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3章4節「駆け出しの日常と募る不安」

パーティー「希望の園」の船出は、お世辞にも順風満帆とは言えなかった。

(カッパー)等級の新人パーティーである彼らが、王都のギルドで受けられる依頼は、そのほとんどが討伐とは無縁の雑用仕事ばかりだった。


「また薬草採集か……」


ギルドの掲示板の前で、グンターがうんざりしたように呟く。


「仕方ないさ。これが新人ってもんだ。文句言わずに、きっちりこなしていくしかねえよ」


グッズはそう言って仲間たちを励ますが、アキラ以外の三人の顔には、隠しきれない落胆の色が浮かんでいた。


それでも、彼らは真面目だった。

依頼の一つひとつを、手を抜くことなく、一生懸命にこなしていく。


その実直な仕事ぶりは、ギルドの職員たちの間でも、少しずつ評判になっていた。


 


□■□■□■


 


だが、彼らの実力からすれば、その仕事はあまりにも張り合いのないものだった。


ある日の薬草採集の依頼では、目的の薬草は早々に見つかったものの、クララが別の希少な植物を発見してしまったことから、事態は思わぬ方向へと転がった。


「待って! これは……なんてこと、こんな場所に自生しているなんて!」


彼女は、元研究者の顔に戻り、地面に這いつくばって植物の観察を始めてしまう。

その瞳は、もはやパーティーのことなど見えていない。


結局、その日は彼女が満足するまで、一行は森の中から帰ることができなかった。


 


また、別の日の教会へのお使いの依頼では、サイモンがその優しさから、問題を引き起こした。


依頼先の教会が、病に苦しむ人々で溢れかえっているにもかかわらず、回復魔法の使い手が足りていない状況を目の当たりにしてしまったのだ。


「……僕に、手伝わせてください!」


彼は、仲間たちが止めるのも聞かず、自らの魔力が尽きるまで、見ず知らずの人々のために回復魔法をかけ続けた。


その献身的な姿と確かな腕前に、教会の司祭はいたく感動し、

「ぜひ、当教会に!」と、熱烈なスカウトを受ける羽目になった。


 


そんな、どこか微笑ましくも、もどかしい日々。

アキラは、そんな毎日ですら、仲間たちと共にいるというだけで、十分に楽しかった。


 


その夜も、アキラは満足げな顔で、エルにその日の出来事を話していた。


「……はは、それでな、サイモンの奴、司祭様にすごい剣幕で迫られて、泣きそうになってたんだぜ」

「まあ、大変でしたのね」


エルは、心からの笑顔で相槌を打つ。


夫が、この世界で仲間を見つけ、楽しそうにしている。

その事実が、彼女にとっても何よりの喜びだった。


だが、アキラが先に眠りについた後、一人きりになった部屋で、彼女の表情は、いつも静かな不安の影に覆われるのだった。


(……銀貨、五枚……)


テーブルの上に置かれた、今日の報酬。五人で分けた、アキラの取り分。


この宿の代金は、一晩で銀貨十枚。

それに、日々の食費。


駆け出しの頃は大変だって、覚悟していなかったわけじゃない。

でも、こうして現実を目の当たりにすると、やっぱり胸が苦しくなる。


このままでは、アキラが村で一年かけて稼いだお金が、あっという間に底をついてしまう。


(……私が、働かないと)


その思いは、日に日に強くなっていた。

アキラに心配をかけたくない。

彼の負担には、なりたくない。


 


□■□■□■


 


数日後、エルは意を決し、一人でグッズの部屋を訪ねた。


「……仕事を探したい、ですか?」


エルの唐突な申し出に、グッズは驚いたように聞き返した。


「はい。私にも、何かできることがあるはずです。裁縫でも、料理でも……」


「……気持ちは、分かる。分かるが、それはアキラのためにならねえと思うぜ」


グッズの声は、いつになく優しく、そして真剣だった。


「いいか、エル。あいつは今、リーダーとして、必死で頑張ってる。あんたを、そして新しい仲間たちを、自分の力で食わせていきたいんだ。


そんな時に、あんたが働きに出ちまったら、あいつはどう思う?

自分の力が足りないせいだって、責任を感じて、潰れちまうかもしれねえ」


その、どこまでもアキラのことを思ってくれる言葉に、エルの胸は熱くなった。

だが、現実問題として、お金は日に日に減っていく。


「でも、このままでは……」

「分かってる。だから、こうしよう」


グッズは、まるで言い聞かせるように、穏やかに続けた。


「この王都で、女一人が安全に働ける場所なんざ、そう簡単に見つかるもんじゃねえ。下手に動いて、あんたの身に何かあったら、それこそアキラが悲しむ。


だから、働き口のことは、俺に任せろ。ちゃんとした、安全な場所を、俺が責任もって探してやる。いいな?」


それは、断りようのない、優しい提案だった。


「……その間、生活が苦しいのは分かってる。だから、これは、俺からじゃねえ。パーティーの仲間として、『希望の園』への貸しだ」


グッズはそう言うと、自分の革袋から、銀貨を数枚取り出した。


「アキラには、内緒だぜ? これは、俺からあんたへの先行投資ってやつだ。あいつが、でっかい仕事を成し遂げた時に、美味い酒でもおごってくれりゃ、それでチャラだ」


そう言って、彼は半ば強引に、エルの手に銀貨を握らせた。


その温かさが、ありがたくて、そして少しだけ、惨めだった。


その日から、エルが金銭的な不安に押しつぶされそうになると、グッズがそっと援助してくれるという、二人の間だけの秘密の関係が、静かに始まってしまった。



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