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第八話 そうよ、私はシンデレラぁ〜。

「姉御、どうした!!」

「み゛くろち゛ゃあん」私は彼女に抱きついた。

夜あったことを彼女に伝える。


「ハハっそいつぁ大変でしたね。」軽く笑い飛ばした。

「わけわかんない!?正直記憶ないし…。」


ポケットの中に入っていたまずいお菓子をみくろにあげようとした。

「コレお店でもらったお菓子でさ、すっごいまずかったんだよね。なんというか食感がさぁ…」

ふと彼女に視線を配ると、酷く狼狽していた。


「なんにも…されてないよな。」

腕をがっしりと掴まれる。


「覚えてないけど、大丈夫だと思う。多分。」

その後、身体を大事にしてくれみたいなことを言われた。


はて、なぜなのかその理由を終ぞ把握できなかった。


学校につけばいつも通りの日常があった。

クラスメイトとの交流に、つまらない授業。

全てが張られた予定通りの日々。


ほのかな楽しみは放課後にある。


「ちゃーお!!」

張り切って部室のドアを開ける。


「…むしろくん!!その昨日は本当にすまなかった!!」

「いいって、あでもお金は返してね。」


「むしろちゃん、次こんなのどうだろうか。」

「ギロチン!?絶対高いやつじゃん。お手軽なのにしようよ!!」


みくろは今日も本を読んでいた。


とりとめのない会話、時間だけがすぎていく。

未来から見れば、この部活の日々はただの日常として消化されるだろう。

でも今だけは、金色に輝いている。


下校時間のチャイムが鳴る。

「こんなところかな、じゃあお開きにしようか。」

うつろがPCを畳んだ。


みな帰りの準備を始める。

私もカバンに筆記用具を入れ始めたその時だった。


「姉御、今日空いてる?」

みくろからのお誘いだった。


「え?毎日空いてるけど…」

そういうことではないらしい。


「行きてぇ店があってさ。その、姉御が一緒だったら心強いと思って。」

彼女は顔を赤らめていた。


「ちょっと付き合ってくれ。」

彼女の言葉に二人の変人が茶々を入れる。

「聞き捨てならないな、みくろくん。抜け駆けなど。恥を知りたまえ!!」

「そうよそうよ。いきなり“付き合ってくれ”だなんて。乙女の流儀レギュレーション違反だわ!!」


私は困惑するみくろの手を取り、部室を後にした。


「ここまでくれば…大丈夫でしょ。」

高身長ポンコツコンビに追い回されようやく振り切った。

「で、行きたい場所はどこなの。みくろ。」


「アタシが連れてきたかった店はここっす。」

学校から少し東へ徒歩20分足らず。裏路地を進んですぐ。

そびえ立つのは…


っコ、コンカフェ!?


「みくろちゃん、ってアレ!?」

もうそこにはいなかった。

ドアが開き手招きしていた。


(もしかしたらヤンキーの溜まり場になってて、私にお礼参りする気とか…。)

考えうる様々な不安が頭を埋め尽くす。


「おかえりなさいませ♡、ご主人様」

出迎えたのはでっかいメイドさんだった。


もうね、すっごいでっかい。

「まくろ、その人が姉御だ。丁寧に接客してくれよ。」


「はーい♡お姉ちゃん!!」

ええ!?


「姉妹なんですか!!」

「えへへ。ワタシが天蘭家次女の元気ちゃんこと♡まくろでーす!!」


みくろが私とタメってことは、

年下!?

中学生!?

まだ人間は遺伝子を司る神には勝てていないようだ。


「イヤだぁーーーーー!!!」

店の奥から絶叫が聞こえてくる。やがてみくろに引きずられて登場したのは…


「こら、挨拶しないさい!!ほくろ!!」

「その呼び方やめてって言ったじゃん。ほろろって呼んでよぉ。」

泣きっ面を見せたのはこれまたでっかい子。


「あれ、今日は怖くない。」

今日は?

引っかかる言い方だ。


「私、啓蒙ほろろって言います、よ、よろしくおねがいします。」

同じく2mはあるんじゃないかという彼女はほろろと名乗った。

根暗そうだが、その所作から几帳面な性格が窺える。


するとみくろが口を開いた。

「こいつは…天蘭 北魲ほくろ。舞黎まくろとは双子なんだ。」


おお。みくろ、まくろ、ほろろ。この三人を一緒に見るとなんたる身長差。これは推せる!!


それにしてもお店はガラガラだ。

大声で騒いでも叱られやしない。


「こんなに可愛いメイドさんがいるのに…」

「えー!!それってワタシたちのこと褒めてる褒めてるよね!!ありがと〜♡」


私はまくろにハグされた。

心地よい圧迫感。

ここがきっと極楽浄土に違いない。


「で…姉御をここに連れてきたわけなんだけどさ…。」

可愛く着飾ったみくろ。その面持ちはどこか重々しかった。


「…メイドにならないか?」

全然重くなかった。


「え、私がメイド!?絶対似合わないよぉ〜!!」

上ずる好奇心を必死に隠した。

「一回着てみよーよ、むしろお姉様♡!!」

「そこまで言われたら着るしかないよね!!」


クラシックメイド、その良さは媚びない長丈に垣間見える母性というエロチシズムにあると思う。衣に身を寄せる様から私はそう確信した。


「これが、私!!」

ドレッサーに映るのはなんたる絢爛さ。

自己肯定感がストップ高!!

「姉御は綺麗系だからな、十分盛れてると思うぜ。」


このまま出歩いて、周囲の視線を独り占めしたい。

そうよ、私はシンデレラぁ〜。


「えへへ。二人にも見せてあげよーっと。」

素早く自撮り、私のJK力も平均程度になっただろう。


「…ちょっとアタシの話を聞いてほしんだけどさ。」

「いいよ、なんだって聞いててあげる!」


「アタシ、好きな人がいるんだ。」

ええ〜恋バナ!!

相談相手私で合ってる?!

そんな経験全くないよ!


「…そいつぁアタシよりずっと強くてさ。おまけに仁義もある。でもどこか寂しさを背中に張り付けてて、ふっといなくなる一匹狼で。」


「笑う姿が綺麗だった。学ぶ楽しさを教えてくれた。アタシを…普通の女として扱ってくれた。」

その声は徐々に途切れていく。


「ほんのちょっと会わなかった。でも、もうアタシを覚えてなかった。それに丸くなって女を侍らせるようになった。それでもそいつからは昔の荒々しさのカケラを感じる。」


「姉御、アタシはこの先どうしたらいい。」


うーん、問いが難しい。

好きな男が性格変わっちゃったってこと?

変わることが悪だとは思わない。

個人の精神を尊重するべきだって思うから。


でも私だったら…

「私は変化も愛するよ。大分難しいけれど…。変わってないものもあるはずだから。」

ほんの現実逃避。


でもうつろだったら殺してでもリセットするんだろうな。


みくろの目が大きく見開かれ、なにか言葉を探すように口が少し動いた。

しかし、納得した。


「…姉御は、いいな。」

にやりと笑う彼女には夏色の風が吹き始めた。


夜が更けてきた頃、帰り支度をする。

ああ、ここから出れば私はただの学生に戻るんだ。

なんとなくシンデレラの苦境を偲んだ。


(まあ、私を迎えにきてくれる王子様はいないんですけどねっ)


「またきてくださいねむしろお姉様♡」愛嬌たっぷりのまくろ。

「は、はい。今のお姉様ならいつでも大歓迎です。」陰気なものの洞窟からの光を感じるほろろ。


「姉御、また来週学校でな。」見た目とは裏腹に優しさを染み込ませたみくろ。


「またね、今度はお客さんとして来るから!!」

そうして事務所から出るのだった。


今夜はオムライスを作ってみたいと思う。


(みんな可愛かったな。)


***


「姉さん、むしろさんって本当に前とおんなじ人?」

「…ああ。中身がちょっと変わっただけだ。」

みくろとほろろはグラスを片付ける。


「あのまま、大人になったら危うい感じもありましたけどね。」

「いんだよ。あの人のらしさってやつだ。」


「でも殺さなくてよかったんですか。」


皿洗いの手が止まる。


「殺すよ、いつか。長い時間をかけてでも、アタシを惚れさせたむしろの姉御に戻ってもらう。」

「反対!!ワタシは今のむしろお姉様の方が好きでーす。」口を挟むのは風呂上がりのまくろ。

「私も今のむしろさんの方が好きです。優しいし、簡単に押し倒せそう…。」

全くアホな妹たちだ。

ため息混じりに怒ってみる。

「テメェらうちの獲物に手ぇ出すな、口も挟むな。」

多少の独占欲を含みながら。


時計の針は20時を回っていた。

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