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3章2節「新しい歩み」

10/1 おはようございます。今日から10月ですね。

今日は「都民の日」で学校などは休みのところが多いみたいですね。

王都スタヴァンゲルに来て、三日目の朝。


アキラとエルは、宿屋の階下にある食堂で、質素だが安くはない朝食をとっていた。エルは、運ばれてきた黒パンとスープの代金を頭の中で計算しながら、日に日に軽くなっていく革袋の重みを憂いていたが、アキラはそんな妻の心労など露知らず、今日これから会うであろう、新しい仲間たちのことで頭がいっぱいだった。


「よう、二人とも。朝から熱々だな」


そこへ、グッズがいつものように陽気な声を響かせながら現れた。


「準備はいいか、リーダー?」


「頼むから、その呼び方はやめてくれ」


アキラが苦笑いを返すと、グッズは悪戯っぽく笑った。


「はは、照れるなよ。さあ、行くぜ。約束通り、腕利きの奴らを連れてきたからな」


「エル、すまないが、留守を頼む」


「ええ、いってらっしゃいな。私のことは気にしないで」


エルは、完璧な妻の笑顔で夫を送り出した。


 

□■□■□■ 

 


グッズに案内されて向かったのは、王都の門から少し離れた、だだっ広い野原だった。


早朝ということもあり、そこには誰の姿もなく、三人の男女が、少しだけ緊張した面持ちでぽつんと立っているだけだった。


「よお、待たせたな!」


グッズが声をかけると、三人は一斉にこちらを向いた。


「こっちが、俺の話してたリーダーのアキラだ。で、こっちが俺が見繕ってきた、未来のエースたち」


グッズの紹介を受け、三人がそれぞれ前に進み出た。


最初に名乗りを上げたのは、アキラと同じくらいの背丈だが、まるで岩のような体躯を持つ、ガタイのいい青年だった。


「グンターだ。盾役をやっている。よろしく頼む」


その声は、若々しいが、落ち着き払っていた。


次に、少し年上だろうか、知的な雰囲気を漂わせる、胸の豊かな女性が、優雅に一礼した。


「クララと申します。魔法使いですわ。以後、お見知りおきを」


最後に、まだ少年と言っていいほどの、人の好さそうな顔立ちの青年が、緊張で上擦った声で挨拶した。


「さ、サイモンです! 僧侶です! よろしくお願いします!」


 

□■□■□■ 

 


「さて、と。まあ、自己紹介はこれくらいにして」


グッズは、パンパンと手を叩いた。


「ギルドに登録する前に、お互いの腕がどんなもんか、見せ合っておくのが筋ってもんだ。なあ、アキラ?」


「ああ、そうだな」


まず、アキラはグンターと向き合った。


「模擬戦形式でいいか? 本気でやる必要はない。お互いの力量が分かればいい」


「承知」


グンターは、背負っていた巨大な盾を構え、腰の剣を抜いた。アキラもまた、鉄の剣を構える。


合図と共に、アキラは地面を蹴った。力を抜いているとはいえ、その踏み込みは常人のそれを遥かに凌駕する。だが、グンターは少しも動じなかった。


アキラの剣が盾に触れる、その寸前。


「―――武技、『要塞』!」


グンターの身体から、淡い光が放たれた。アキラの剣は、まるで分厚い鉄壁に阻まれたかのように、びくともしない。その衝撃は、完全に殺されていた。


(……すごいな)


アキラは素直に感心した。ゴブリンやオーク程度であれば、この男の守りを抜くのは不可能だろう。


「……十分だ。ありがとう、グンター。頼りにしてる」


「ああ」


グンターは、短く応えると、満足そうに口の端を上げた。


 

□■□■□■ 

 


次に、クララが前に進み出た。


「では、わたくしは、あそこの岩を」


彼女が指差した先には、訓練の的にされているのであろう、大きな岩が鎮座している。彼女は杖を構え、滑らかな声で詠唱を始めた。


「―――燃え盛る矢よ、彼の者を貫け! <<ファイヤーアロー>>!」


杖の先から放たれた炎の矢は、寸分の狂いもなく岩に着弾し、その表面を赤熱させた。さらに、彼女は詠唱を続ける。


「―――爆ぜよ、炎の塊! <<ファイヤーボール>>!」


今度は、先ほどより遥かに大きな火球が出現し、轟音と共に岩を砕いた。


「……すごい威力だな」


アキラが感心していると、クララは、自らが放った炎が燃え盛る様を、どこか楽しげに、満足そうににやにやと見つめている。


(少し、引くな……)


アキラはその様子に若干の違和感を覚えながらも、その確かな攻撃力を高く評価し、彼女の採用を心に決めた。


 

□■□■□■ 

 


最後に、サイモンがおずおずと前に進み出た。


「で、では、私から、アキラさんに支援の魔法を……」


彼が祈りを捧げると、アキラの身体を、温かい光が包み込んだ。


その瞬間、アキラは、これまでに経験したことのない感覚に襲われた。


身体の芯から、力が漲ってくる。さっきまでの疲労が嘘のように消え去り、身体が、羽のように軽い。


「うおおおおおおっ!」


その初めての感覚に大興奮したアキラは、我を忘れて、野原の端から端までを、目で追えないほどの全速力で走り抜けた。


「……はぁっ、はぁっ……! す、すごい! 君、すごいじゃないか!」


しばらくして息を切らしながら戻ってきたアキラは、サイモンの両肩を掴み、興奮を抑えきれない様子で言った。


「採用だ! 君は、絶対に俺たちのパーティーに必要だ!」


その剣幕に、サイモンはただただ恐縮するばかりだった。


 

□■□■□■ 

 


こうして、新しい仲間たちは、無事に全員採用となった。


その日の午後、アキラ、グッズ、そして新しい三人の仲間たちは、連れ立って王都の冒険者ギルドへと向かった。


ギルドの受付で、グッズが手慣れた様子でパーティーの結成申請を進めていく。


「リーダーは、こいつ。アキラだ。で、こっちがメンバーな」


受付の女性は、にこやかに応対すると、手続きのために言った。


「はい、承知いたしました。では、パーティーに登録される皆様の、ギルド証をご提示ください」


その言葉に、グッズ、グンター、クララ、サイモンが、それぞれ首から下げていた銅製のプレートをカウンターに置いた。だが、アキラだけは、戸惑ったようにその場に立ち尽くしている。


「……アキラさん?」


受付の女性が、不思議そうな顔で彼を見た。その場の全員の視線が、アキラに集まる。


「ああ、悪りい悪りい」


グッズが、慌てたように割り込んだ。


「こいつはまだギルドに登録してねえんだ。今日、パーティー登録と一緒に、こいつの新規登録も頼む」


「……え?」


その言葉に、グンター、クララ、サイモンの三人の顔に、驚愕の色が浮かんだ。


「未登録……? アキラさんが?」

「あんな実力で、まだ銅ランクですらないっていうのか……?」

「グッズさん、一体、どこからこんな人を……」


三人が、ひそひそと囁き合っている。グッズは、そんな彼らの反応を楽しみながら、受付の女性にウィンクしてみせた。


「ま、色々と訳ありでな。頼むぜ、ねーちゃん」


受付の女性も、グッズとは顔なじみなのか、やれやれといった顔で肩をすくめると、手際よく書類を整えてくれた。


 

□■□■□■ 

 


「では、最後にパーティー名はどうなさいますか?」


受付の女性の問いに、今度は五人全員が、きょとんとした顔で顔を見合わせた。


「……おっと、そういや考えてなかったな!」


グッズが、頭を掻きながら叫んだ。


「よし、俺がいいのを考えてやる! その名も、『黄金を掴む鷲』! どうだ、かっこいいだろ!」


「品がありませんわね」クララが、即座に切り捨てる。「わたくしは、『真理の探究者』あたりがいいと思いますけれど」


「いや、もっと直接的でいい。『鋼の拳』だ」グンターが、無骨に提案する。


「ぼ、僕は、『女神の巡礼者』がいいかと……」サイモンが、おずおずと手を上げた。


カウンターの前で、好き勝手な名前を言い合って、議論が始まってしまう。受付の女性が、困ったような、しかし面白そうな顔でこちらを見ている。


「……みんな、静かに」


アキラの、静かだがよく通る声に、四人ははっとしたように口をつぐんだ。


「……ええと、だな」


アキラは、少し照れくさそうに、しかし、真剣な目で仲間たちを見回した。


「俺たちが目指すのは、ただ金を稼ぐだけじゃない。いつか、仲間みんなが安心して笑って暮らせる、そんな場所……楽園みたいな園を作りたい。このパーティーは、そのための、俺たちの希望の始まりなんだ。だから……『希望の園』、というのはどうだろうか」


一瞬の沈黙。


その、あまりに真っ直ぐで、少しだけ青臭い言葉に、誰もが何を言っていいか分からない、という顔をしていた。


その沈黙を破ったのは、やはりグッズだった。


「……ははっ! リーダー、ちっとばかしクサいが、悪くねえ! 気に入ったぜ!」


その言葉をきっかけに、他のメンバーも、「まあ、悪くないか」「ええ、素敵だと思います」と、口々に同意した。


こうして、アキラのギルドへの加盟と、新しいパーティー『希望の園』の登録は、滞りなく完了した。


 

□■□■□■ 

 


その夜、五人はエルと合流し、グッズの行きつけである、初日に訪れた賑やかな食堂で、ささやかな結成祝いを開いた。


アキラは、新しい仲間たちに、少し照れながら、エルを「俺の妻だ」と紹介する。


「へえ、こんな可愛い奥さんがいたのかよ、リーダー!」


「よろしくお願いいたします、グンターさん、クララさん、サイモンさん」


エルは、完璧な笑顔で応対する。その夜の食卓は、未来への希望と、新しい仲間たちとの出会いの興奮で、いつまでも賑やかだった。


宿屋への帰り道。


「いいメンバーがそろって、よかったわね、アキラ」


隣を歩くエルが、心から嬉しそうに言った。


「ああ。本当に」


アキラは、心からの満足感と共に、隣で微笑むエルの手をそっと握りしめた。愛する妻、信頼できる親友、そして新しい仲間たち。幸運な門出だった。



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