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1章1節:「始まりの森」

書いている方としては書き出しが一番燃えますね。


明は一度ログアウトし、モニターの前にいる鈴木に事の次第を伝えた。


「なるほど。そりゃあ、普段はエリアボスか対人戦しかしてないキャラですからね。雑魚相手じゃオーバーキルにもなりますよ」


鈴木は苦笑しながら、慣れた手つきで装備を変更していく。あの禍々しい大剣はインベントリに仕舞われ、代わりに腰に下げられたのは、いかにもな量産品といった風情の銅の剣。鎧も、身体のラインが浮き出るような皮製の軽鎧になった。


「これで、少しは手応えが出るはずです。じゃ、いってらっしゃい」


再び送り出され、明は先ほどの森へと舞い戻った。


装備は貧弱になったが、ステータスそのものは鈴木のキャラクターのままだ。スライムはやはり一撃で光の粒子と化したが、先ほどのような爆散はしない。少し進むと、棍棒を担いだゴブリンが二体、こちらに気づいて奇声を上げた。


銅の剣を振るう。一体目のゴブリンの首筋に浅く食い込み、緑色の体液がエフェクトとして飛び散った。怯んだところをもう一撃。今度は胴を深々と切り裂き、ゴブリンはポリゴンめいた悲鳴を上げて消滅した。もう一体のゴブリンが振り下ろした棍棒が肩に当たるが、軽い衝撃と共にHPバーが僅かに減るだけだ。痛みはない。


(これだ……! これだよ!)


適度な手応え。これこそが、明が求めていたゲーム体験だった。


初めてのVRMMORPGの感覚に、明は完全に心を奪われた。闇夜を見通せるスキルのおかげで、鬱蒼とした森は昼間のように見渡せる。土を踏みしめる足音、剣を振るった際の風切り音。その全てが新鮮で、楽しくて仕方がなかった。


ふと、疑問が湧く。

(そういえば、剣だけじゃないよな。魔法とかは、使えないんだろうか?)

ファンタジーゲームの華といえば、やはり魔法だ。ファイアボール、サンダーボルト。そんな呪文を一度は唱えてみたかった。しかし、どうすれば魔法が使えるのか、明には皆目見当もつかない。スキルウィンドウの開き方すら知らないのだ。まあいいか、と明はすぐに思考を切り替えた。今は、この剣を振るう感触だけで十分楽しかった。


しばらくゴブリン狩りを楽しんでいると、森の雰囲気が変わったことに気づいた。木々がより密になり、獣の咆哮が低く響く。その先にいたのは、豚のような顔をした、身長二メートルはあろうかという巨漢――オークだった。


ゴブリンとは明らかに格が違う。オークは明を視認するなり、錆びついた大斧を振りかざして突進してきた。その威圧感に一瞬気圧されるが、明は冷静に銅の剣を構える。振り下ろされる大斧を、剣の腹で受け流す。ずしり、と腕に重みは来るが、体勢が崩れるほどではない。オークは明の貧弱な装備を見て侮ったのか、大振りな攻撃を繰り返す。


(なるほど、パワーはあるが、動きは単調だな)


明はオークの攻撃を最小限の動きでいなし続ける。数合打ち合ったところで、相手の力量を完全に見切った。大斧が空を切った瞬間、がら空きになった脇腹に、吸い込まれるように銅の剣を突き立てる。


「ブゴッ!?」


オークが苦悶の声を上げる。剣を引き抜き、返す刃で膝裏を薙ぐ。巨体が体勢を崩して膝をついたところへ、明は躊躇なくその首筋に剣を振り下ろした。ごつり、という硬い感触と共に、オークの巨体は光の粒子となって霧散した。HPもほとんど減っていない。


(……なんだ、大したことないな)


これが、もし同レベルのプレイヤーであれば死闘になっていたかもしれない。だが、鈴木のキャラクターが持つ圧倒的な基礎ステータスの前では、オークですら少し骨のある雑魚でしかなかった。


その時だった。


遥か遠くの空が、突如として真昼のように輝いた。何事かと目を凝らすと、巨大な竜巻がいくつも天を衝き、天からは無数の火球が流星雨のように降り注いでいる。大地が、腹の底から揺さぶられるような轟音と共に震えた。


「な……んだ、あれ……」


天変地異。その言葉しか思い浮かばなかった。運営が仕掛けた最後のイベントか、あるいは、一体どれほどのレベルのプレイヤーが放った魔法なのか。明は、ただ呆然と、世界の終わりを思わせるその光景を見つめていた。


やがて天変地異は収まり、森に再び静寂が戻る。明はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて興奮が全身を駆け巡った。


(すげえ……! なんだよ、今の……!)


自分もいつかあんな魔法を使ってみたい。そんな子供じみた憧れを抱きながら、明はさらに森の奥へと足を進めた。世界の広大さを感じ、まだ見ぬ強敵や未知のアイテムに胸を躍らせる。そうして夢中で探索を続けるうち、どれほどの時間が経過しただろうか。


突如、夜空に巨大な花火がいくつも打ち上がった。赤、青、緑。大輪の花が咲いては消え、夜空を鮮やかに彩る。

(派手にやってるな……)

最終日のお祭り騒ぎの一環だろうと、明は特に気にも留めなかった。


ドォン、ドォン……。


最後の花火が消え、森に深い静寂が訪れた、その瞬間。


ぐらり、と視界が揺れた。


強烈な立ち眩みのような感覚に襲われ、明は思わず蹈-たたら-を踏む。


(なんだ……? VRでも、立ち眩みなんてあるのか……?)


奇妙な感覚だった。まるで、世界そのものが一瞬だけ軋んだような。だが、その違和感はすぐに消え失せ、明は再び歩き出そうとした。


その時だった。


「―――きゃあああああっ!」


甲高い、女性の悲鳴。


それは、今まで聞いてきたどんな効果音よりも、遥かに生々しく鼓膜を震わせた。


(これはもしかしてイベントなのか?)


明の心に、期待が膨らむ。彼は音のした方向へ、迷わず駆け出した。


木の根元に、少女がいた。歳は十六くらいだろうか。簡素な村娘の衣服を纏い、恐怖に顔を引きつらせて身を縮めている。その肩口の服は鉤爪のようなもので引き裂かれ、滲んだ血が赤黒い染みを作っていた。片足も不自然な方向に曲がっており、動かせないのか、必死に後ずさろうとしている。

(NPCの描写も細かいな……)

明は妙なところで感心しながら、状況を観察する。少女の周りを、七匹のゴブリンが下卑た笑いを浮かべながら取り囲んでいた。少女に完全に気を取られているようで、背後から近づく明の存在には、まだ気づいていない。


(なるほど、ゴブリンに攫われそうな村娘を助ける、王道イベントってわけか)


先ほどオークを屠ったことで、明の中には確かな自信が芽生えていた。ゴブリンが七匹いようと、今の自分なら問題なく対処できる。彼は口の端に笑みを浮かべ、銅の剣を握りしめた。躊躇は、ない。音を殺して背後から忍び寄り、最も近くにいたゴブリンの首筋を、力任せに薙いだ。


緑色の体液を撒き散らし、ゴブリンが一体、くぐもった声を上げて倒れた。それに気づいた残りのゴブリンたちが、一斉に奇声を上げて襲いかかってきた。明はそれを冷静に捌いていく。一体、また一体と、ゴブリンたちを斬り伏せていく。乱戦の中、一体のゴブリンが振り下ろした棍棒が腕を打つが、軽い衝撃が走るだけで痛みも傷もない。


最後のゴブリンを斬り伏せた時、明は軽く息をついた。戦闘の興奮で、身体が熱い。周囲に、むせ返るような血の匂いが立ち込めている。


「あ……あの……」


か細い声に、明ははっと我に返った。見れば、助けられたはずの少女が、恐怖に染まった瞳でこちらを見上げている。その視線は、明にではなく、彼が作り出した惨状に向けられていた。


「助けて、いただき……ありがとうございます……」


少女は震えながらも、必死に言葉を紡いだ。その声の震え、恐怖に歪む表情。これがゲームのNPCだというのか。ビヨンド・アヴァロンの技術力は、噂以上に凄まじい。


「わ、私は、エルと申します。もし、よろしければ……近くにある私の村まで、送っていただけないでしょうか……?」


「ああ、もちろんだとも」


明は、少しばかり芝居がかった仕草で胸を叩き、笑顔で応えた。


「任せておけ。村まで、俺が責任をもって送り届けてやる」



ありきたりの設定ですが頑張りますのでよろしくお願いいたします。

応援いただければ嬉しいです。

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