第七話 …なんで脱ぐ必要があるの?
ひょんなことから二人で遊ぶことに。
もう六月。ジリリとした暑さがあたりを漂っている。
「むしろくん暑くはないかい?」
「大丈夫よ、お気遣いありがとうね。」
16時を回ったというのに熱気は冷めることを知らない。
「さあ、ここだよ。」
てきろが連れてきたのは古びたカラオケ館。
街の外れにあり、その外装から繁盛していないことがわかる。
おそらく私は渋い顔をしていた。
しかし、散歩を急かす愛犬のように私の手を取るてきろ。
「大丈夫、私はアプリ会員だからね。」
不安100%。
しかし、それは期待へと裏返ることに。
「何ここ!!」
確かに古びた建物だったはずだ。しかしそこに広がっていたのはまるで高級ホテルのよう。
ゴシック感溢れる内装、豪華なデザインのインテリア。
【普通】じゃない=特別感。それが、その新しい世界が私を高揚させる。
「さあ部屋の鍵も手に入ったことだし、行こうかむしろくん。」
彼女はスキップしながら部屋へ案内する。
おお。
広い、私の家よりも格段に。
大きなテレビに、ベッド、シャワーもある!!
もはやここに住めるんじゃないか!?
「むしろくん、落ち着いてくれたまえ。今テレビに繋ぐから。」
てきろは慈愛に満ちた表情でこちらをみた。すこしばかり困り眉。
(へっ、いかんね、私としたことが。)
少し待っている間、机の上に置いてあった謎のお菓子を食べた。
正直な感想を言えばまずい。噛みきれないし、味がしない。
ぺっと吐き出すとてきろは青白い顔をしていた。
いささか行儀がよろしくなかったのだろう。
焦った私は話題を切り替える。
「てきろちゃんってすごいね。私この街に住んでるのにこんな場所知らなかった!!」
「そうでもないよ。…この場所は君との思い出の場所だから。」
短い髪をくるりと回した。
「私は、臆病だった。何も言い出せず、されるがままで。生きるってことが苦痛で
仕方なかった。」
私と同じだ、この先の永い苦しみから逃げ出そうとしていたんだ。
「…でも君が救い出してくれたんだ。だから私は君に生きてほしい、このくだらない世界で二人歩みだそうじゃないか!!」
結論がおかしい。
「なんでそうなるのさ!私は生きているなんてつまらない、だから死ぬんだ!!きっと前の私はそう言っていたはずだよ!!」
声を荒らげて主張する。
「いやぁ、前の君は『私と共に来い、生きよう。』って言ってたと思うけどナ〜」
彼女は髪をくるりと回した。
「納得いかない、記憶がなくなったって私はそんなこと言わない!!」
「いいや、言った。私は覚えているとも!!」
うつろは言っていた、チューニングに失敗したって、感情を無くした合理のかたまりだって。それって?
あれ、誰にでもクリティカルを出すなら言ってもおかしくないのか?
そんな軽い言葉で人を籠絡する悪女だったのか私は!!
首を横に振り、考えなかったことにした。
「埒が開かないわ!!こうなったら勝負よ、三本勝負!!」
「受けてたとうじゃないか、私が勝ったら今日はここで泊まってもらうよ。」
なんかズレてるけどまあいいや。
勝負は三回、私、てきろが選んだ勝負を一本ずつ。それと最後に受付のお兄さんが提案したゲーム。
・カラオケ採点(むしろ案)
・野球拳(てきろ案)
・愛してるゲーム(受付案)
「…なんで脱ぐ必要があるの?普通のじゃんけんじゃダメなの?」
「?盛り上がるだろう?」
一回戦「カラオケ対決」
「…私カラオケには自信があるの。」
一人で時間を潰すのにうってつけだった。
私はこの瞬間のために15年の蓄積を放出する。
79点
「…リズム感は良かったよ。」
てきろが慰みの言葉をかける。こ、心が痛い。
「…しかしだ。この勝負もらおうじゃないか私の歌にひれ伏したまえ!!」
堂々とした立ち振る舞い、クリアな声色、何よりもその声量。
天地を割るほどのオーケストラ。
ただ…
78点。
「くそぉーーーーーー!!!」
(あまりにもリズム感がなさすぎる。)
僅差で負けかけたことはさておき勝ちは勝ちである。
「次勝てば、私死ぬからっ!!」
余裕綽々で煽りを入れる。
「クックック。いいのかいむしろちゃん。」
「私は自分の気持ちには正直だ。君を生かしたい、その言葉は、この思いは変わらない。」
彼女のスイッチを押してしまった!!
二回戦「野球拳」
お互い7着身に纏っている。
ただの運、じゃんけんはいたってシンプル。
「「アウト、セーフ、よよいのよいッ!!」」
私はストレートに五敗した。気づけば上下の下着を残して全て…。
「…か、勝てる気がしない。」
てきろは高らかに笑う。
「ア〜っはっは!!初めて会ったときと変わらないな、君は運がない!!」
まるで考えが読まれているかのよう。こんな絶望は死ねなかったときと同じものだ。
「…これは提案だ。このまますっぽんぽんになるか、私に降伏して次のゲームに行くか選びたまえ。後者の場合、服はそのままで戦ってもらうことになるがね。」
彼女は笑う顔を隠さずそう告げた。
「ぐぬぬ」
私は後者を選んだ、戦う前から敗北が見えていたから。
互いにマッチポイント。
「さあ三回戦を始めようか。」
三回戦「愛してるゲーム」
ゲームの内容はいたってシンプル。お互いに“愛してる”と言い合い照れたり笑った方が負け。
(大丈夫、これは運なんて関係ない。)
私は自分を落ち着かせ、風通しの良い服装で勝負に赴く。
「君からどうぞ、さあ聞かせてくれたまえよ。君からの愛の囁きを。」
「わかったわ、言うよ。」
「愛して…」
突如として壁が破られる。
学生服をきた長髪の覆面が襲いかかってきた。
「あ」
「なっ」
フッ
彼奴は吹き矢を放ち、私の首筋に当てる。
うーんクリーンヒット。
「むしろくん!!」
てきろが心配してこちらに駆け寄る。
私は多分アラレもない姿で気絶せざるを得なかった。ぐう無念…。
私はまどろみの中へ落ちていくのでした。
***
「きちんと説明してくれたまえ、うつろくん。」
「説明してほしいのは私の方よ、てきろ。」
覆面を脱ぎ捨て正体を表したのは、うつろだった。
二人の蛇が睨み合う。
先に切り出したのはうつろだった。
「こんなハレンチな恰好をさせて君は一体何をするつもりだったのかな。」
「とても清らかな儀式さ。俗っぽくいえば、ゲームにすぎないね。友情を深めるためのね。」
「また手を変え品を変え…懲りない女ね。むしろちゃんはあなたの彼女じゃないの、いい加減諦めてくれない?」
「だからといって君のものでもない、彼女は私と生きるんだよ。」
「生きるだって?違うね、君はむしろちゃんを自分の伴侶にしようとしているだけだ。純粋な清水である彼女が穢れたらどうしてくれるんだ。」
てきろは激昂して返す。
「それの何が悪い!?きちんと段階を踏み、生の道をあゆもうとしている。それに私がやろうとしていることなどちっぽけな願いだ。お互いの剥製を作り合い、等身大の抱き枕を作るだけだ、むしろくんがこの程度で穢れるはずないだろう!!」
「それにだ、君こそ異常だ。四六時中カメラを回して、あげく位置情報まで特定し…。彼女のプライバシーの侵害だ!!」
「私がやるわけないじゃない。」
「ここにいることが何よりの証拠だ!!」
「むしろちゃんをこんなところに連れてきた人が言えることではないわ!!」
どちらも引き下がらない。
てきろが声を張り上げる。
「だったらじゃんけんで決めようか、当然私が勝つ。これは決定事項さ!!」
「人の運気を下げるズブ沼女と勝負する気はないわ。」
「決めるなら暴力よ。」
すると寝ていたむしろがうなされながら、
「ケンカはダメだよぉ。」
無意識であった。
しかしその発言は図らずとも二人の溜飲を下げる。
…
「命拾いしたわね。」
「それは君の方だ。」
二人はその場を後にした。
翌日むしろが延長料金を払わされるハメになった。
「ゲェ、万超えるの!?嘘でしょ!!」
二匹の雌猫の激闘は知る由もなかった。




