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1章12節閑話休題「静かな休日」

実はこういうのが好きなんです。汗

狩りに出ていない、穏やかな休息の日だった。


空はどこまでも青く澄み渡り、心地よい風が木々の葉を揺らしている。二人は、村から少し離れた場所にある、静かな湖畔の草原へとピクニックに来ていた。


「アキラ様、できましたよ」


エルが、敷物の上で手作りの弁当を広げる。硬い黒パンに、昨日アキラが獲ってきたばかりのホロロ鳥の燻製と、村で採れた瑞々しい野菜を挟んだ、ささやかなサンドイッチ。


しかし、アキラにとっては、これ以上ないご馳走だった。


「うまい」

「本当ですか? よかった」


エルは、心底嬉しそうに微笑む。その笑顔を見ているだけで、アキラの心は満たされていった。


灰色の日常では、食事などただの栄養補給のための作業でしかなかった。誰かと共に、こんなにも穏やかな日差しの下で食事をすることの幸福を、彼はこの世界に来て初めて知った。


昼食を終え、二人は草原にごろりと寝転がった。草の匂い、遠くで聞こえる鳥の声、肌を撫でる優しい風。アキラは、このまま時間が止まってしまえばいいと、本気で思った。


隣に横たわるエルの、穏やかな寝息が聞こえる。彼の視線は、無防備に投げ出された彼女の白い腕や、陽光を浴びて艶やかに輝く黒髪へと、自然と吸い寄せられていた。


村を救ったという、確かな自負。

有り余るほどの、若い活力。

そして、隣にいる少女への、抑えきれない愛おしさ。


アキラは、ゆっくりと身体を起こすと、眠るエルの上に、そっと影を落とした。


「……ん……アキラ、様……?」


目を覚ましたエルの瞳が、驚きに見開かれる。その唇が何かを言いかける前に、アキラの唇が、それを優しく塞いだ。


世界の音が、遠ざかっていく。


草の匂いと、肌を焼く太陽の熱、そして、絡み合う互いの吐息の音だけが、世界の全てになった。


風が、草原を渡っていく。湖のさざ波が、寄せては返す音を繰り返していた。


どれほどの時間が、過ぎただろうか。


世界が再びその輪郭を取り戻した時、エルは少しだけ気怠そうに身を起こすと、赤らんだ頬のまま、アキラの胸を軽く叩いた。


「……もう。こんな、外で……」


その声には、怒りよりも、恥じらいの色の方が濃かった。


彼女は乱れた衣服を整えると、汗ばんだ肌を気にするように、おもむろに立ち上がる。そして、少しだけ躊躇うようにアキラを振り返ると、湖の方へと歩いていった。


エルは、岸辺で器用に衣服を脱ぐと、ためらうことなく、その白い身体を湖の清らかな水の中へと滑らせた。


「……っ!」


アキラは、息を飲んだ。


陽光を反射してきらきらと輝く水面から、濡れた黒髪をかき上げるエルの姿。その白い肌を、水晶のような水滴が伝い落ちていく。それは、どんな芸術品よりも、アキラの心を強く揺さぶる、あまりに官能的で、神々しい光景だった。


一度満たされたはずの欲望が、再び、より強い熱を帯びて、彼の腹の底から燃え上がってくる。


やがて、水浴びを終えたエルが、濡れた身体に衣服を纏い、少しだけすっきりとした表情で戻ってきた。


「帰りましょうか、アキラ様」

「……ああ」


村への帰り道。


先ほどまでの甘い空気は、どこかへ消えていた。エルの足取りは、心なしか速い。


しばらく無言で歩いていたが、やがて彼女は、ぷくりと頬を膨らませて、アキラを振り返った。


「……あの、アキラ様」

「なんだ?」

「少し、乱暴すぎます……。それに、見てください。お気に入りのスカートが、草の汁でこんなに汚れてしまったじゃありませんか」


そう言って、彼女はスカートについた緑色の染みを、恨めしそうに指差した。その口調は、本気で怒っているというよりは、拗ねた子供のようだった。


その、あまりに愛らしい剣幕に、アキラは先程までの欲情が嘘のように霧散していくのを感じた。


そして、代わりに、どうしようもないほどの愛おしさと、申し訳なさが込み上げてくる。


「……すまん」


アキラが、心底しょげたように謝ると、エルはふいと顔を背けた。だが、その耳が、ほんのりと赤く染まっているのを、彼は見逃さなかった。


アキラは、そっとエルの手を握る。エルは、少しだけ抵抗するそぶりを見せたが、やがて、より強い力で、その手を握り返してきた。


二人は、もう何も言わなかった。

ただ、繋いだ手の温もりだけが、そこにある全ての答えだった。



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