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第九話 姉御を返せ。

最近思ったことなのだけれど、考えるって面倒だ。

そんな面倒ごとを絶えず行い、私たちの元へバトンが渡された。

ついに人類は死を克服し、永遠の命を手に入れた。


しかし、死ぬことを面倒だとだと捉えて排斥した私たちに未来はあるのか。

いつか思考すらもいらないと、動物に退化するのではないか。


とにかくだ。私は面倒ごとに巻き込まれている。生きる限り避けては通れない人間関係のトラブルに。


「それで何の用だい。手短に済ましてほしいけどね。」

私は髪先をいじった。

眼前には招集者のてきろとみくろがいた。


「手短にね。もちろんそのつもりさ。私だって時間は大事にしたい。

それでだ、うつろくん。もうみくろくんには話したのだけれど…。」


「…部活を抜けようと思うんだよ。」

てきろが口から出した言葉、想定内だ。


タダで抜けてくれる分には構わない。新たな人員を補充するのみだ。

しかし、この女豹は条件をつけて来る。

そういう女だ。


「残念ながら部活を作ろうと言ったのはむしろちゃんの方だ。君は彼女を悲しませる気かい?」

情は人間の弱点の一つ。


「私がその程度考慮していないと?」


「抜けるのは彼女と一緒にだ。」

!?

「むしろちゃんは死を行動原理としている。君と歩むことはない。」


てきろは追い討ちをかける。

「初めて感情を見せたねうつろくん。」


「君はみないふりをしているが彼女は“生”を求めている。普通を味わい、知識を得て、学生時代を、生きること楽しんでいる。死にたいなんてのも、君の思い込み…いや刷り込みに過ぎない。」


「…」


「だんまりかい。彼女の隣には私が相応しいと、認めてくれるみたいだね。」


「…意見の押し付けね。まだ今のむしろちゃんと心を割って話していないにも関わらず、皮算用を始めるだなんて。」


てきろは沸汁をぐっと堪えている。人の真意なんて変わりやすいもの、その確信が得られないのでしょうね。


「…アタシからもいいか、うつろ。」


みくろ、君が出て来るのは予想外。

満足していたように見えたのだけれど。


「アタシを勧誘した姉御を返せ。」


みくろの顔には静かな怒りが張り付けられている。


「返せ、と言われても…。返し方がわからないね、むしろちゃんは最初からああなのだから。」

「いいや、あんたなら知ってるはずだ。何十回と殺人を繰り返して記憶をいじれるあんたなら。」


てきろが横槍を入れる。

「1ヶ月前のむしろくんも素敵だ。しかし過去に囚われるのはよくないね。今のむしろくんのプリティさを消してまで昔の彼女を甦らせるべきだと?」

「可愛さなんて求めてねぇ。アタシがあいつに求めてるのはカリスマ性だ。」


首を傾げる。あの合理主義の化身は誰にでも都合の良い言葉を並べていただけ。実際死亡実験のときもほぼ独力で行っていたことを忘れたのか?


「はっきり言うけど、あのむしろちゃんは失敗作の怪物よ。私は好きじゃないわ。」

「人の脳いじくって失敗ですとか頭イカれてんのか。」


「だからアタシもむしろとともに部活を抜けてそれで昔のアイツに戻す。何回失敗してもアタシは元に戻して見せる。邪魔すんじゃねえよ。」


この短時間でここまで惚れ込ませるとは合理むしろ恐るべしだ。


「私は初めてあった時むしろちゃんが私の夢に導く存在だと知った。運命だと気づいた。その死を撮るために全生をかけるつもりさ。彼女の理想を叶えるために支える、まさに私こそが良妻だと思うがね。」


二人は首を横に振る。

若干イラつきながらも話を続けた。


「…どうやら皆むしろと行動を共にしたいらしい。仲良しこよしの部活ごっこはここで終わり。ではなにか勝負でもしようか。彼女をかけて。」


「勝負、いいね。私は乗ろうじゃないか。」

「もちろんだ。」


「勝負は来週のテストでよろしいかな?」

するとてきろが高笑いを始めた。


「勉学!!私とみくろくんの点数を足しても君に届かないことは自明さ!!」

「二倍しても危ういからな。」

自らの恥を晒す姿、愚かしいがやっぱり面白い。

手放さなければならないのが口惜しい。


「勝負は自分らの理想のプレゼンでいいだろ。誰の手を取るのか姉御が決めるべきだ。」

みくろが提案した案に決まった。

日付は期末テスト終わりの土日。

一応テストお疲れパーティということになっている部活動のイベントだ。


それまでは…

仮初の仲良しを続けなければならない。


やはり面倒だ。


「むしろちゃんにどう伝えようかな…。」




***

放課後、私とうつろで死亡実験の反省会をしていた時だった。

ちょうど新たな死の模索が煮詰まっていた頃、

彼女が突如口をついたのは考えもしなかった新たな希望。


「ええっ〜!!パーティ!!」

一際大きい声を出してしまい、周りから奇異の目で見られる。面目ない…。

エアコンが効くカフェにて提案されたのはなんとも魅力的なイベントだった。


「…みんなヒマらしくてね。そろそろ夏休み始まるし。さらなる友情を深めようと思って。」

うつろは肘をつき、疲れた顔をしている。きっと遅くまで勉強を頑張っていたのだろう。

偉いよ、うつろ!!


「そういうことなら私に任せて!!みんなで行きたい場所があるんだ!!」

すると彼女は目を丸くする。


「行きたい場所?」

私は自信たっぷりに答える。


「そう!!WION!!」

街からは遠いものの娯楽施設がなんでもある、学生の都こと大型ショッピングモール。

それは私のほのかな夢。死ぬまでに成し遂げたい夢。友達と遊ぶ理想の空間。普通の体現だ。


うつろは少し顔を伏せた。何かまずかったかな…。

私は心配になる。


「いいね、君の案を採用しよう。」

初めてうつろから肯定された気がする。


「え?本当!!」

「ああ、てきろたちにも伝えておくよ。」


「じゃあさ、めいろちゃんは!?ずっと部活に来てないけど、彼女も誘おうよ!!」


「…もちろん、誘っておくよ。」


めいろちゃんってどんな人なんだろう。凛々しい人かな、それともガーリーな人かな。ほとんど記憶はないけど。ただ大事なこと言われた気がする。


顔は朧げ。そもそも女の子だっけ。なんで私を手伝ってくれるんだっけ。

なんで、来ないんだっけ。


【まあいっか】

記憶にないものを思い出そうとするのはムダだ。


「よし、俄然やる気が湧いてきた!!テスト頑張るぞー!!」

「おー。」



そして、テストが終わり来たる日…。


7月12日。

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