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第四十七話 しがない世界であなたと

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。

「むしろくん、行き先は??」

「屋上!!」

「にしても敵が多いなァ。どうやったらこんなに狙われるんだよ、姉御。」

「むーちゃんのことだから、……とびっきりの大事件起こしたんでしょ?」


私たち四人は屋上を目指していた。


レトロは倒せたのだろうか、うつろやめいろは無事なのだろうか。

私は彼女らのことが心配でたまらなかった。


「発見、むしろ殺すべし。」

「コロセコロセ。」


意思を持たぬからくり人形が、次々と襲いかかる。


多勢に無勢。

戦える人間が少ない私たちにとって屋上に辿り着くことは不可能に思われた。


(これは無理かもな。)

諦めていたのは私だけだった。


「みくろ、8時の方向!!」

「あいガッテン。」

「もうすぐ三階だよ。上には気をつけて!!」


みんなが全力だった。

彼女らを突き動かすのは、何だろうか。


信頼か、愛情か、洗脳かあるいは執着。


「私も戦うよ!!」

今の私はむしろとむくろが混ざり合った状態。

きっと戦える……はずだ。


「だめだね!!」

てきろは叫んだ。


「アタシたちは姉御を守る。あのロボットの遺言だからな。」

みくろは喋った。


「むーちゃんを無事に屋上まで送り届ける。それが私たちの役目なんだ〜。」

そぞろは囁いた。


ただ私の思いとしては複雑だ。

このまま守られるお姫様で、一生を終えて良いものだろうか。


否。

可憐なお姫様とやらよりも、戦う王女様の方がカッコいいじゃないか!!


「みんな!!私も──!!」


冬。

廊下。


導かれる答えは……


強打!!

頭が割れそうなほど!!


「むーちゃん!!」

そぞろが駆け寄る。


彼女は胸元からガーゼを取り出す。

血は出ていないみたい……。


「足元には気をつけてくれたまえ」

「ここで死なれちゃ困るからよぉ」


……。

「ひゃい。」


自身を恥じた。

己の身勝手な行動が(実際は未遂であるが)ロスを生んでしまった。


守られたっていいじゃないか!!

私は精神的支柱だ!!

きっとそうだ!!


そう言い聞かせて、姫ムーブを続ける。


恥じらいこそあったが、私は彼女たちを信じる。


私を守ってくれる三銃士を。


***


「……着いた。」

屋上へ続く階段。


「むしろくん。この先は一人で行ってくれ。」

「姉御、ここは何人たりとも通さねえ。」

「安心して。むーちゃんの邪魔は誰にもさせないから!」


私は黙ってうなづいた。


いや、黙ってられなかった。


「みんな、本当にありがとう。」

三人とも私の方を振り返ってはくれない。


多分それが正解……。


「私みんなからいろんなもの貰ったよ。」


てきろからは、親友とも呼べる友情と普通らしい恋情を。

みくろからは絶対切れることのない家族愛を。

そぞろからは絢爛さや着飾ることの愉しさを。


「いっぱい、……いっぱい貰ったんだ。」


プレゼント。

返し切るには何百年かけても足りない私の初めて。


「ありがとう。」

私は声を出していたのだろうか。

本当に微かな声で、彼女たちに謝辞を述べた。


そして、黙ってノズルを回して、屋上へ歩んでいく。


これが彼女たちとの最後の会話。

今生の別とは、かくも儚いものなのか。


考えないふりを、……しなければならないようだ。


***


「ずるいよ。」

「ああ、そうだな。」

「……。」


残った三人は、むしろと出会えた喜びと別れなければならない悲しみに、その葛藤に一生苦しまなければならない。


忘れることは簡単だ。

だが、忘れてしまえば、誰がむしろという人物を存在したと承認できるだろうか。


決意が揺らぐから、振り返ることをしなかった。


その泣き顔はぐしゃぐしゃで。

今生の別とは、かくも心にまとわりつくものなのか。


後悔しながらも三人は戦うことを決めた。

たとえ戻らぬと分かっていても、未来を仮想して待ち続ける。


***


「……先生?」

「よお、待ちくたびれたぜ、むくろ。」


屋上に一人立っていたのは、元死活部担当顧問 「蒸鴫ふかしぎ 浪漫ろまん」その人であった。


だが異様なのは、


「なんで白衣なんて着てるんですか?」

「袴なんて買えないからよ。代用で白衣だ。」


間に合わせの白袴、つまり死装束ということらしい。

まあ浪漫先生らしいっちゃらしい。

(あまりにもテキトー!!おざなり!!)


「まあお話はこれくらいにしようか。」


丸腰で戦えるのだろうか。

またヘマしないだろうか。


私の胸中は不安でいっぱいだった。


「ルールは至ってシンプル。オレが死ぬ前にお前の考えを改めさせたならオレの勝ち。できなかったらオレの負けだ。」

手には包丁のようなものが握られている。


勝てるのか?

相手は凶器を持ってて私はステゴロ。

いや弱気になってどうする!!


ここまでみんなが舗装してくれた大路。

絶対死んでやる!!


「先生がどんな手を使っても考えは絶対曲げない。」

私はファイティングポーズを取る。

あってるかはわからないけど。


すると浪漫先生は

「?まあいいか。」


その短刀を


そのナイフを



その小刀を




自分の腹に突き刺した。


「な、なな、何してるんですか?先生」

「イッデェ……。こうでもしねぇとマジになってくんない、と思ってな。」

その白装束がじわりじわりと赤く染まっていく。


「……だいたい、三分。お前の、認識を変える。」


自刃、その傷は深く彼の命は長くないように見える。


これまでのように障壁を暴力で解決するのが手っ取り早い。

実際彼は死にかけだから。


しかし、なぜだろう。

全く勝てる気がしない。


「なぜお前は死にたがる?」

「……この世界に針を突き刺すため。証明するため、人間の本能が、死ぬってことが間違いじゃなかったって。」


「違うな。」

彼は私を指さした。


「オレが見てる限りお前はそんな生徒じゃない、本当のことを言ったらどうた。オレも死にかけなんだし。」


青ざめる。

もちろん先述の理由は私を形作ってきた一部だ。


しかし、全部ではない。

いやむしろ、もっと大部分を占めているのは……。


「目立ちたかった……んだと思います。」

誰にも打ち明けてこなかった想い。

それを今先生に話している。


「ふぅ。友達を作るためにか。」

「はい、そうです。」


私は声をかけてくれる人を探していた。

確かに自◯に抵抗はない。

けれど死にたい、わけじゃないのだ。


ただ私の一部が私の全てだと誤解されるようになって、ここまで積み上がった。


それをウソと片付けるには惜しいのだ。


私の本質。

それって多分……。


「先生、私やっぱり死にたいんですよ。」

「なぜだ。」


もし生きて行くならばこれまでの出来事は紙屑になる。

みんなの思いを無駄にする。


いや、そうじゃない。

私は伝説を見ている。

なぜ古代の人間は不死を追い求めたのか、生物を辞めてでも自らが生きていくことに固執したのか。


周りに死がありふれていたからだ。

恐怖が彼らに巣食っていたからだ。


だから私は死ぬ。

この世の中は死を忘れてあたりまえとなってしまったのだから。


「そこに何かがあるから!!」


感動。

忘れていた黄金の日を、死に、かけていた情熱を。

これが私のオリジン。

誰にだって汚されない私だけのアイデンティティ。


「あー……。もっと考えてからでもいいんじゃないか。人生は長い、楽しいことだって【いっぱいある】と思うぞ。」

「いいえ、私はここで死にます。」


確かに未来は楽しいこともたくさんあるかもしれない。


別に怖いわけじゃないのだ。

ただ自分のしたことの責任。


はっきり言って好き勝手やり過ぎたのだ。

有罪。


問われる私の人格。

秤にかけられて、私の実質的な死刑が完成する。

それは私、むしろの自我の崩壊。


それも【死】に変わり無いって?

いいや、自ら進んでやることと他人にさせられることが同じなわけないじゃん。


「好奇心は猫を殺す、か。」

彼は患部に手を当てた。

残された時間ははるかに短いだろう。


「考えが甘かった、というべきかな。」


彼は掻っ捌いた自らの腹を見つめた。


「あーもっと時間があればなぁ。生徒を生に導けるのになぁ!!」

彼は素っ頓狂な声で叫んだ。

傷口はどんどん広がっていく。


「なんど生まれ変わっても私が私である限り、絶対に死にますよ。」


浪漫先生は顔を手で覆った。


「オレが真っ当な教師だったら…、いやよそう。オレの負けだ。」


初めての勝利であった。

私は歓喜した。

ガッツポーズ。


他の人間がいたならばハグだってしちゃったり!!

だが、むしろの側には誰もいない。


「…今から言うのは負け惜しみだ。だが重要なことだ。死を知るオレしか伝えられない重大なことだ。」


「遺書を書け。お仲間に伝えたいことを筆で記せ。お前にはそれが必要だ。」


彼の顔は後悔に満ちていた。

負けを認める、それは人を、生徒を殺すことと同義だ。

その胸中は計り知れない。


でもね。

「私はちゃんと自分で考えたんだよ。先生のせいじゃない。」

「オレはお前を認めない……。バカな教え子だよ、お前は。」


でもそれ以上にオレがバカだった。


彼はその呪詛を皮切りに膝から崩れ落ちた。

臆病で、保身に走り倫理的に間違った教えを諭した。


浪漫はクズだ。

だが、生徒に再び自らを見直す時間を作った、これだけは評価されることだろう。


偉大なる教師は5リットルもの血を放出しながら逝ったのだ。


むしろはただ呆然と眺めていた。

浪漫が死んでいく様を、ではない。

まだ昼頃だ。


夕陽は落ちていない。


シャーペンで遺書を書く。

やけにすらすらと。


12月の中頃。

風はすっかり冷え込んでいて、手がかじかんでしまう。

ほのかな暖かさを放つ太陽の下で、私は伸びをする。


柵をよじ登り、足をかける。

成功するのだろうか…

私は息を飲み、4階ほどの高さを飛び降りる。



初めてうつろと出会った時変わりなく、人の注目を集めるために。


いや、違う。

彼女は彼女自身のために、その研究魂が、好奇心が、彼女の身体を軽くする。


イカロスもこんな気持ちだったのかな。


うつろが撮るわけでもない。

めいろが止めるわけでもない。


むしろはただ自分のために、

自らを殺した。

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