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第四十九話 うつろの末路

「【死】か……。あんまり考えたことなかったかなぁ。」


死すなわち生命活動の停止。


例えば、肉体を捨てて、データ世界に移行した場合、この世界から死亡したってことになるの?


例えば、なんらかの影響で記憶がなくなって二度と元の人格に戻らなかった場合、元の人格とやらは死亡したってことになるの?


「定義によると思うわ。」

それが私の答えだった。


ましろは少し考えた。

「合格です。」


彼女は淡々と言い放った。

急に何言ってんだ、と顔をしかめた。


「……フフフ、聞いて驚くことなかれ。君は保護観察から外されたのだ。」

「……保護観察?私何か悪いことしましたっけ。」


記憶にない。

学園時代か、それよりもっと前?


ダメだ、頭が痛い。


「待ちたまえ、別に思い出さなくていいんだ。言っておきたかっただけさ。」


「君の名前をピタリと言い当てられたのも事前に君のことを知っていたからさ。あの部室も今日だけ借りたものさ。」


彼女はタバコに火をつけた。

怒涛の種明かし。

私は口を開けることすらできなかった。


「上田 真白とオカルト研究会のことは忘れてくれ。某は他の任務に戻らなくてはならないのでね。」


彼女は街へ戻ってゆく。

今日という日が存在しなかったかのように。


「最後に名前を聞かせてください。次会えるかわかりませんから。」

「山霧 朧。とある市役所のしがない公務員さ。」


彼女は去っていった。

不思議な、不思議な出来事だった。


鮮烈でニューロンに染み付いていくようだった。


***


朧の発言が気になって、私たちの学園の事件とやらを調べてみた。


検索結果は0件。


(そんなことあるのか?)


我が学園は歴史も長い。

それが事件ゼロというのは、少しおかしいんじゃないか?


そう勘繰ったとき、電気が流れた。

脳からだろうか。


激しいプラズマが、脳を壊して行く。

なぜ??


絶命の直前。


『でも、途中でやめるなんてナシ。…最後までカメラに収めてね。』

『ああ。君も死ぬのをやめる、だなんて言わないでくれ。これは約束だ。』


それは彼女との会話。

私たちは二人で一人だったのに。


黄金の日が、流れて行く。


『ただいま、◯◯◯ちゃん』

『おかえり、うつろ。』


私の唇を奪ったのは、小柄な女の子。


『だから、再契約しましょ。私の死を撮って。』


私とめいろの確執を、溝を埋めてくれたのは、どこか空虚で儚くて、ちょっぴりおバカ。


「ごめんね。私が普通の女の子で。」

『いいよ。謝らないで。』


死を希望とする新しいヒーロー。

絶対諦めず、ただひたすらに後ろに突き進み続ける。


一点もののダイヤモンド。

それが壊れる瞬間を……私は撮りたかったのだ。


ああ、死んでいく。

未練が。


あ、しんでいく。


脳には未だ不明な点が多い、技術が進歩した今でもフルパワーの人間の身体能力はわからない。


でもわかっていることもある。

記憶は脳が司るということだ。


この夢を見たのは、上書きされた記憶は戻らないというルールを打ち破れ、との啓示なのかもしれない。

いや、ただのラッキーかも。


だがもうすぐ死ぬ。

意味のないクリティカルだ。


「ねぇ。」

頭の中で誰かがささやく。


誰かなんてまどろっこしい言い方はよそう。


むしろがつぶやいた。


「何?」

「うつろには一番お世話になったからさ。」


「私をあげる。」

「もう君には触れられないよ。」


むしろちゃんは死んだんでしょ?

彼女は答えない。


「ねえ。」

「何?」


「私たちって真逆だと思わない?」


そんなこと思ったことなかった。

むしろは死っていう失われた技術を、過去を全力で探してた。」


「でもうつろは、過去の映像を参考にしつつ、私という女優をどう活かそうか、どう撮ろうか、どう残そうかって未来について考えていた。」


「ああ確かに真逆だ。でも、いやだから惹かれあったのさ。」


私があの牢獄で、性格強制センターで君のことをどれだけ思っていたか知らないだろう?


「……行かないでくれ。」

「ええっ!?」


私は泣いていたんだと思う。

ほの暗い世界の中心で。


「止めたかった。多分、本当は。」

「うーん。そうは言ってもなあ。」


後悔先に立たず。

覆水盆に返らず。

後の祭り。


どうしようもないことを、未来の視点から悔やむことわざは、どの国にだってある。


私は君が、好きだったのだ。


「ダメ……だよ。」


君の全てを否定しても、私は君と……。


「ダメだってば。」


遠ざからないで。


「うつろちゃん!!」

ビンタ。


走る衝撃。


「うつろちゃんはッもっとイカれてるの!!」


「人の命だって簡単に奪うし、内心他人を見下すし、リベンジはきっちり果たす狂人じゃなきゃダメ!!」


私は妄想にまで諭されなければならないのか。


「君が、むしろちゃんが私の全てを変えたんだよ。」


腐っていた自分に、生きる目的を授け。

腐っていた関係を、永遠に続く友情に化かし。

腐っていた世界に、真実の夢を、あるべき姿を見せた。


私は照らされてしまった。

永劫に、私は君の光で目を眩ます。


「責任取ってよ。」

「……。」


「やっぱムリ。」


だって、これは私たちの『罪と罰』じゃない?


むしろちゃんは私に鎖をつける。


「罪ねぇ。」


人を殺したこと?

記憶を弄ったこと?

自らが何の罪を犯したのか、まったくわからないのだ。


「違うよ!うつろちゃんの罪は、私に本心を伝えなかったこと。」

「あ」


死んだら二度と会えない。

この世界じゃ起こり得ない現象。


「一生私を想って。夢を叶えて」


うつろちゃん。

私、あなたと会えて本当に良かったの。


このしがない世界であなたに出会えて私は幸せでした。


彼女は太陽のような笑顔で。

私は心は深海の如く。


終わりなのだ。

これで。


***


「むしろちゃん!!!」

私は病院で目覚めた。


医者に相談しても、

「夢?復元中は無意識というのが世界共通の見解なのだがね。」

とあしらわれた。


あれは一体なんだったのだろう。


それと、不思議なのは記憶があるということだ。

基本的にベッドでセーブを行い、死んだらそのセーブ地点からやり直す、というのが普通だ。


死ぬ前の記憶は残らない。

前のセーブ地点まで記憶が巻き戻るというわけだ。


だから不思議な夢なのだ。


(あのとき、私は彼女に言いたかったのは……)




***


2XXX年


◯◯県。

多数の学校に不法侵入し、自◯しそうな生徒を諭す女性がいると噂になった。


世論では彼女を「◯◯の義賊」「倫理者」だと英雄視、神格化するものがいる一方、早く捕まってほしい、学園の対応を急げとの反感の高まりも受けている。


奴は未だに捕まっていない。


◇◇◇


私は屋上の鍵を開ける。

まだ5月の初旬、でも風は暖かさを帯びていた。

ジリっとした日差しの下、私は──


柵をよじ登り、足をかける。

成功するのだろうか…

私は息を飲み、4階ほどの高さを飛び降りる。


いや飛び降りようとしたのだ。


「ねぇ」


背後から声がした。

もしかしたら最近噂の自◯止め女なのかもしれない。


胸が熱くなる。

だがしかし、私の決意は揺るがない。


でも、ほんのちょっぴりなんて声を掛けてくれるのか興味があった。

振り向くと…


少女はカメラを構えていた。


「撮影OKかしら。」


たなびく黒髪に、煌めく眼鏡、そして光を反射するカメラのレンズ。


「バッチグゥーです!!」

「なんなのよソレ。」


◇◇◇


うつろは永遠に彷徨う。

むしろ亡きあとの世界を。


彼女が蘇ることはない。

しかし、過ごした青春が色褪せることもない。

何度だってリプレイするさ。


私の叶わない夢。

それは


このしがない世界であなたと共に生きてみたかった。


そんな切ない思いを背負い、私は今日も戦う。

誰と?


彼女を忘れさせようとする世界とさ。


いつか変えてやる。

彼女の行いを間違いでなかったと証明してみせるさ。


最後までカメラに収められなかった私の責任だから。


保健室で交わしたいつかの友情。

死にたいあなたと、撮りたい私。


世の中に反抗したい一人の少女とそれを支える曲者たちの冒険の物語。

しがない世界であなたと。

これにて完結になります。

ご愛読ありがとうございました!!

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