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3章8節「鉄等級の証明」

(アイアン)等級としての日々は、順調そのものだった。

パーティー「希望の園」は、アキラとグッズという二人の突出した実力者を軸に、安定して依頼をこなし、着実に評価を上げていった。


 


そんなある日の夕暮れ、依頼を終えた一行がギルドの酒場に立ち寄ると、そこはいつもとは違う、少しだけ沈んだ空気に包まれていた。


アキラたちが席に着くと、隣のテーブルに座っていたベテラン冒険者たちの、ひそひそとした会話が耳に入ってくる。


「おい、聞いたか? 『赤獅子団』の連中、まだ戻ってこないらしいぜ」

「ああ、例の廃坑の調査依頼だろ? もう予定から三日も過ぎてる。……こいつは、もうダメかもな」


「赤獅子団」は、アキラたちと同じ、鉄ランクのパーティーだった。

特別親しいわけではないが、ギルドで何度も顔を合わせており、アキラたちにとっても顔なじみの存在だった。


彼らが、最近立て続けに依頼を失敗し、金銭的にも追い詰められ、焦っていたという噂は、アキラたちの耳にも届いていた。


「……そんな……」

サイモンが、純粋にショックを受けた顔で呟く。


「気の毒な話ですけれど、私たちには関係ありませんわ」

クララは、冷たいとさえ思えるほど冷静に言い放った。


「彼らとは違う。私たちのパーティーには、アキラとグッズさんがいる。どんな危険な依頼でも、この二人がいれば、絶対に大丈夫ですもの」


グンターとサイモンもまた、その言葉に深く頷いた。


彼らの心には、先輩パーティーへの同情と共に、自分たちは決してそうはならないという、絶対的な安心感が芽生えていた。


グッズは、そんな新人三人の危ういほどの安心感に、何も言わずにエールを呷るだけだった。


 


□■□■□■


 


数日後、パーティーは新たな依頼を受けた。


「近くの森に、オークが5匹ほど住み着いたので討伐してほしい」


鉄ランクのパーティーにとっては、標準的な難易度の依頼だった。


依頼を受けた一行が現場の森に到着し、オークたちの拠点を発見する。


事前の観察で、報告より1匹多い6匹のオークがいることを確認したが、グッズは「この程度なら問題ない」と判断した。


「よし、いつも通り、グンターの訓練を兼ねてやるぞ。少し手加減して、あいつにオークの攻撃を受けさせろ。サイモン、回復頼むな」


アキラも頷き、ややゆったりとした戦闘が開始された。


 


しかし、それは致命的な油断だった。


彼らがオークとの戦闘に突入し、その剣戟音が森に響き渡った瞬間、森のさらに奥から、地を揺るがすような咆哮と共に、新たな影が現れた。


「……嘘だろ」


グッズの呟きに、全員が戦慄した。


周囲の木々をなぎ倒すようにして現れたのは、角の生えた鬼のような顔の巨漢――オーガ。

それも、一体や二体ではない。


七体ものオーガが、戦闘の匂いを嗅ぎつけて姿を現したのだ。


 


訓練気分は、一瞬で吹き飛んだ。


「全員、総力戦だ! 死にたくなければ、気合を入れろ!」


グッズの檄を合図に、パーティーは持てる力の全てを振り絞って応戦する。


グンターは、パーティーが包囲されぬよう必死に立ち回り、その盾で砕けんばかりにオーガの棍棒を受け止める。


サイモンは、魔力の消費を計算しながら、仲間たちが致命傷を負わないよう、的確に回復魔法を飛ばした。


クララもまた、この乱戦において必死だった。


「―――燃え盛る矢よ、彼の者を貫け! <<ファイヤーアロー>>!」


彼女の杖から放たれる炎の矢は、オーガの分厚い皮膚を焼き、その動きを確実に鈍らせていく。


アキラとグッズもまた、もはや手加減はしていなかった。


二人は、まるで一つの生き物であるかのように息を合わせ、一体のオーガに切りかかるグンターの死角を完璧にカバーし、別のオーガを切り伏せていく。


 


一時間を超える死闘の末、一行はなんとか勝利を収めた。


満身創痍の彼らが、討伐の証拠であるオークの耳と、オーガの牙を大量に抱えてギルドに帰還すると、周囲の冒険者たちがざわついた。


「おい、あれ、『希望の園』の連中じゃねえか?」

「ああ。だが、なんだってんだ、あのオーガの牙の量は……。あいつら、まだ鉄ランクだろ? よく生きて帰ってこれたな……」


受付の女性は、彼らが持ち帰った証拠の量に目を丸くしたが、それが本物であると確認されると、すぐに奥へと走っていった。


やがて、ギルドマスター自らが現れ、調査の不備を丁重に詫びると共に、彼らの功績を称えた。


当初の依頼料に、オーガ七体分の追加報酬、そして困難な状況を乗り越えたことへの特別報奨金が上乗せされ、革袋はずっしりと重くなった。


この一件により、パーティー「希望の園」の名声は、王都の冒険者たちの間に一気に広まることになる。


「おい、聞いたか? 新人の『希望の園』が、オーガの群れを壊滅させたらしいぜ」

「ああ。どうやら、鉄ランクとは思えない、とんでもなく強い連中がいるらしい」


その噂は、確かな事実として、駆け巡った。


 


そして、その日の夕方。

報酬の計算を終えた一行は、受付に再び呼び出された。


「―――パーティー『希望の園』の皆さん。これまでの安定した依頼達成と、今回の功績を総合的に判断し、本日をもって、あなたたちを(シルバー)等級へ昇進させます」


受付の女性の、凛とした声が響く。


パーティー結成から、わずか三ヶ月。

その異例の速さでの昇進に、アキラたちは、一瞬の沈黙の後、大きな歓声を上げた。


「やった!」

「よっしゃあ!」


アキラとグッズは、子供のようにお互いの手を握りしめ、ガッツポーズを決めた。

グンター、クララ、サイモンの顔にも、これまでにないほどの喜びと、誇らしげな色が浮かんでいる。


その日、彼らがギルドの酒場で飲んだエールの味は、これまでの人生で味わった、どんな酒よりも美味かった。



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