3章12節「確かな評判とその重み:王都凱旋」
王都への帰還は、静かなものだった。
ヒュドラ討伐という大任を果たした彼らを、門で出迎える者など誰もいない。
彼らはただ、疲労困憊のまま、それぞれの宿へと一度戻り、それからギルドへと向かった。
だが、ギルドの中では、その事実は確かな熱を持って受け止められていた。
一行が受付で依頼の完了を報告し、将軍から預かった軍功書を差し出すと、受付の女性は、その羊皮紙に刻まれた紋章を見て、一瞬だけ目を見開いた。
しかし、すぐにプロの顔に戻ると、手際よく確認作業を終え、奥へと駆け込んでいく。
しばらくして戻ってきた彼女は、穏やかな、しかし敬意のこもった声で一行に告げた。
「―――ギルド長がお呼びです。執務室へどうぞ」
王都冒険者ギルドの最奥、ギルド長の執務室。
そこに通された彼らを待っていたのは、歴戦の古強者であるギルドマスターの、険しい顔だった。
「―――軍功書、確かに拝受した。素晴らしい働きだったと、将軍からも報告を受けている」
ギルドマスターは、アキラが差し出した羊皮紙に目を通すと、深く頷いた。
「約束通り、追加の報奨金を支払おう。ギルドとしても、君たちの功績には感謝する」
受付で手渡された革袋はずっしりと重く、中には金貨が何枚も混じっていた。
その重みに、パーティーの誰もが、自分たちが成し遂げたことの大きさを改めて実感していた。
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その夜、アキラは三人で飲む楽しさを、改めて実感していた。
これまでは、依頼が終わればまっすぐ家に帰るのが常だったが、ヒュドラ討伐の祝杯の後から、グッズやグンターと共に、男三人で飲みに出かけることが増えていったのだ。
最初は、グッズが行きつけにしている、ギルドから少し離れた居酒屋だった。
だが、ある日のことだった。
「悪い、俺は今日、ちょっと違う店に行かなきゃならんから、ここで」
祝杯を終え、ギルドを出たところで、グッズが一人だけ別れようとした。
「どこへ行くんですか?」
グンターが尋ねると、グッズは少し照れたように頭を掻いた。
「馴染みの女がいる店なんだが、最近顔を出してなかったら、いい加減来いって呼ばれちまってな」
「俺たちも、行っちゃダメですか?」
グンターの、好奇心に満ちた言葉に、グッズは呆れたように笑った。
「別に構わねえけどよ……お前らも好きだなあ」
そうして連れて行かれたのは、これまでの酒場とは全く雰囲気の違う、女性が客の隣に座って接待をしてくれる、いわゆるクラブのような店だった。
薄暗い照明、柔らかな絨毯、そして、なによりも美しい女性たち。
彼女たちは、エルフやそれに類する種族なのか、人間離れした美貌を持ち、肌は本当に透き通っているかのように白い。
胸元も大胆に開いたドレスを身にまとい、客の隣にぴったりと密着して、親しげに酒を注いでくれる。
その、華やかで、少しだけ背徳的な雰囲気に、アキラはすっかり魅了された。
それからというもの、アキラは週に一度ほどの頻度で、グッズたちと共にその店へ通うようになった。
ヒュドラ討伐の功績は、ギルドを頻繁に利用する裕福な商人や、依頼主となる貴族たちの間でも、噂として広まっていた。
「希望の園」は、困難な依頼でも確実に成功させてくれる、信頼できるパーティーとして、評判になっていったのだ。
その結果、彼らは依頼を終えた後に、他の実力派パーティーとの飲み会や、商人・貴族との食事会に招待される機会が、格段に増えていった。
アキラは、そうした華やかな席にも、少しずつ慣れていった。
もっとも、グッズはそういった堅苦しい席が苦手なようで、「そういうのはリーダーの仕事だろ? 俺はパスだ」と、巧みにアキラに役目を押し付けていたが。
やがて、ギルドの掲示板から依頼を探すだけでなく、特定の商人や貴族から、直接、指名で依頼が舞い込むようになった。
パーティーの収入は、シルバー等級に上がった当初とは比較にならないほど、安定し、そして増えていった。
アキラは、満たされていた。
愛する妻は、日に日に美しくなっていくように見えた。
最高の親友は、いつも自分たち夫婦を気遣い、退屈な日常に刺激的な楽しみを教えてくれる。
そして、新しい仲間たちは、今や王国でも屈指の実力者として、自分をリーダーと慕ってくれている。
彼は、この充実した日々を、ただ純粋に楽しんでいた。




