼女は三杯は空けている。それも、水でも飲むかのように。


「ねえ、あんたたち。こんな薄い酒じゃ、飲んだ気がしないわね。もっと強いお酒を飲まない? ここの名物よ」


そう言って、彼女が注文したのは、この地方特産の、火酒と呼ばれる蒸留酒だった。


「よーし、じゃあ、みんなで乾杯だ!」


俺たちも、見栄を張って同じものを頼んだ。そして、後悔した。


グラスを呷った瞬間、喉が、焼けるように熱い。本当に、口から火を噴きそうだった。


一杯、二杯と杯を重ねるうちに、俺たちの意識はどんどん朦朧としていく。


「あらあら、弱いのねえ。これでも、故郷の酒に比べりゃ、水みたいなもんなんだけど」


彼女はそう言って、火酒を水のように飲み干していく。無理だ。こいつらには、勝てねえ。


 


そうこうしているうちに、案の定、アキラがぐでんぐでんに酔っぱらい、隣に座るドワーフの女性の、豊かな胸に顔をうずめるようにして、突っ伏して寝てしまった。


(……いつも思うが、うらやましい酔い潰れ方だぜ、まったく)


グンターの呂律も、すでにあやしい。俺も、さすがにきつい。


この後、本番の色街にでも繰り出す予定だったが、こりゃあ、もう無理だな。


「……わりい。今日は、お開きだ」


俺は、勘定を済ませると、意識のないアキラを肩に担ぎ、千鳥足のグンターに肩を貸しながら、這う這うの体で店を後にした。


明日の朝は、きっと三人そろって、最悪の二日酔いだろうな。



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